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213 カネコ、呪われてた!
しおりを挟む老神父さまから面と向かって真顔で「おまえは呪われている!」
ババーンと言われたワガハイは、おもった。
(あー、ついに……あんなにかくしゃくとしていたのに、寄る年波には勝てないか……お気の毒だにゃあ~)
さすがに失礼過ぎるので口には出さない。
でもバッチリ顔には出ていたようで、「憐れむような目を向けるな!」と目つぶしをされたもので、ワガハイは「ぎゃーっ!」
「いきなりなんてことをするのにゃん!」
「ふんっ、年長者を敬わんからじゃ。それに指ではなくて手の平だから、たいして痛くはないじゃろうが。慈悲に感謝するがよい」
出会いがしらに攻撃しておいて、この言い草。
まじでカネコビームをお見舞いしてやろうか?
という怒りはいったん脇へと置いておき――
「さっき口走っていた呪いうんぬんというの話は、どういう意味にゃん?」
「どうもこうも、そのままよ。おぬし、ここのところ小さな不幸が重なっておらんか。体調がすぐれんとか、仕事でトラブルが発生したとか、私生活でいらぬ悩みが増えたとか」
ずいぶんざっくりした問いかけ。
まるでうさん臭い占い師の手口のようだ。
だってこんな言い方をしたら、たいていの相手は「あっ、そういえば!」と、ひとつやふたつ思い当たるもの。
当然だ。
生きるということは、つねにストレスにさらされているということ。
日々、大小のトラブル、悩みの積み重ねなのである。
といはいえ、だ。
実際のところ、ここのところワガハイはトラブル続きにて。
うっかり月まで飛ばされたり、そこでエイリアンどもとわちゃわちゃしたり、泉の精霊に全財産をぼったくられたり、首をひどく寝ちがえたり、またぞろ留置所のお世話になったり、公園管理者に任命されたり、屋台で買った串焼きがハズレだったり、タンスの角に足の小指をぶつけたり、しつこい汗疹に苦しめられたり、いきなりジジイから目つぶしを喰らったり……
近々に起こったことを指折り数えてみれば、出るわ出るわ。
改めて見直してみると散々である。
「……た、たしかにツイてないことだらけで、ここのところ不幸の連続だにゃあ」
「であろう?」
「それがすべて呪いのせいだったというわけかにゃん」
「あー、一部、明らかにちがうのも混じっているが、まぁよい。とにかくおぬしは呪いを受けておる。そのせいで、やることなすことうまくいかんのじゃ」
「にゃっ!」
「で、じゃ。何か思い当たることはないかの? 月へうんぬんのことはよくわからんが、おそらくはそれ以前じゃろう。運気を下げる要因になった出来事があったはずじゃ」
そう言われてワガハイは「う~ん」
月に行く前、ワガハイは何をしていたっけか……えーと、たしか辺境に滞在する仮面令嬢の護衛をしていたけど。
基本的には屋敷でゴロゴロと喰っちゃ寝しては、たまにお嬢さまの話し相手を務めていたぐらい。
宝探しゲームや、暗殺者の襲撃なんかはあったけど。
頭脳明晰、容姿端麗、キュートな愛されキャラであるワガハイの手にかかれば朝飯前にて、どちらもサラリとスマートにやっつけてやったけど……
「あっ、そういえばアレのことをすっかり忘れていたのにゃん」
思い出したのは、アイテムボックス内に死蔵していたある品のこと。
それはワガハイと対峙した手練れの襲撃者が用いていた武器。
小型のブーメランのような投擲武器にて、自動追尾機能付き。どこまでも執拗に追ってくる。あんまりにもしつこいので、辟易したワガハイは魔法で土壁を造り、そこへ飛んできたブーメランをめり込ませることで動きを封じ、丸ごとアイテムボックスへと収納した。
それの存在のことをすっかり忘れていた。
なにせワガハイのアイテムボックスときたら、容量がめちゃくちゃあるもので。
いくらでも入るから、なんでもかんでもポイポイ、ポポイと放り込んじゃう。
でも、そのせいで中がぐちゃぐちゃ。
あいにくとゲームみたいに自動で分類なんてしてくれないので、整理整頓は自分でせねばならない。
が、めんどくさいので、ついついおざなりに。
広いがゆえの弊害、余裕がありすぎるのも考えものである。
ワガハイはアイテムボックスから土壁ごとブーメランらを取り出す。
すると壁が黒紫色に変色しており、ブーメランたちはいまだにブブブと小刻みに震えているではないか!
「げっ、まだ動いているのにゃん。気持ち悪いのにゃあ」
「あー、これじゃな。おそらく刃先に呪毒でも塗られていたのであろう」と老神父さまは、しげしげとブーメランを眺め言った。「どれどれ……おぉ、くわばらくわばら。これはシシガシラの呪毒ではないか」
その名を聞いた瞬間に、ワガハイのこめかみに青筋がビキリ!
シシガシラは辺境に出没する魔獣である。
その容姿はスフィンクスっぽい体に、首から上がイカつい狛犬のような顔をしており、とても狂暴で呪言を放つという。
あいにくとワガハイはまだ面識がない。
なのにここ城塞都市トライミングへ初めて訪れた際には、周囲から指差されてはやたらと「あっ、シシガシラだ」と言われ続けたものである。
というか、いまだにまだたまに言われる。
似ても似つかないのに、いっしょくたにされる屈辱たるや、はらわたが煮えくりかえる思いにて。
見かけたら必ず狩ってやろうと密かに心に誓っていたものの、いまだにその願いは成就していない。
「こんなもんを持ち歩ていたら、そりゃあ呪われるわい」
老神父から呆れられて、ワガハイは「ぐぬぬ」
よもやこんな形で祟ろうとは。おのれ、シシガシラめ! 断じて許すまじ。
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