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222 カネコと老人の旅、三日目。
しおりを挟む壊滅した盗人村にちょっとしたイタズラを仕掛けてから出立する。
森を抜けてさらに渓谷沿いを西へと進む。
険しい地形がじょじょに緩やかになっていき、幅や高さもほどほどに。
どうにか自力で向う側へと行けそうなところにまできたところで、地魔法で橋をかけて渡った。
えっ、そんなことが出来るんだったら、最初っから橋をかければよかったじゃないの?
「ノンノン。それはムリにゃあ~」
なぜなら橋ってば、とってもデリケートな建築物だから。
小さい橋を架けるぐらいならばともかく、ある程度以上の規模ともなれば、きちんと構造計算をして建てないとたちまち崩壊する。
ポコポコ気軽に作れるカネコドームとはちがうのだ。
無事に橋を渡り終えたところで……
「この橋どうするかにゃあ? 片付けておくべきかにゃあ?」
とのワガハイに、えらい学者先生は「いや、せっかくじゃから残しておこう」と言って、即席の橋に魔法で丹念に補強を施す。
先生は魔法学の権威にて、これぐらいはお手の物なのだ。
ワガハイも似たようなことは出来るけど、魔力の扱いや精度が段ちがいにて。
実演するところを生で見ているだけでもけっこう勉強になったりもする。
「……ふむ、まぁ、これぐらいでいいじゃろう。これでしばらくはもつはずじゃ」
わざわざ橋を補強したのは、地元のみなが不自由しないためと、自分たちと同じように迂回する旅人らのため、あとは盗賊対策でもある。
連中が各地を点々としながら悪さを続けていられるのは、辺境と中央を隔てる深い渓谷が東西に渡ってのびているから。
渡れる箇所が限られているので、主要の吊り橋以外のところを利用しようとすれば、どうしても大きく迂回することになる。
悪党どもはその際に生じる距離的、時間的、空白の間隙を突いては犯行を重ねていた。
万が一、犯行が発覚したとて、追捕の手が迫ったところで、ゆうゆうと逃げられる。
そんな好ましくない状況に一石を投じることになるかもしれないのが、この小さな橋だ。
うまく活用すれば、これまでよりもずっともっと速く、橋のむこう側にある領都から援軍を送れるようになるだろう。
〇
自前の橋を渡ったところで、今度は進路を東に。
街道へ戻るためと、目当ての蔵元を訪ねるためだ。
無事に買い物をすませたワガハイたちは、ホクホク顔でふたたび王都を目指す。
するとじきに見えてきたのが、次の街である。
領都のひとつ手前に位置しており、通常であればここで一泊してから、先へと向かうのだけれども、ワガハイたちにはカネコモービル・エボルヴがある。
素通りしても、陽が暮れる前に領都に到着できるだろう。
この地を統べる領主さまには、報告がてら提出するブツもあることだし、さっさと通り過ぎようとしていたのだけれども、よもやここでまたしてもトラブルに見舞われようとは……
宿場町としてそこそこ賑わっている街。
やや猥雑だが活気があり、多くの露店が軒を連ねている。
雰囲気がトライミングの外壁周辺にあるテント街にちょっと似ている。
だからであろうか? ついつい目移りしてしまい、あちこちの屋台をのぞいてしまう。
ワガハイは食材や調味料関係の店があるたびに。
えらい学者先生は怪しげな骨董品や古本を扱っている店を見かけるたびに。
ついふらふらと引き寄せられる。
これぞ旅の醍醐味でもあるのだけれども、ふたりともがずっとこんな調子なので、当然ながら歩みは遅々として進まず。
「楽しいのにゃあ。もういっそのこと、ここで一泊するにゃあ」
「それもアリじゃな」
掘り出し物の古書を手に入れた、えらい学者先生はホクホク顔だ。
仕入れた荷をアイテムボックスに収納しがてら、ワガハイらがそんなことを話していた時のことである。
ちょいちょいと、えらい学者先生のローブの袖を引く者があらわれた。
誰かと思えば、小さな女の子がこっちを見上げているではないか。
迷子にでもなったのかとおもえば、さにあらず。
幼女はちょっと舌足らずな口調にてこう言った。
「宿をおさがしですか? だったらおすすめの宿がありましゅよ」
なんでも実家が宿屋を営んでいるそう。
たまさかワガハイたちの会話を小耳に挟んだもので、幼いながらに営業をかけてきたという次第。
健気である。
が、先の盗賊村でのこともある。
小さな女の子だからと油断したら、痛い目に合うかもしれない。
だから「どうしようか」と逡巡していたら、ここで別の客引きども乱入してきた。
「でしたら、ぜひ当館をご利用くださいよ、ダンナ方」
「いえいえ、うちの方がいいですよ。なんといっても料理がうまい」
「あらあら、うちならばムフフなサービス付きですよ。その分、ちょっぴりお高めですけど、満足することまちがいなし!」
「うちならば完全個室で、浴室完備ですよ」
「うちでしたら、いまならば二割引きで、次回から利用できる割引券のオマケつき」
うちうち、うちうち、と群がってくる客引きたち。
どうやら上客と判断されたらしい――えらい学者先生が。
客引きたちに揉みくちゃにされる老人の姿を、ワガハイは少し離れたところから眺めていた。
するとその人混みからはじかれるようにして、押し出されてきたのは最初に声をかけてきた幼女である。
大人と子どものおしくらまんじゅう。
はなから幼女に勝ち目なんぞはない。
転んで膝をすりむき「あうっ」と涙目になっている幼女。
いくら商売熱心だからとて、さすがにこれは大人げがなさすぎる。
カチンときたワガハイは「シャーッ! いい加減にするのにゃあ~。宿ならこの子のところにするから、とっとと失せるのにゃーっ!」
一喝するなり、強引な客引きたちは蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。
で、幼女に宿へと案内してもらったのだけれども、そこで待っていたのは……
「おうおうおう、いい加減にこっちもガマンの限界なんだよ。借金を返せないってんなら、土地の権利書を寄越しな。あとは利息として女房とガキも貰っていくぜ」
宿の受付にて、店主相手にガラの悪そうな連中が息まいている。
時代劇とかではお馴染みの光景を目の当たりにして、ワガハイは「うげぇ」と顔をしかめた。
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