寄宿生物カネコ!

月芝

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208 カネコ、安静中。

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 寝起きしている公園にてカネコドームに引きこもる。
 ぐーたら、ゴロゴロ生活。
 これこそがカネコであるワガハイが求めたモノである。
 が! 首が痛いせいで台無しである。

「イタタタタ……、首が痛いせいで横になるだけでもひと苦労だにゃん」

 どうにか痛くない姿勢を模索しては、もぞもぞ。
 うぅ、こういう時、独り身の侘しさがつまされる。
 しかも泉の精霊にぼったくられて素寒貧状態なので、懐も寒々しいときたもんだ。
 あー、月でゲットしたお土産類は冒険者ギルドに丸投げしたんだけど、まだ査定は終わっていない。
 というか、前代未聞の珍品ゆえに本部預かりに決まったそうで、こうなると長くなるんだとか。ことと次第によってはオークションとかに出品されたりもするらしく、それとの兼ね合いもあるから、予定は未定だ。

「だったらせめて手付金をちょうだい!」

 と馴染みの受付のおっさんに頼んでみたのだけれども、「ノー!」とすげなく断られた。
 辺境では一時期、寸借詐欺みたいな手口が横行したらしく、以来、善意を担保にした信用取引は一切しなくなったそうで。
 よって当てにしていた収入がナシとなった。
 スローライフを送るためには、しっかり稼がねばならないのに、健康上の理由からそれもままならぬ。

「ん! あれ? ゴロゴロしたいから働くっのって、なんだか矛盾してにゃい?」

 タマゴが先か、ニワトリが先か。
 もしくは本末転倒ともいう?
 スローでイージーなライフの実現のために、あくせく働く???

「おかしいのにゃあ……こんなはずじゃにゃかったのに……」

 当初の予定では、とっくに城塞都市トライミングの公式マスコットキャラクターに任命されて、道ゆけば「ワガハイさま~」「きゃーっ、ステキー! こっち向いて~」「けっこんしてー!」との黄色い声援が飛び交い、立ち止まればたちまち黒山の人だかり。見かねた警護の衛士たちが盾となり「ほら、さがって、さがって、ワガハイさまのお通りだよ~。あー、そこ、おさわりはダメダメ。イエス・カネコ、ノータッチだからねえ」と注意を促しつつ先導しながら街を練り歩く。
 そんな賑やかながらも充実した愛され日々を過ごしているはずだったのに……

「う~ん、理想にはほど遠いのにゃん」

 現在のトライミングにおけるキャラクターの人気および認知度。
 第一はツバッキーくん。
 これはもうぶっちぎりだ。ダブルスコアどころの話じゃない。
 ツバメっぽいトリをモチーフにした、某球団マスコットのアレにちょっと似ており、見た目は……まぁ、ワガハイにこそおよばないものの、それなりに可愛くはある。

 だがしかし、そのユル可愛な見た目にダマされてはいけない。
 なんといってもヤツのバックには商業ギルドという強力な組織がついている。
 商業ギルドと名乗っているが、中身はヤ〇ザ顔負けにて、連中を敵に回したら辺境ではとてもではないが生きていけない。
 着ぐるみの中のヒトも只者ではないらしく、イベント中とかにちょっかいをだして裏でシメられた輩は数知れず。一流を自認する某教団の暗殺者らをして「あいつはヤバい」「なんかおっかない」と云わしめるほどの実力なのだから、相当であろう。

 二位以下は混迷している。
 少し前までは、アロセラ教団が信奉する女神フロディアが地下アイドル活動を展開しては、グングンと追い上げていたのだけれども、とある事件を起こしてグレーゾーンなキャンペーン活動が露見し、当局よりマークを受けてしまう。
 トライミングが属してるエスカリオ国は多民族国家にて、信仰の自由は認められているものの、あくまで常識の範囲内にて。
 けれども、いろんな種族が混在しているがゆえに、その運営は微妙なバランスの上で成り立っていたりもする。
 ゆえに、無闇にヒトを集める騒乱罪、虚偽の流布に国家転覆を扇動しかねない内乱罪などに対してはとても取り締まりが厳しい一面を持つ。

 どれくらい厳しいのかとえば、ワガハイがこさえた素人の紙芝居ですらもが注意勧告および没収されるぐらいに厳しい。
 にもかかわらず、アロセラ教団は地下でライブを行っては、若人たちをたぶらかしまくって、悪徳商法ばりにボロ儲けをしちゃったもので、さすがにちょっと……
 現在は地下活動は控え、もっぱらアンテナショップでのグッズ販売にシフトしている。

 で、これとどんぐりの背比べをしているのがワガハイこと寄宿生物カネコである。
 都市内での清掃活動や畑での害獣駆除、採取依頼などをコツコツとこなすことにより、主婦層および年寄り層からの支持はかなり高い。
 また公園を縄張りにしている関係で、たまに子どもたちの相手もしてやっているから、若年層の間でもじわじわと認知度が広がっている。
 数々の利を辺境都市にもたらしたこともあってか、行政府の覚えもまぁまぁめでたい。
 マジメにコツコツ、冒険者活動を続けてきたおかげでギルドとの関係は良好。
 商業ギルドともマスコット関連については敵対しているものの、それ以外では裏取引をするぐらいに仲がいい。
 が、明確な支持母体を持たず、グッズ展開ではツバッキーくんと女神フロディアらに大きく溝を開けられており、収益に至っては、言わずもがな。

「キャラクターマーケティング……むずかしいのにゃあ~」

 ワガハイは今後の展開を思い悩む。
 すると表から聞こえてきたのが、「ワガハイ、あそぼー」という声。
 公園に遊びにきたお子さまどもだ。
 だがしかし、ワガハイは療養中である。寝返りするのもひと苦労にて億劫である。
 だから、無視していたら、勝手にドアを開けてゾロゾロ入ってきやがった。
 挙句に、みんなして体に群がっては、ゆさゆさ寝ているワガハイを揺さぶるもので。

「んにゃ~、く、首がモゲるのにゃん」

 このままでは殺される。
 命を危険を感じたワガハイは、「いまちょっと忙しいから、かわりにコレで遊ぶのにゃあ」と言っては、おもちゃをいくつか渡す。

 ゴーレム駆動で造ったミニ四駆っぽいのに、対戦で遊べるミニゴーレム数体、ミニゴーレムのポニー、ミニゴーレム駆動のゴーカートなどなど。
 以前に夜遊びがてらに作って、アイテムボックス内に放り込んであったのを適当に与えた。
 すると現金なもので、子どもたちはすっかりそっちに夢中になって、ワガハイの心配をしてくれる子なんてひとりもいやしない。

 ……ぐすん。


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