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223 カネコ、借金取りを追い払う。
しおりを挟む少額だったはずの借金が、あれよあれよという間に利子で膨れあがっていた!
返済が滞りだしたところで、「おうおう」と借金取りの野郎どもが押しかけては、追い込みをかけて根こそぎ奪う。
よくある性質の悪い高利貸しの手口である。
その現場を目の当たりにしたワガハイは……
「邪魔にゃ! カネコパンチ」
宿屋の店先にたむろしていた連中をポコポコ殴り飛ばした。
問答無用である。
あまりの理不尽大王っぷりに、これには借金取りの男たちも「えぇー」
表に叩き出された連中は、なおもブーブー抗議をしてくるも、ワガハイはこれを「シャーッ!」と威嚇して黙らせる。
すると「ちくしょう、おぼえてやがれ~」というお約束の捨て台詞を残し、借金取りたちはほうほうの体で逃げて行った。
邪魔者たちがいなくなったところで、宿の受付をすませる。
その際に店主からは「ご迷惑をおかけしてもうしわけありません」と丁寧にお礼を述べられた。
宿はこじんまりとしたペンション風にて、全体的にムリして飾らず、落ち着いた雰囲気にて、居心地はたいそうよい。
まるで実家に帰った時のようにリラックスできる。
良心的な価格に、掃除の行き届いた客室、お日さまのニオイが薫るシーツ、派手さはないけど味わい深い手料理、かわいい看板娘などなど……
いい宿である。
初日に泊まったクソ宿とは雲泥の差だ。
ワガハイはとても気に入った。あちこち旅をした経験があるえらい学者先生も太鼓判を押す。
でも、それほどの宿だというのに……
「ワガハイたち以外、宿泊客がいないのにゃあ~」
「おそらくは、さっきの連中のせいじゃろうのぉ。客が宿に寄り付かないように、余計なまねをしておるのじゃろう」
「……迷惑な話にゃあ。あんなのがのさばっているなんて、ここの代官は何をしているのかにゃあ~」
エスカリオ国は王政にて、王さまから任命された統治官が各地に派遣されて治めている。
トライミングみたいな大きな都市の場合は領主が、規模が小さな街には代官が置かれている。
当然ながら預かっている土地でトラブルが起きれば、その地を治める者の責任問題となる。査定はけっこう厳しくて、領主や代官が例え高位の貴族籍であろうとも一切の忖度はない。適正がないと判断されたら容赦なく解任される。
けれども逆に能力や実績さえ認められれば、平民だろうが移民だろうが、ドーンと出世できちゃうのが、この国のいい所だ。
だからこそ、あんな悪徳高利貸しどもが我が物顔でのさばっているのが、不思議なわけで……
これにはえらい学者先生も「たしかにヘンじゃのぉ」と首を傾げる。
そうしたら男手ひとつで幼い娘を育てながら、宿を切り盛りしている店主がその辺の事情について教えてくれた。
「じつはこの街ではいま再開発計画が進んでおりまして」
新たな区画整理にともなう、土地利権のあれやこれや。
そのおこぼれにありつこうと群がっているのが、先ほどの男たち。
ようは借金の担保として土地を召しあげ、それを転がして、大きな利を得ようとの魂胆である。
なにやらどこかで聞いたような話にて、ワガハイは「ふ~ん」
でも、それと代官が連中の行動を見て見ぬフリするのは、また別の話である。
「もしかして、ガッポリ賄賂をもらって、がっつり癒着しているのかにゃあ?」
裏で手を組んでは、「くっくっくっ、越後屋、おぬしも悪よのぉ」「いえいえ、お代官さまにはかないませぬ」なんぞと高級料亭でほくそ笑んでいる。
そんな姿をワガハイは妄想するも、「いえ、ちがいます」と店主から即座に否定された。
「組んでいるわけではなくて、あえて放置しているようです。その方が今後の計画が進めやすいですから」
立ち退き交渉は、とってもたいへん!
だから連中に泥をかぶってもらい、露払いをさせては、キレイになったところで役所が動くというつもりのようである。
こうすれば面倒なもろもろを一括で済ませられる。
なかなかにズル賢いやり方である。
「そんなわけで、役所に訴えてもろくに取り合ってもらえなくて。ですが他にも困ったことがありまして……」
甘い汁を啜ろうと群がる連中。
当然ながら競争が起きた。
で、競い合ううちに離合集散をくり返しては、淘汰されていき、ついに残ったのがふたつの勢力。
街の東側を縄張りにしているハポーザ組と、西側を縄張りにしているマオンペラーダ組。
今回の利権、勝てば総どりにて、組の命運を左右しかねない。
だから激しくしのぎを削っては、相手を蹴落とそうと躍起になっている。
ちなみにここの宿がある界隈にちょっかいを出しているのはハポーザ組の手の者とのこと。
「なにやらややこしい時に、ややこしい場所に立ち寄ってしまったようだにゃあ~」
「じゃな。しかし、そういう事情であれば、追い払った連中がこのままおめおめと引き下がるとはおもえんのぉ」
先に手を出した手前、あとは知らんぷりというわけにもいかない。
だからワガハイが「しょうがにゃいから、あと腐れがないように、夜更けになったらまとめて根切りにしてくるのにゃあ」と口にしたところで、チリンチリンと受付のベルが鳴った。
先に述べた事情にて、現在、この宿には客が寄り付かない。
だから訝しみつつも、店主が様子を見に行ったとおもったら、すぐに泡を喰って戻ってきた。
「た、たいへんです! ハポーザ自身が手下を従えてやってきました」
まさかのボス登場。
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