199 / 254
199 カネコ、タイマンを張る。
しおりを挟む「あ、危なかったのにゃあ~」
ワガハイは「ふー」と安堵の吐息を零す。
とはいっても、壁にめり込んだ状態だけど……
大型エイリアンが放った光線に呑み込まれる寸前、アイテムボックスを展開し、からくも直撃を回避したものの、衝撃までは抑えきれず。
破壊の激流に翻弄されるままに、竪穴の反対側の壁まで吹き飛ばされた。
もしもそのまま壁に激突していたら、ただではすまなかっただろう。
それを防いだのはカネコ式の宇宙服のおかげ。自身を結界の膜で覆うそれの内部にいつもよりも空気を含ませて、膨らませることで疑似的なエアクッションとした。
これにより体へのダメージは最小限に留めることに成功する。
「……痛ぅ。まさかアイツもカネコビームに匹敵する攻撃を持ってるとは想定外にゃん」
とはいえ、厳密にはそこまでではない。
なにせワガハイの怪光線は、魔力を練り込みエネルギーを溜めれば溜めるだけ、威力が増すのだから。
事実上、天井知らずの限界突破にて。
が、実際の戦闘時にのんびりエネルギーをチャージしている暇なんてないわけで……
チャージ途中に気が削がれると、せっかく溜めた分が霧散してしまい、また一からやり直しという弱点もある。
よって質と量と時間、実戦に使える範囲はおのずと限られてくる。
その限られた範囲に近しいのが大型エイリアンの破壊光線なのである。
威力はちょい劣っている。
正面から打ち合えればワガハイが勝つ。
だがしかし……
「んにゃ! そんなのありかにゃーっ!」
ワガハイはシャカシャカ、あわててその場を離れた。
するとついさっきまでいた所へ次々に飛んできたのは、光弾である。
ドバドバ溢れ出す破壊光線を、細かく刻むことで、ポンポンポポンと凶悪な光の玉を撃ち出している。
あー、ようはウォシュレットの水勢や水滴みたいな感じだ。
器用なことに、ヤツはウォシュレットのノズルみたいなマネをする。
でもって、この光弾がじつによく汚れを……じゃなくって、ドカンドカンとよく爆ぜるものだから、ワガハイは「うにゃーっ」と逃げ惑うばかり。
「こんなの付き合ってられないのにゃん! とっとと先へ行くのにゃあ~」
幸い、ヤツとは対岸で向かい合う格好となっている。両者の距離はそのまま穴の直径にて、かなり離れている。
いまならばワガハイの瞬足ならば逃げ切れるはず。
なのでシュタタタと駆け出したのだけれども……
進路上に立ち塞がるようにして、のそりと二体目の大型エイリアンがあらわれたもので、ワガハイは「げっ」
しかし、よくよく考えてみれば、これは予想できたこと。
なにせここは防衛ラインにて、連中にとってみれば絶対に守らなければならない場所。
竪穴の周縁部分は広域である。
そんな広い範囲を、たった一体の番人にまかせているなんてありえないのだから。
「こっちにはこっちの番人がいたのかにゃん。この様子だと、東西南北に一体ずつ番人を配置しているっぽいのにゃあ」
だとすれば北東とか南西とか、間に位置する進路をとったら、左右からの挟撃を受ける可能性が高い。
一体でも手強いのに、これは是が非でも避けたいところ。
進行方向の見極めは、しっかりやらないと。
とはいえ、背後から迫る追っ手のこともあるから、あまりのんびりとはしていられないし。
「ぐぬぬ、ややこしいのにゃあ~。でも、とりあえず目の前の障害を取り除くのが先決にゃん!」
大型エイリアンに魔法は効かない。
というか、月面にある竪穴という状況下では、使える属性そのものが限られる。
地水火風光闇の六属性。
地はダメ、竪穴内部はメカメカしており土がない。
水はイケる。火は真空ゆえにうまく使えない。風もいまいち。光と闇はとりあえず問題なそう。
「となれば物理的に殴るのみ! カネコ百烈パンチだにゃん! ほわちぁ~」
敵に駆け寄ってはパンチ、パンチ、パンチ、たまにキック、爪なども織り交ぜての怒涛の連撃をワガハイは繰り出す。
すると「タイマン上等だ!」とばかりに、大型エイリアンも殴り合いに応じる。
ティラノザウルスばりのエイリアンと、アムールトラばりのカネコの肉弾戦は熾烈を極めた。
接近戦の能力はほぼ互角である。
こうなるとモノを云うのは経験の差だ。
その点で勝るワガハイ、これまで並みいる強敵どもを屠ってきたのは伊達ではない。
月というゆりかごにて、女王の庇護の下、ずっと安穏と暮らしてきたヤツに負ける道理はない。
ついにワガハイの右ストレートがまともに入って、たまらず大型エイリアンが膝をつく。脳にきたらしく、しきりに頭を振ってはゆらゆらしている。
チャンスである。
「よし、いっきに決めるのにゃん!」
トドメを刺すべくワガハイは踏み出した。
が、そのタイミングで、ドコン!
背後で重たい何かが壁にめり込むような音と、地響きがしたものでふり返れば、そこにいたのは大型個体である。
最初に対峙していたヤツだ。
あー、ややこしいので今後はこちらを一号、殴り合っていた方を二号と呼称する。
一号は窮地の仲間を見かねて、応援に駆けつけたっぽい。
よもや持ち場を離れるとはおもわなかった。
二体の大型エイリアン。
前門の二号、後門の一号。
想定していたのとはちがうパターンでの挟撃に、ワガハイは「うにゃ~ん」
12
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる