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231 カネコ、イタズラを仕込む。その3
しおりを挟む成り行きで怪しげな商隊と共に王都を目指すことになったワガハイたち。
その野営でのこと。
じつに意外なことに提供された夕飯はうまかった。
一行は料理人を帯同していたのだ。
複数の車両からなる大きな商隊ともなれば、参加するメンバーらの数も多くなる。
当然ながら、それらの腹を満たす糧が必要となる。
個々で用意すれば、それだけかさ張るし、ごちゃごちゃになる。
その点、担当の者に一任しておけば、もろもろの手間がかからない。
またここで手を抜くと、疲労が蓄積し、仕事にも身が入らなくなるから、中長期的にみても、きちんとした食事を摂取させたほうが効率がいいのだ。
「……というわけで、商隊ではわりと当たり前じゃな」
えらい学者先生から説明を受けて、ワガハイは「ほうほう」
ソロ活動が基本のワガハイ、受ける依頼の内容にもずいぶんと偏りがある。
これまで辺境のトライミングから他所の街や都市には行くことがなかったもので、このへんの常識がごっそり抜けていたりする。
夜の見張りは他の連中がやってくれるというので、お言葉に甘えて、ワガハイ達はそうそうに就寝する。
テント代わりにカネコドームを作って、さっさと先生と引きこもった。
翌朝――
お天気はあいにくの曇り。
う~ん、瞼が重い。ワガハイ、いまいちテンションがあがらない。
なんとなくやる気が起きず、毛はへにょん、髭もピンシャンしない。
ワガハイの経験上、こういう日は雨になることが多い。
ではどうしてそんなことがわかるのかとえいば、カネコがネコっぽい生き物だから。
ネコは水に濡れることを嫌う傾向にある。
そして野生の世界では雨天だと獲物も動かないから、狩りにならず。
だからそんな日は、朝から巣でごろごろ、ネコは文字通り『寝子』となり微睡ながら一日を過ごす。
とはいえ、いまは旅の途中。
眠い目をケシケシこすりつつ起床する。
「にわか雨が降らないか、ちょっと心配だにゃあ」
慌ただしく準備を整えて、商隊は出発した。
昨日よりもちょっと急ぎ足なのは、行程が予定よりもやや遅れているためらしい。
歩き始めて二時間ほどは順調であった。
雲行きがにわかに怪しくなったのは、とある峠道へとさしかかった時のこと。
片側が崖にて、道幅はほどほどに狭く、左へと大きく曲がっているがゆえに、後方からだと商隊の先頭の方が見えない。
これにより視界が分断されている。
しかも空の上からではこちらが丸見えにて、翼を持つ者にとっては絶好の襲撃スポット。
当然ながら警護の者らも用心しており、警戒を強めている。
すると悪い事は重なるもので、ここでポツポツと雨粒が降ってきた。
濡れるのが厭なワガハイは、すぐに魔法を発動し、自身を薄い膜で覆った。月旅行の際に開発した極薄宇宙服である。
宇宙服姿のカネコを目にしたえらい学者先生。
「いいのぉ、それ。ワシも欲しい」
と、しきりにうらやましがったもので先生に着せてやった。なおやり方についてあとで詳しく説明することも約束させられる。
先生は魔法学の権威にて、珍しい魔法には目がないのだ。
シトシトと降る雨が生ぬるい。
雨脚はさほどでもないが、周囲より山の気が立ち昇り、薄っすら靄まで出てきた。
ますます視界が悪くなる。
「……仕掛けてくるとしたら、そろそろかにゃあ?」
「であろうな。連中とてバカではない。王都に近づくほどにタマゴを取り戻すのがむずかしくなることはわかっているはずだ」
すると案の定であった。
急に商隊が停まり、前方の方で騒ぎが生じる。
そしてどこからともなく聞こえてきたのが「ケラケラケラケセラセラ……」という鳴き声。
ケラケラノドンの群れだ。
「先生!」
「おうとも」
相槌にてえらい学者先生が、ひらり。
カネコの背に飛び乗るなり、ワガハイは走り出す。
とはいえ、進路上には商隊の者らがいるので、おもうさまには駆けられない。
そこで――
崖とは反対側の急な斜面をシュタタタタと壁走り。
急ぎ、お目当ての荷車があるところへと向かう。
そうしたらすぐにケラケラノドンらに攻められて、立ち往生している先頭集団の姿が見えてきた。
現場は混乱しており、いい具合にみなの注意が上へと向いている。
そこでワガハイたちは事前に示し合わせていた通りに……
「あ~、敵だにゃあ~、たいへんだぁ~、すぐに追い払わないといけないのにゃあ~」
「お~、えらいこっちゃ! おのれ、ケラケラノドンどもめ~」
わざとらしい演技にて、台詞棒読み。
いかんなく大根役者っぷりを披露しつつも、「えいや」とワガハイが放ったのはカネコビーム(極小)である。
それよりもやや先行するようにして、えらい学者先生も光魔法を放つ。
いきなりピカッとしたもので、その場に居合わせた者らは「ま、まぶしい」と目を閉じたところで間髪入れずに――
ちゅど~ん!
爆ぜたのは鉄の箱っぽい荷車の屋根である。
カネコビームにてごっそり抉れるようにして吹き飛ぶ。
荷台があらわとなったところで、「カネコスラッシュ!」
シュバッと飛んだ風の刃が、狙いあやまたずに破壊したのは箱を封じているカギだ。
余波でパカンとフタがあいて、中のタマゴが丸見えとなった。
もちろん、すべてわざと……計算の上での行動だ。
襲撃のどさくさにまぎれて、「あっ、いっけなーい、ついうっかり」というイタズラ、もとい作戦である。
かくしてお膳立ては整った。
あとはケラケラノドンらが無事にタマゴを回収するのを待つばかり。
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