寄宿生物カネコ!

月芝

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225 カネコ、荒野の決闘!

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「こんなシケた宿じゃなくて、自分のところに来ないか? 盛大に歓待するぜ」

 という、ハポーザからの申し出を断り、気に入った宿で一晩のんびりと過ごした翌早朝のこと。
 ハポーザの手下が迎えにきた。
 ワガハイは心配そうにしている宿の店主と娘さんに「大丈夫なのにゃん。大船に乗ったつもりでゆるゆる朗報を待つのにゃあ~」と告げてニカッと余裕の笑み。
 店主らに見送られて宿をチェックアウト。
 なお、そこにえらい学者先生はいなかった。

 昨夜のことだ。
 ハポーザらが引き揚げた直後に、先生は「ちょっくら野暮用で出かけてくる」と姿を消して、それっきり。

(……あのイタズラ爺さん、『ワシに考えがある』とか言ってたけど、いったい何をたくらんでいるのやら)

  〇

 案内されるままについていけば、到着したのはとある酒場である。
 西部劇に登場するような外観と内装にて、ここはハポーザの経営している店のひとつで、もっぱら彼の関係者らが集まっては、相談事をしたり、とぐろを巻くのに利用されているんだとか。
 到着すれば、すでに酒場には大勢詰めかけている。
 みなハポーザ側の者ども。
 ここで一席ぶって、決起集会をしてから、いざ荒野へ!
 という段取りなんだと。

 配られた酒杯片手に、ハポーザの演説を適当に聞き流す。
 街の今後の発展を願って~とか、もっともらしいことをのたまっているが、ゲスい損得勘定が透けて見えており、拝聴するに値せず。
 でもって、ここに集っている連中も同類である。
 だからワガハイはさっさと杯を空けては、バーカウンターへと向かい「へい、マスター。いちばん高い酒を」
 多少でも連中の財布にダメージを与えるべく、グビグビ。
 とはいえ、酔っ払っては満足に仕事ができない。
 仮にも決闘なのだから、きっと相手方――マオンペラーダ組も相応に腕の立つ代理人を用意しているはず。

「だからほどほどにして、油断せずにいくのにゃん。うぃ~、ひっく」

 高級酒のビンを二本空けたところで、ようやく決起集会は終わった。
 にしてもハポーザのヤツ……話がムダに長い。
 そのくせ、たいしたことを言ってない。
 部下から嫌われる上司の長話の典型にて、ワガハイはテンションだだ下がり。せっかくのほろ酔い気分も台無し。

 決起集会が終われば、ゾロゾロと連れ立って街を出る。
 いよいよ決闘の舞台となる荒野へと向かう。
 馬車だと三十分ほど、歩けば一時間ぐらいかかる距離。
 微妙に遠くて不便だ。
 が、あんまり街に近いところだと、いらぬ横槍が入るおそれがあるとのこと。

 誰がちゃちゃを入れるのかといえば、代官サイドだ。
 此度の街の再開発を巡る騒動において、代官は漁夫の利を狙っている節がある。
 散々に面倒事を押しつけ、汚れ仕事をやらせておいて、いざという段になったらすべてを没収されるとか、冗談ではない!
 だから、今回のイベント会場は荒野に設定した。
 ここならば周囲に伏兵をしのばせる場所もなく、また街から追捕の手を差し向けようとしても到着までに時間がかかる。
 その分だけ余裕があり、対処がしやすい。

 荒野には先客がいた。
 マオンペラーダ組だ。
 初めて目にするマオンペラーダという人物。
 太鼓腹で小太りの獣人にて、どことなくタヌキを連想させる容姿をしている。
 ハポーザがキツネで、マオンペラーダがタヌキとは……なんともはや。
 ワガハイはおもわず「ぷぷぷ」と笑いそうになるのを、ぐっとこらえてのすまし顔にて。

 胸をそらしては尊大な態度にて対峙するハポーザとマオンペラーダ。

「おい、ハポーザ。そっちの代理人はソイツか? まさかとはおもうが、本物のシシガシラじゃねえよな?」
「もちろんだ。たしかに似ているがちがう。トライミングのギルドに登録されている、れっきとした冒険者のワガハイさんだ。
 ところでマオンペラーダ、おまえの方の代理人はどうした? まさかてめえが自分で戦うとかふざけたことを言うんじゃねえだろうな?」
「もちろんだ。ちゃんと用意してあるぜ。では、先生、お願いしやす」

 マオンペラーダが声をかけるなり、後方の集団が割れて、ひょこひょこと姿をあらわしたのはフード付きのマント姿に棍(こん)をもった御仁である。
 頭からすっぽりとフードをかぶっており、顔はわからない。
 だがその格好からして魔法使いのようだ。

 えっ、魔法使いならば杖とローブじゃないの?

 ノンノン。
 この世界の魔法使いは杖よりも、魔法の発動を手助けしてくれ、かつ威力をあげる加工が施された特殊な棍を好んで使用する。
 いざという時に接近戦のひとつもこなせず、なおかつろくに走れない魔法使いなんぞは、現場ではクソの役にも立ちはしない。魔力切れを起こした時のために回復ポーションや、魔力を充填している電池代わりの魔晶石を携帯するのも常識だ。
 ゆえにこの格好が魔法使いの定番なのだけれども……

 マオンペラーダが用意した代理人は小柄にて、心なしか足取りがモタついている。

(んんん? もしかして……けっこうお年寄りなのかにゃあ)

 そんなご老体に決闘の代理人なんぞ務まるのであろうか?
 ワガハイが訝しんでいたら、フードの人物がボソボソ。
 いったい何を言っているのかと、ワガハイがカネコイヤーを発動して聞き耳を立てたら、聞こえてきたのは……

「おまえさんの耳なら聞こえているはずだ。よいか? 決闘が始まったら、何もせずにじっとしておれ」

 との声。
 聞き覚えのある声にて、誰かとおもえばえらい学者先生であった。


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