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192 カネコ、アブダクション!
しおりを挟む昼と夜とでまるで別の顔を見せるのは砂漠と同じ。
ただし、その極端さが月の場合はえぐい。
大気がないせいで昼間は推定で摂氏150度オーバー、夜間もマイナス摂氏180度オーバー。
縦孔内部ならば比較的マシだけど、それでも余裕で死ねる。
そんな過酷な状況下で、考えナシにのほほんとした道行き。
ここまで無事に進めれたのは運が良かっただけである。
「どおりで車内がちょっと冷えるとおもったのにゃん。オープンカータイプじゃなくて良かったのにゃあ~」
ハンドルを握るワガハイは嘆息する。
カネコモービルの初号機であったらしんどかった。
でも二号機であるエボルヴは屋根アリの走るボックスタイプなので問題なし。
4WDのタフは走りを支えるゴーレム駆動。
その中核を担っている小型のゴーレムたち。
重力が軽くなったせいで、ベルトの上をうまく走れないのでは?
と案ずるも、それは杞憂であった。
あいつら……勝手に手すりとロープを作っては、それを掴むことで体が宙に浮くことを抑えつつ、シャカシャカ走っていやがった。ムムム、こやつら、デキる。
……というわけで、月での旅は昼夜逆転にて進む。
カネコモービル・エボルヴを走らせること三日目。
そろそろ本気で自動運転機能を開発すべきかと、あれこれ考えながら進んでいると、それはやってきた。
静々と向かってくるのは行列であったもので、ワガハイは停車し様子を見守る。
それは奇妙な行列であった。
キラキラしたラメ入りの極彩色の雲をまとわせており、数は500人ほどもいようか。
近衛使、検非違使、内蔵使、山城使、牛車、風流傘、姫さまなどなど。
平安絵巻物の中から飛び出してきたかのような、古代の貴族たちのような煌びやかな装いにて。どこからともなく「ピ~ヒャラリ♪」と笙(しょう)や竜笛(りゅうてき)の優雅な音色が聞こえてきそう。
あぁ、笙っていうのは日本の雅楽に使われる楽器のことね。長さの違う17本の竹の管が立てられた形状をしており、別名「鳳笙」とも呼ばれている。それから竜笛は横笛のこと。
みな肌白く、整った容姿にて、まるでひな人形が歩いているかのよう。
「ナアーッ! もしかしてこっちの世界の月にはかぐや姫が実在するのかにゃん!」
ワガハイはおもわずそう叫ばずにはいられない。
仰々しい一行が真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
どうやら外界からの来訪者であるワガハイを出迎えにきてくれたらしい。
「……となれば、こちらも礼を尽くさにゃいと」
なにせいまの自分は外交官みたいな立場にて。
ワガハイの一挙手一投足が今後の関係性を左右しかねないので、ここは慎重に行動せねばならない。うっかりやらかして「星間戦争が勃発!」とか、さすがにシャレにならないので。
車外へと出て、待つことしばし。
ようやく到着した一行を前にして、ワガハイは最高の営業スマイルを浮かべては「ハロー、ナイス・ミートゥー」と呼びかけた。
すると、ニコリともしない女官っぽいの。
いきなり顔面がメキャリと縦に裂けて「キシャー!」
それを合図として一行の全員が同じように鳴いては、体にも異変が起きる。
メリメリと裏返り、煌びやかな衣装が一転して硬質かつ光沢のあるメタリックシルバー仕様となった。
「ぎゃあーっ、まさかのエイリアンスタイル!」
豹変した一行。
四つん這いとなっては、シャカシャカ素早く動き、あっという間にワガハイを取り囲んでしまう。
友好的なムードなんぞではない。
だからワガハイはカネコモービル・エボルヴに飛び乗り、いったん退却しようとするもそれはかなわなかった。
運転席のドアを開けようとしたのだが――
見ればドアの接合部分にねちゃねちゃした半透明な緑の液体がこびりついており、「あ、開かにゃい!」
まごついているうちに、液体がワガハイにも飛んできた。
やっていたのはエイリアンどもである。口からぺっぺと、バッチイ!
これがまるで水あめのようにて、くっついたら離れず。もがけばもがくほどに粘性が増し、からまり、固くなっていく。
「こんにゃろう! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるのにゃあ! こうなったら星間戦争にゃあーっ!」
カネコビームをぶっ放し、まとめて薙ぎ払ってくれよう。
そしてワガハイが月の支配者となるのだ。
というわけで、額にある第三の目をカッと見開いたのだけれども。
パラパラパラパラ……
いきなりワガハイの顔を打ったのは、月の砂である。
エイリアンどもの目つぶし。
ワガハイは「にゃっ! 目に砂が入ったのにゃあ~」
よもやの原始的な攻撃により、第三の目が封じられてしまったところへ、緑の液体が次々に飛んできて、ワガハイはついに身動きがとれなくなってしまった。
で、そのままおみこしみたいなのでワッショイされては、アブダクションされてしまった。
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