寄宿生物カネコ!

月芝

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199 カネコ、タイマンを張る。

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「あ、危なかったのにゃあ~」

 ワガハイは「ふー」と安堵の吐息を零す。
 とはいっても、壁にめり込んだ状態だけど……

 大型エイリアンが放った光線に呑み込まれる寸前、アイテムボックスを展開し、からくも直撃を回避したものの、衝撃までは抑えきれず。
 破壊の激流に翻弄されるままに、竪穴の反対側の壁まで吹き飛ばされた。
 もしもそのまま壁に激突していたら、ただではすまなかっただろう。
 それを防いだのはカネコ式の宇宙服のおかげ。自身を結界の膜で覆うそれの内部にいつもよりも空気を含ませて、膨らませることで疑似的なエアクッションとした。
 これにより体へのダメージは最小限に留めることに成功する。

「……痛ぅ。まさかアイツもカネコビームに匹敵する攻撃を持ってるとは想定外にゃん」

 とはいえ、厳密にはそこまでではない。
 なにせワガハイの怪光線は、魔力を練り込みエネルギーを溜めれば溜めるだけ、威力が増すのだから。
 事実上、天井知らずの限界突破にて。
 が、実際の戦闘時にのんびりエネルギーをチャージしている暇なんてないわけで……
 チャージ途中に気が削がれると、せっかく溜めた分が霧散してしまい、また一からやり直しという弱点もある。
 よって質と量と時間、実戦に使える範囲はおのずと限られてくる。
 その限られた範囲に近しいのが大型エイリアンの破壊光線なのである。
 威力はちょい劣っている。
 正面から打ち合えればワガハイが勝つ。
 だがしかし……

「んにゃ! そんなのありかにゃーっ!」

 ワガハイはシャカシャカ、あわててその場を離れた。
 するとついさっきまでいた所へ次々に飛んできたのは、光弾である。
 ドバドバ溢れ出す破壊光線を、細かく刻むことで、ポンポンポポンと凶悪な光の玉を撃ち出している。
 あー、ようはウォシュレットの水勢や水滴みたいな感じだ。
 器用なことに、ヤツはウォシュレットのノズルみたいなマネをする。
 でもって、この光弾がじつによく汚れを……じゃなくって、ドカンドカンとよく爆ぜるものだから、ワガハイは「うにゃーっ」と逃げ惑うばかり。

「こんなの付き合ってられないのにゃん! とっとと先へ行くのにゃあ~」

 幸い、ヤツとは対岸で向かい合う格好となっている。両者の距離はそのまま穴の直径にて、かなり離れている。
 いまならばワガハイの瞬足ならば逃げ切れるはず。
 なのでシュタタタと駆け出したのだけれども……

 進路上に立ち塞がるようにして、のそりと二体目の大型エイリアンがあらわれたもので、ワガハイは「げっ」
 しかし、よくよく考えてみれば、これは予想できたこと。
 なにせここは防衛ラインにて、連中にとってみれば絶対に守らなければならない場所。
 竪穴の周縁部分は広域である。
 そんな広い範囲を、たった一体の番人にまかせているなんてありえないのだから。

「こっちにはこっちの番人がいたのかにゃん。この様子だと、東西南北に一体ずつ番人を配置しているっぽいのにゃあ」

 だとすれば北東とか南西とか、間に位置する進路をとったら、左右からの挟撃を受ける可能性が高い。
 一体でも手強いのに、これは是が非でも避けたいところ。
 進行方向の見極めは、しっかりやらないと。
 とはいえ、背後から迫る追っ手のこともあるから、あまりのんびりとはしていられないし。

「ぐぬぬ、ややこしいのにゃあ~。でも、とりあえず目の前の障害を取り除くのが先決にゃん!」

 大型エイリアンに魔法は効かない。
 というか、月面にある竪穴という状況下では、使える属性そのものが限られる。
 地水火風光闇の六属性。
 地はダメ、竪穴内部はメカメカしており土がない。
 水はイケる。火は真空ゆえにうまく使えない。風もいまいち。光と闇はとりあえず問題なそう。

「となれば物理的に殴るのみ! カネコ百烈パンチだにゃん! ほわちぁ~」

 敵に駆け寄ってはパンチ、パンチ、パンチ、たまにキック、爪なども織り交ぜての怒涛の連撃をワガハイは繰り出す。
 すると「タイマン上等だ!」とばかりに、大型エイリアンも殴り合いに応じる。

 ティラノザウルスばりのエイリアンと、アムールトラばりのカネコの肉弾戦は熾烈を極めた。

 接近戦の能力はほぼ互角である。
 こうなるとモノを云うのは経験の差だ。
 その点で勝るワガハイ、これまで並みいる強敵どもを屠ってきたのは伊達ではない。
 月というゆりかごにて、女王の庇護の下、ずっと安穏と暮らしてきたヤツに負ける道理はない。

 ついにワガハイの右ストレートがまともに入って、たまらず大型エイリアンが膝をつく。脳にきたらしく、しきりに頭を振ってはゆらゆらしている。
 チャンスである。

「よし、いっきに決めるのにゃん!」

 トドメを刺すべくワガハイは踏み出した。
 が、そのタイミングで、ドコン!
 背後で重たい何かが壁にめり込むような音と、地響きがしたものでふり返れば、そこにいたのは大型個体である。
 最初に対峙していたヤツだ。
 あー、ややこしいので今後はこちらを一号、殴り合っていた方を二号と呼称する。
 一号は窮地の仲間を見かねて、応援に駆けつけたっぽい。
 よもや持ち場を離れるとはおもわなかった。

 二体の大型エイリアン。
 前門の二号、後門の一号。
 想定していたのとはちがうパターンでの挟撃に、ワガハイは「うにゃ~ん」


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