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195 カネコ、念願の寄宿生活? パートⅣ
しおりを挟む天井が白い。
そればかりか壁も白、床も白、寝台も白……
唯一、白くないのは通路側の透明な壁のところだけ。
という、白づくしのインテリアなお部屋。広さは二十畳ほどもあろうか。
気圧が調整されており、温度はちょっと肌寒い程度ながらも安定している。
宇宙服ナシでも平気なので、外に比べれば環境的には極楽といえよう。
月の女王さまとの謁見を終えたワガハイは、そのままここに運び込まれた。
途中、目にしたのは大量に陳列されていた剥製やミイラたち。
きっとあのツクシ型ロケットで鹵獲された者たちの成れの果て。あれらがきっと『死んだ標本』とやらなのだろう。
拘束を解かれて自由になったワガハイは室内をウロウロ、あちこちの様子を確認しつつ……
「まさか遠路はるばる、月で寄宿生活をするとは夢にもおもわなかったのにゃあ~」
寄宿生物カネコ、その種族が始まって以来の快挙?
歴史に名を残す偉業と言えなくもない?
「ワガハイをすぐにどうこうするつもりはないらしいにゃん。おもいのほか快適な空間だし、見ようによってはホテルの豪華スイートのように見えなくもない。ただしコレだけはいただけないのにゃあ~」
壁に埋め込まれるようにして設置されてあるふたつのボタン。
左のボタンを押せば、受け皿にジャーっと水が出てくる。
右のボタンを押せば、にゅるんと歯磨き粉みたいなペースト状のモノが出てくる。
ソフトクリームのように巻き巻きされたソレ、色が茶色くてよくいえばチョコレートっぽいけど、悪くいえばアレ……
おそるおそる鼻を近づけクンクンするも、ニオイは特にせず。
意を決してペロリとすれば、ほんのり味がする。レバーペーストと魚のすり身を合わせたようなぼやけた味にて、まぁ、喰えなくもないけど、とにかく薄い!
トライミングの屋台街で馴らしたワガハイの舌には、あまりにも薄味にて。
というか、ぶっちゃけマズイ。
「たぶん宇宙食的なモノなのだろうけど、いくら栄養価が満たされようとも、これはないにゃ」
食の好みは重要である。
どうやら月の連中とは永遠に分かり合えそうにないし、あの態度からして連中も分かり合うつもりはサラサラないのであろう。
「というわけでサッサと逃げ出したいところだけど、逃げたとて帰る手段がないのにゃん。しばらくの間はおとなしくしておき、監視の目が緩んだところでコソっと抜け出すとするかにゃあ~。そうと決まれば、まずは室内をワガハイ好みにするのにゃん」
硬い寝台と床で寝るのなんてごめんである。
アイテムボックスから敷物やお気に入りの家具を取り出してはせっせと設置していく。食事にしてもストックからまかなうとしよう。
せっかくのご招待だし、しばらくはのんべんだらりと月での寄宿生活を謳歌しようとワガハイは決めた。
だがしかし、そんな悠長なことは言っていられない不測の事態が早や翌日に起きた。
鼻ちょうちんをこさえて、「すぴー」
寝ていたワガハイのもとへ、いきなりゾロゾロと人型形態のエイリアンどもがやってきたとおもったら、問答無用で拉致された。
で、連れていかれた先は手術室みたいなところで、寝台の上に仰向けに寝かされたとおもったら、両手足に首や腰をベルトでガッチリ固定されてしまう。
身動きを封じられたワガハイを囲んで見下ろしているエイリアンども。
その手にはギラリと光るメスっぽいモノやごっつい注射器みたいなモノの姿があった。
……そういえば聞いたことがある。
宇宙人は拉致した相手の体になにやら埋め込むという話を。
もしくは解剖されちゃうのか!?
どちらにせよ冗談じゃない!
「にゃーっ! とてもではないけど、そんなのには付き合ってられないのにゃん
!」
叫ぶなりワガハイはするりと拘束から逃れる。
どうしてそんなことが可能だったのかといえば、ネコをベースにしたカネコならではの肉体ゆえに。ほら、よく『ネコは液体』と例えられるよね? あれはそれぐらい柔軟に伸び縮みするということをあらわした表現にて。
くわえてフサフサの毛並みである。この分だけボリュームが増している。
それをヒュッと腹を引っ込めれば、ひと回り以上もウエストとかが細くなるのだ。
連中はミスを犯した。
ファーストコンタクトの時に用いたあの水あめみたいな唾液を使っていれば、さしものワガハイも易々とは抜け出せなかっただろう。
寝台から抜け出すなり、ワガハイは爪をジャキンとのばして「カネコスラッシュ!」
周囲にいた者らのみならず、見えない刃を飛ばし室内にいた全員を一閃。
続けてカネコインビジブルを発動し、姿を消して音もなく手術室から抜け出した。
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