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230 カネコと魔獣のタマゴ。
しおりを挟む怪しい商隊の秘密。
連中が後生大事に抱えていたのは………………タマゴ!?
ワガハイは小首をかしげつつ、いったんその場を離れた。
たったいま見てきたことを報告するなり、えらい学者先生の表情がみるみる険しくなっていく。
「なにかマズイのかにゃあ?」
「マズイも何も、がっつり国の法に触れるとるわい」
「タマゴが?」
「より正確には魔獣のタマゴが、じゃがな」
「???」
タマゴはタマゴであろう。
なのにどうしてそう目くじらを立てるのか。
そんなワガハイに、えらい学者先生が「はぁ」と嘆息する。
「あー、おぬしはおもに都市内の依頼ばかりをこなしておったんじゃな。だから知らなかったのか……。じつは外部から居住区に魔獣のタマゴを持ち込むことは、禁じられておるのじゃ」
その理由は、ずばり親がぶちギレるから。
大切なタマゴを盗まれた親は、当然ながら取り返そうとする。
バレずにすめば上々、振り切って逃げられたら儲けもの。
だが、ドジを踏むと今回のように親だけでなく、所属する群れからも、しつように追われ続けることになる。
そんな状態で街などへ立ち寄ろうものならば、騒動がいっそう拡大する。
より最悪なのが、怒りで興奮した親御さんらに触発されて、他の魔獣たちまでもが釣られて動くこと。
タマゴ泥棒が発端となり、スタンピードを誘発しかねない。
そうなったら被害甚大にて……
「だから原則、魔獣のタマゴを人里へ持ち込むことは禁じられている。どうしても必要な時には、事前に役所に届け出てから、冒険者ギルドに依頼して、しかるべき専門の採集者に頼むことになっている」
手続きは厳格にて、時間と手間がかかる。
間にギルドを挟み、かつ特殊な技能を持つ熟練者に指名依頼を出すので、依頼料はドドンと跳ね上がる。
正規のルートだと、そこまでしないと手に入らないのが魔獣のタマゴ。
では、どうしてそうまでして欲しいのかといえば、珍味として好事家らの間では珍重されているから。
「栄養価はとても高く、殻は万病に効く希少な薬の素材としても重宝されており、味もまぁ……たしかに旨い。
が、国や民草を危険にさらしてまで手に入れるほどの品ではない。
だから国が管理しようと制度を厳格化したのじゃが、それがかえって仇となった。市場での魔獣のタマゴの価値を高めてしまったんじゃ」
商材としては、とっても魅力的。
一攫千金も夢じゃない。
さりとて正規の手順を踏んでいては利ざやが減って、旨味がない。
ゆえに、よからぬことを考える輩がちょくちょく湧く。
その湧いた輩というのが、今回はこの商隊を率いる商人であったと。
「おおかた、どこぞの金持ちの美食家にでも頼まれたのであろうが、さすがにコレはマズイのぉ」
何がマズイのかって、商隊が向かっているのが、よりにもよってエスカリオ国の王都だからだ。
王都なので万全の守りを敷いている。
高くて頑強な壁に囲まれているし、背後には蒼き山嶺――ブランカグア連峰がある。
屈強な兵士らが多数詰めており、対空結界も幾重にも施されてあるから、いかに翼を持つケラケラノドンとて、侵入するのはむずかしい。
それをも見越しての今回の密猟なのだろう。
王都に逃げ込んでしまえばこっちのもの、シメシメ。
とか考えているっぽい。
だけど……
「そう、うまくいくのかにゃあ?」
なんといってもこの世界にはレジメ板なる、とてもやっかいな魔道具がある。
あれにかかれば個人情報なんぞはだだ洩れ。悪事に加担していたら、たちどころにバレてしまう。
王都の出入り口を見張る衛士たちの存在も忘れてはならない。
門番たちは国からの信任厚い選ばれし精鋭たち。
職務に忠実で賄賂の類はまず通じない。
荷を検められたら一発で露見するだろう。
そんな疑問をワガハイがつらつら口すると、「ちっ、ちっ、ちっ、甘い甘い」とえらい学者先生。
あらかじめ正規の書類を入手しておく。もしくは精巧なニセモノを用意しておき、これを門番に提示する。
さもこの品はちゃんとしたルートで手に入れた風を装い、堂々と門を通る。
あるいは魔獣のタマゴを獣のタマゴに偽装する。
運び屋を雇い、第三者の手を経て王都内に持ち込ませることで、レジメ板を誤魔化す。
もちろん、より成功率をあげるために併用もありだ。
――えっ、そんな簡単なことでどうにかなるの?
との疑問はごもっともだが、じつはこれが可能だったりする。
ようは善意の第三者を仕立ててしまえばいいだけのこと。
事前に何も知らされず、犯罪に加担している自覚はなく、なんら後ろ暗いこともなくて、単に頼まれた荷を運んでいるだけ。
そのように当人が信じきっていたら、少なくともレジメ板に不審な情報は表示されない。
なんら怪しい態度もみられないから、衛士たちも訝しむことなく……
まぁ、ごちゃごちゃといろいろ述べたが、ようはやろうとおもえばやれないことはない、というお話。
「ふ~ん、だったらワガハイたちが入場審査のときに、門番たちにバラしてやればいいのにゃん」
「それでもかまわん。じゃが、それだと王都にまでケラケラノドンの群れを誘き寄せることになる。その時点で重罪に問われかねんぞ」
「えーと、そこはそれ、先生の御威光でもって……」
「……ムリじゃな。王はともかく、王妃は公私混同はせんぞ。むしろ下手に借りなんぞを作ったら、ここぞとばかりにこき使われ尻の毛までむしりとられるぞ。あれはそういう女じゃ。
だからの、もしも次に襲撃があったら……」
えらい学者先生、なにやら妙案を思いついたようで、ごにょごにょ耳打ち。
それを聞いてワガハイもにへら。
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