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229 カネコ、箱の中身を見る。
しおりを挟む怪しい商会の主人が率い、怪しい警備の者らが守っている、怪しい商隊。
ワガハイたちは臨時に雇われた身なので、警備体制の邪魔にならないように、商隊のやや後方からついていく。
なおカネコモービル・エボルヴは収納し、面倒だけど徒歩で付き合う。これは商隊と足並みを揃えるためだ。
えらい学者先生を背に乗せ、ワガハイはのしのし歩く。
にしてもである。
いったん疑いの目を向けてしまうと、何をするのもうさんくさく見えてしまうから困りもの。
おかげで、ちっとも気が抜けやしない。
先のケラケラノドンどもの襲撃では軽傷者が出たものの、全体としては被害が軽微にて、商隊の歩みに問題はない。
しかし……
「なにやら視線を感じるにゃんねえ」
「うむ。どうやら見張られておるようじゃな」
視線の主の姿は見えない。
わずかに気配を感じるのみ。それすらもぼやけており、位置の特定はむずかしい。
おそらくはヒトのそれではなくて、野生のもの。
どうやらケラケラノドンの群れの見張り役のようだ。
「んにゃあ~、なんとなく視線の主が気にしているのは、あの荷馬車のような気がするのにゃん」
視線が集中しているのは、七両あるうちのひとつ。商人が乗っている豪華な馬車のすぐうしろに並ぶ荷車だ。
鉄の箱にて、やたらと頑丈な造りをしている。
中にはさぞや貴重な品が入っているのだろう。
「寝る、喰う、飛ぶ事にしか興味がないといわれるケラケラノドン……その群れがしつように追う品は、どうやらあそこにあるようじゃな。何気に警備も他より厚いし。
う~む。訊ねたところで素直に答えんじゃろうし、どうにかして確認出来たらいいのだが。
のぉ、ワガハイ。おぬしの目で視ることはできんのか?」
えらい学者先生がアゴの白髭をしごきながら、そう言うもワガハイは首を横に振る。
「さすがに透視能力はないのにゃあ~。っていうか、ないよね? たしか、ないはず……」
自分のことなのに、いまいち自信がないのは、ワガハイが寄宿生物カネコだからである。
よくわからない生き物にて、そのくせハイスペック、なのに怠惰すぎて絶滅の危機に瀕している。
転生させた神さまからの説明もなかったし、こちらの世界に転生してから、ワガハイは他のカネコと遭遇したことがない。
鑑定さんで自分を調べてみても、ろくな情報はでてこない。
モノグサな希少生物であるがゆえに、図鑑などにも記録がない。
よって、すべてが手探り状態……それはいまなお続いてる。
だから、ちょっと試してみることにした。
「ムムム、透けろ、透けろ、スケスケ~」
ぶつぶつ念じながら、額にある第三の目に意識を集中、集中、集中……
そうしたら、チョロっと出たのはカネコビーム(極小)であった。
シュビビ~ンとのお漏らしにて、危うく監視対象を吹っ飛ばしそうになる。
あわてて顔をそむけたので、大事には至らなかったものの、明後日の方向にてドカンとの爆発が生じたもので、商隊全体がざわつく。
「な、なんだ! 襲撃か?」
警備の連中があわてて武器を抜き、陣形を整えては警戒し、キョドキョドしている。
それを申し訳なさそうに眺めているワガハイ。
えらい学者先生は「ぴゅうぴゅう」口笛を吹いては、素知らぬ顔にて。
どうやらバレずに済んだようだ。
なのでワガハイたちはそのままとぼけることにした。
〇
篝火を焚き、歩哨を立て、テントを設営し、簡易窯にて調理する。
今夜は野営にて、一行は最寄りの街には滞在せず。
その気になれば余裕で門限に間に合ったのにもかかわらずだ。
まぁ、商隊の規模を考えれば、下手に街中へと入ったところで、人数分の宿や馬車の置き場所を確保できない可能性もあるので、あながたちおかしな選択ではない。
けど……
「ちょっと引っかかるのにゃあ~」
「じゃな。わざと避けているようにおもえるわい」
「そうなると、やっぱり気になるのはあの荷車の中身だにゃん。
……というわけで、ちょっと見てくるのにゃあ」
言うなり、ワガハイは暗がりでカネコインビジブルを発動する。
説明しよう。
カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。
とはいえSF作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。
ワガハイの姿が暗がりにぼやけ、たちまち宵闇に溶けて消えた。
で、差し足、忍び足にて警備の網を潜り抜けては、荷車へと近づく。
するとちょうど都合がいいことに、商人が「おい、例のモノに異常はないか?」と声をかけたので、担当の者が扉のカギを開けて中を確認するという場面に出くわした。
ふたりの背後からのぞいてみれば、荷台にあったのは箱ひとつ。
商人が持つカギで箱の封を開けると、そこには迷彩柄の大きなタマゴが……
鑑定さんに「あれ? 何にゃん」と訊ねたら、『ケラケラノドンのタマゴ』とのことであった。
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