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211 カネコ、成り上がる?
しおりを挟むワガハイのささやかな願いはかなわなかった。
なんと! 夕飯前に釈放されてしまったのである。
「そんな殺生にゃあ……せめて一泊、ダメなら晩御飯だけでも!」
ニャアニャア懇願するも「釈放だ。とっとと帰れ」
にべもなく衛士隊の詰所から追い出された。
なお取り調べに関しても、いきなり中断となる。
当然ながら取り調べ官は苦虫を噛み潰したかのような表情にて。
しかし彼は宮仕えの身だ。しかもまだまだ出世をあきらめていないので、上層部からの命令には従うしかない。
「ちくしょう! 毎度毎度いまいましい、上の連中はいったい何を考えているんだ!」
との捨て台詞を残し、宿敵は去って行った。
ワガハイとしては五度目の邂逅がないことを願うばかりである。
なおワガハイが早々に解放された理由は、市民からの嘆願やクレームが役所に殺到したためであった。
「ワガハイを連れて行っちゃヤダー!」
「というか、オモチャを取りあげないで!」
「あと、ぜひとも公園はそのままで!」
子どもたちを筆頭に、親御さんからも多数の貴重なご意見が寄せられたそうで。
役所側としては寝耳に水にて、いきなり押しかけて来た子どもたちに、たいそう面喰らったそうな。
公園を管理している行政府の環境課の担当者が、現地を調査したところ「う~ん、遊具の造りもしっかりしているし、なにげに安全にも配慮されているから問題なし」との判定を下す。
そして何ら問題はないのだから、当事者をいつまでも拘束しておくのはおかしいということになり、ワガハイは釈放されてしまったと。
だが話はそれだけでは終わらなかった……
〇
茜色の空。
足下に長くのびた影。
黄昏刻の忙しない雰囲気の中を、ワガハイはすきっ腹を抱えトボトボ歩く。
「予定が狂ったのにゃあ、晩御飯を喰い損ねたにゃん。首もちっとも治らないし、踏んだり蹴ったりだにゃあ~」
しょうがない。
今夜はストックしてある食料で簡単にすませて、はやめに就寝するとしよう。
そんなことを考えつつ、ワガハイは寝床にしている公園へと戻った。
日中の喧騒がウソのように静かになっている公園。
片隅にあるカネコドームへと向かえば、家の前に人影が……
誰かとおもえば、待っていたのは行政府の環境課のお役人さま。かたわらには木箱が五つばかり置いてあって、中身はワガハイが子どもたちに与えたオモチャであった。
証拠品として没収していたそれらを返却がてら、渡されたのは一枚の紙。
いよいよ退去命令でも出されたのかと、ワガハイはビクビクしながら紙面に目を通すもちがった。
そこに書かれてあったのは『ワガハイ殿を当公園の管理者に任命する』という文言であった。ちゃんと印も押されている。行政府の正式文書である。
ワケがわらかず、ワガハイがきょとんとしていると、お役人さまの言うことにゃあ……
「あー、この度、いろいろありまして~。各方面から激烈な圧が……つきましては、もう面倒だから、いっそのことここをワガハイ殿に押しつけ……ゲフンゲフン。いや、失敬、どうせならばこれを機にお任せしてしまおうと決まりまして」
いきなりの市民からの突き上げに戸惑うばかり。
上層部からは「なるべく穏便に、かつ丸く収まるように、速やかに対処せよ」とムチャ振りをされ。
「だったら手を貸してちょうだい!」と他の部署に応援要請をかければ、スーッと視線をそらされダンマリを決め込まれる。
猶予はない。
環境課一同は四面楚歌にて「なんてこったい!」と頭を抱えた。
で、あれやこれやと協議の末に、苦肉の策としておもいついたのが『公園管理者』なる名誉職を設けることであった。
役割りはそのまんまである。
ただし、名誉職であるがゆえに、給金は発生しない。与えられるのは責任と称号のみ。
でも、さすがにそれで仕事を押し付けるのはムリがある。
そこで特典として『常識の範囲内であれば、個人での園の使用を認める』ことにする。
なにやらわかりにくい言い回しだが、ようは『隅っこなら住んでいいよ』とのお墨付きを行政側が与えたに等しい。
えーと、とどのつまり……、これまでは不法占拠だったのが、一部利用を正式に認められたという次第。
世間的には住所不定扱いだったのが、住所安定になるのだ。
これにともない市民権も得る。
なお賃貸料については、公園管理者としての報酬と相殺される。
「じゃあ、そういうことなんで。今後ともよろしく。もし、何かありましたら役所の環境課へご一報ください」
通達を終えて去って行く環境課のお役人。
その背を見送りながら、ワガハイは「これもある種の成り上がりなのかにゃあ?」とうっかり首をかしげようとしたもので、グキっときて「んぎにゃーっ!」
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