寄宿生物カネコ!

月芝

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207 カネコ、寝ちがえる。

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 ――ぐぎりっ。

「んにゃっ!」

 草木も眠り由三つ時、夜の公園に響くはカネコのうめき声。
 いつものようにネコちぐらならぬ、カネコドームにて寝ていた時のことである。
 ゴロゴロと寝返りをうった瞬間のこと、首の右あたりがピーンと張ったとおもったら、厭な音がした。
 が、眠気が勝り、ついうやむやのままに済ませてしまう。
 そして夜が明けてからのこと……

「ぐぎぎぎぎぎ……く、くびが……首ば回らにゃい」

 上下させたとたんに、ズキッ!
 左右にいたっては、ほんの20度程度の角度した動かせず、稼働域が極端に狭まった。
 ばかりかムリに動かそうとすれば、とたんにズキン!
 あまりの激痛にピキリと体が固まるほどである。

「い、痛いのにゃあ~」

 首を寝ちがえた。
 前世、今世、合わせてもかつて経験したことがないほどの激烈っぷりにて。

「くっ、月から戻ってから妙に体が重いし、あちこち凝るとはおもってたけど、よもやこんなことになろうとは……」

 重力の関係であろうか?
 たしかに帰還してから体の調子があんまり良くないなぁ……とか感じていた。
 けれどもワガハイは超生命体カネコである。宇宙でもだらだら過ごせる生態であることがこの度の月旅行で判明したもので、「まっ、いいか。どうせいつものようにすぐに治るのにゃん」と軽く考えていた。
 だがしかし……

「う~、油断したのにゃあ~」

 甘かった。
 もっと自身を労わるべきであった。
 そういった意味では甘くなかった。もっとでろんでろんに甘やかすべきであった。
 と、後悔するもあとの祭り。

「とりあえず回復ポーションをグイッとやるのにゃあ」

 仮にも冒険者であるからして、最低限の備えはある。
 常備しているポーションをアイテムボックスから取り出す。
 モーニングコーヒーならぬモーニングポーションだ。
 が、首がうまく動かせないので飲むのにいささか難儀する。

「ぎにゃあ~、クソマズイ」

 もう一杯とはならない安定のマズさなのは、わざとらしい。
 その気になれば味なんていくらでも変えられるけど、下手に美味しく作っちゃうと、回復ポーションに依存して、はては中毒を起こすそうで、だからこそのこのマズさ。
 あとは飲み過ぎると効きづらくなるので、それを防ぐ意味合いもあるんだとか。

「みんないろいろ考えてるのにゃんねぇ」

 なんぞと感心しつつ、効果がでるのをじっと待つ。
 だがしかし、五分経っても、十分経っても、三十分経っても……アレ?
 治るどころか、逆にズキンズキンが止まらにゃい!
 というか、もはや激痛にて「うぎゃーっ!」

「にゃっ、にゃんで!? もしかして消費期限ギリギリの特売品だから、効能も薄くなっていたのかにゃあ」

 冒険者御用達のお店の半期に一度の在庫一掃セールの際にゲットしたまま、ずっと死蔵していた回復ポーション。
 とはいえワガハイのアイテムボックスは、内部の時間を停止させるのも進めるも自由自在にて、いろいろ応用が効く優れモノ。
 だから、気にせずにずっと保管していたのだけれども。

「はっ! もしかしてインチキの不良品を掴まされたのかにゃん」

 ワガハイは鑑定さんを発動し、空き瓶を凝視する。

 結果は……シロ。

『ゲロマズだけどちゃんとした品』

 との鑑定結果を得た。
 でも、だったらどうして……
 困惑するワガハイが何気に空き瓶の裏を見てみると、このような但し書きがあった。

『用量用法を守って服用すること。なお、本商品は足のムズムズ、風邪、魔女の一撃、ぎっくり首などには効かないので使用しないこと』

 これにワガハイは「んにゃっ!」
 足のムズムズというのは、たぶん水虫のことであろう。
 風邪はこっちでも風邪なのか。魔女の一撃も同じ意味合いにて、たぶんぎっくり腰のことだ。
 でもってぎっくり首だ。
 おそらくは、寝ちがえもこれに含まれる症状にて。

「だから効かないのかにゃん。にしてもなにゆえ……」

 かつての世界とは異なる法則が存在する剣と魔法のファンタジー。
 重篤なケガですらもが、ポーションをグビリとすればすぐに治っちゃう。
 それどころか原型を留めていない、無惨な屍となっても大丈夫。
 聖女が復活の呪文を唱えたら、即復活するようなムチャクチャな世界観である。

「……なのに、これらは克服できないだなんて。水虫や風邪の菌、スゲーのにゃん。そしてそれに肩を並べる、ぎっくり腰やぎっくり首たち、おそるべし」

 このままでは日常生活もままならぬ。
 そこでワガハイは冒険者ギルドに常駐しているお医者さまのところに出向いたのだけれども、「ぎゃはははは、へんな顔」と爆笑されたあげくに「痛み止めを飲んで、安静にしていろ」と言われた。

「うー、魔法とかでちょちょいと治せないのかにゃあ?」
「あー、ダメダメ。それって体の不調の合図みたいなものだから。これまで溜め込んだツケのせいだ。神さまが休めって言ってるんだよ。だからおとなしくしてろ。なぁに、三日もすれば症状もだいぶ落ちつくだろうさ」

 かくしてワガハイはドクターストップにより、三日間の療養を命じられた。
 ぐぬぬぬ。


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