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224 カネコ、用心棒に雇われる。
しおりを挟む多数の手下を従えているハポーザという男は、痩せぎすで、やたらと目がギラついているキツネっぽい獣人であった。
やられた部下の仇討ちにあらわれたのかとおもいきや、さにあらず。
ワガハイをひと目するなり。
「ほぅ、こいつはたまげたぜ。逃げ帰った連中が『シシガシラっぽいのがいる』なんぞと言うから、いったい何の冗談かとおもったら、たしかにこりゃあ……」
最近、減ってきたけど、いまでもたまに言われる。
ワガハイも図鑑でしか知らないのだけれども、すくなくとも掲載されていた絵とカネコは似ても似つかない。
なのにどうして誰も彼もが、「そっくし!」と指差すのかワガハイは理解に苦しむ。
不躾な物言いと視線にワガハイが内心でムカついていると、ハポーザが言った。
「あー、そんなに身構えなくていい。べつにあんたらを取って喰おうだなんて気はねえから。それよりも、おまえさん、けっこうな腕っぷしなんだってなあ?
ものは相談なんだが、ちょいと助っ人をやらねえか? 報酬ははずむぜ」
街の再開発に絡んだ土地利権。
これを巡って、現在、ふたつの勢力が争っているのは、この街の住人ならば幼子でも知っていること。
互いを天敵と見なしいがみあっている、東のハポーザ組と西のマオンペラーダ組。
いよいよ大詰め、待ったナシの状況にて。
しかしこのまま正面衝突をすれば、双方共倒れというパターンもありうる。
もしくは、双方が弱ったところを代官や役所が取り締まりに動いて、まんまと漁夫の利を得る……な~んてことにもなりかねない。
それはさすがに業腹だ。
さりとて仲良くパイを分け合うだなんてガラじゃない。
――こと、その一点に関してだけは、双方とも一致している。
そこでハポーザとマオンペラーダは協議の末、双方が代理人を立てての決闘にて、平和的に白黒つけることにした。
勝った方が土地利権は総どり。
ただし、これまでにかけた手間賃として、決闘にともなう賭場の売上は残念賞として、負けた方が丸っと貰えることにする。
この話を聞いて、ワガハイは「どこが平和的なのにゃあ?」とおおいに首をかしげずにはいられない。
でもって面倒事はごめんなので、早々に断ろうとしたのだけれども、ハポーザから提示された報酬の内容がちょいと魅力的にて。
もしも助っ人を引き受けてくれたら――
勝敗にかかわらず、報酬は支払う。
勝てば、さらに追加の報酬も出す。
ばかりか、お世話になっている宿屋の店主の借金を棒引きにして、立ち退き話は……さすがにナシにはできないから、代替え地として一等地を用意する。希望するのならばそのまま宿を移築してもいい。
破格の条件である。
というか、あまりにも厚遇すぎる。
何か裏があるのでは? とワガハイが訝しんでいると、ハポーザがにやり。
「なぁに、蛇の道はヘビってな。トライミングに珍妙な冒険者がいるっていう風のウワサを小耳に挟んでいたのさ。
見た目はシシガシラっぽくて、掃除だの害獣駆除だのといった依頼ばかりチマチマ受けているが、いったんキレたら手がつけられない……ってな」
「――――――」
知らないところで不本意かつ誤ったデマが広まっていた! ワガハイ、ちょっとショック。
マスコットキャラクター化を目指し、辺境の都市でこつこつ、がんばっていただけなのに、しくしく。
まぁ、それはさておき。
決闘の代理人の件だ。
はてさて、どうしたものやら……
逡巡していると、これまでワガハイのうしろに隠れるようにして、ずっとダンマリを決め込んでいたえらい学者先生がチョンチョンと小突いてきて、こそっとささやいた。
「引き受けるがよい。ちとワシに考えがある」と。
チラッとみれば、悪い笑み。
どうやらえらい学者先生は、この代理決闘にかこつけて、何かを仕掛けるつもりのようである。
盗人村の時もそうであったが、この好々爺……じつはけっこうイタズラ好きなのかもしれない。
ワガハイは決闘の代理人を引き受けた。
決闘は明日の正午、街はずれの荒野にて行われる。
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