寄宿生物カネコ!

月芝

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196 カネコ、大脱走!

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 長い廊下をひた走っていると、突然、白い照明がチカチカ明滅し始めた。
 それにともなって施設内の雰囲気がガラリと変わった。
 静から動へ。
 ピリピリと空気が張り詰め、緊張感が次第に高まっていく。
 ウ~ウ~とサイレンこそは鳴らないけれども、はやワガハイが逃げ出したことがバレたようである。

 ワガハイは耳をくりくり動かす。カネコイヤーを発動し、周辺の情報を探る。
 すると案の定、エイリアンどもがざわついては、集団にてドタドタと移動している気配が伝わってきた。

「うにゃあ~、カネコインビジブルで姿を隠しているとはいえ油断はならないのにゃん。ニオイとか体温で追跡されたらすぐに見つかってしまうのにゃあ~」

 自然豊かな場所ならばともかく、ここは月面である。
 そしてエイリアンどもの侵略基地だ。
 連中ってばあの作り物めいた見た目からして、きっと変温系であろう。
 恒温動物であるワガハイの存在は異質にて、その特性を看破された時点で詰みとなりかねない。
 その前にどうにかせねば……

「のんびり脱出用のロケットを探している時間はなさそうだにゃん。となればいっそのことド派手にやってやるかにゃん。
 というわけで、カネコビーム・レインボーバージョン、七連乱れ撃ちだにゃん!」

 シュビビビビビビビビ~~~~~~ン。
  シュビビビビビビビビ~~~~~~ン。
   シュビビビビビビビビ~~~~~~ン。

 ――以下略。
 カッと大きく見開かれる第三の目。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
 放たれし毒々しい色味を帯びた怪光線たちが、実験棟の施設を内部から喰い破るだけにはとどまらず、貫き、突き抜けては、エイリアンどもの竪穴をも切り裂き破壊していく。
 壁が崩れ、天井や床が抜け、そこかしこにて爆発が起き、火も出た。ところによっては階層そのものが崩落し、それがさらなる破壊を産み出す。
 いかに低重力下といえども、すべての衝撃が軽減されるわけじゃない。ゼロにはならないのだ。

 階層構造が仇となり、崩壊ドミノが続く。
 おそらくこれまで外部から攻撃をされたことがないのであろう。
 えらくあわてふためいては、右往左往しているエイリアンども。
 ワガハイはしめしめ、ほくそ笑みつつ混乱に乗じて現場からそそくさと立ち去った。

  〇

 逃げながら魔力を練りつつ、チャージが完了したらカネコビームを発射するをくり返すこと四度。
 それこそダンジョンをぶっ壊した時ぐらいの被害は出ているだろう。
 だがしかし……

「それでも全体からしたら、ほんの数パーセントぐらいなのにゃん」

 エイリアンどもの拠点である竪穴があまりにも巨大すぎるのだ。
 蚊に刺された……いや、毛虫に刺されたぐらいの被害は与えているものの、重篤なダメージにはほど遠い。
 これではじきに落ちつきを取り戻す。
 そうなればワガハイが捕まるのも時間の問題にて。

「ぐぬぬ、ぜんぜん足りないのにゃん。もっと、ガツンとした一撃を見舞わなければ……」

 しかし、そのための手段がない。
 現在のワガハイが持つ技の数々のうちで、カネコビームが最大火力を誇っているのだから。
 こんなことなら、ダラダラしないでマジメに修行をしておくんだった。
 後悔しつつ、あちこち逃げ惑ううちに、ようやく竪穴の内壁部分に到着する。
 ここから上へ上へと向かえば、いちおうは逃げられるはずだけど……

 帰りのロケットがにゃいのも困りものだけど、このまま無事に生還したとて、だ。この物騒な超大型高出力光学兵器をぶっ放されたらそれまでである。
 はるか天空より一方的に薙ぎ払われておしまいだ。ぐぬぬ。

 ワガハイは穴の縁に立ち、首をカクカク。何度も上下させては思案することしばし。「はぁ~」とタメ息をつく。

「やれやれ、世界を救うために奮闘するとか、ちっともカネコらしくない。けれども、こうなったらしょうがない。ワガハイの快適なスローライフ実現のためにも、ここはひと肌脱ぐのにゃあ~」

 混乱しているいまがチャンス。さして妨害されることなく、穴の底の深部に到達できるはず。そこをぶっ壊せば敵勢に深刻なダメージを与えられるだろう。
 そうと決まれば善は急げ。
 ワガハイは下へと目がけて、シュタタタと駆け出した。


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