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191 カネコ、月の砂漠を征く。
しおりを挟む「つきの~、さばくを~、はるばると~、ほにゃららららん♪」
うろ覚えの童謡の歌詞を口ずさみながら、街とおぼしき灯りを目指してカネコモービル・エボルヴを走らせること、八時間ほど。
けっこうな速度でけっこうな時間が経過するも、目的地はいまだはるか彼方にて。
一見なだらかに見えて、舗装なんてされていないから地面はデコボコ。登り坂や下り坂も頻繁にある。油断しているとクレバスみたいな裂け目もあるから、おもいのほか運転に神経をつかう。
でもって、似たような景色が延々と続くから、とにかく飽きる。
こんなことならばオーディオ機器も開発しておくのであった。いや、ひょっとしたら似たような魔道具がすでにあるかもしれない。技術大国であるアツァーリではカネコモービルみたいな乗り物があるというし、戻ったら問い合わせてみようかしらん。
「……にしても見た目以上に遠いのにゃあ~。ダルいのにゃあ~。でもしょうがないのにゃあ~。無理せずにのんびり行くのにゃん」
というわけで停車した。
本日はちょっとはやめに切り上げることにする。
カネコモービルをアイテムボックスに収納してから、地魔法を「えいっ」
野営のためにサクっと土でカマクラを作った。
ただし、いつものとはひと味ちがうぜ。
ふだんはカネコのラブリーな顔をデフォルメしたモノだが、今回は胴体部分もあるデラックス全身モデルだ。
入り口のある頭部は気圧室になっており、胴体の方が居住スペースという構成にて、三本のしっぽは飾りだ。
べつに宇宙服を着たままでもいいのだけど、せっかくならばすべてをさらけだしてリラックスしたい。
ちなみにこの建物は魔法でガッチリ補強を施して、残しておく所存である。
ずっと未来、後世のお話……
月へとやってきた面々がこれを発見したら、さぞや度肝を抜かれることであろう。
「なんて美しいんだろう。なんて愛らしいんだろう。これこそ究極の存在だ! 我らが真から崇めるべき対象はここにいた!」
伏し拝み、感涙にむせび泣くこと間違いなし。
そしてワガハイは神話となって語り継がれていくのである。
という冗談はさておき、まぁ、ちょっとしたイタズラである。
にゃしっしっ。
〇
喰って、寝て、たっぷり休息をとったので「そろそろ行くかにゃん」と、外に出ようとするも一歩も踏み出すことなくワガハイは扉をバタンと閉めた。
なぜなら、外がえらいことになっていたから。
カンカン照りにて、すべてがギンギラギン。
激烈な白光に覆われており「まぶしいにゃん!」
ほんの一瞬見ただけで、目玉が焼けるかとおもうほどの光量は閃光弾の比ではない。
で、遅まきながらワガハイは思い出した。
「あっ! そうだったにゃん。月は公転もしていれば自転もしているんだったにゃあ~」
公転――惑星の回りを衛星などがぐるぐる移動すること。
自転――天体が自分でぐるぐる回ること。
これらがあるからこそ朝が来て、夜が来る。
でもって月には大気圏のような空気の層なんてものはないから、太陽光がガンガン降り注ぐ。マイルドにされていない紫外線はかなりヤバい。
あー、とどのつまり、外はとっても危険だということ。
極寒地獄が灼熱地獄と化しているようなもの。
「こりゃダメにゃん」
ワガハイは出発を断念し、ドームに引っ込んだ。
「う~ん、昨日は運がよかっただけにゃんねえ。もしもタイミングがズレていたら、カネコの干物になるところだったにゃあ~」
幼い頃に憧れた月旅行。
実態はかなり過酷にて前途多難である。
ちゃんと考えて行動しないと、すぐに死んじゃいそう。
ワガハイは猛省しつつ、陽射しが落ち着くまで待機するを余儀なくされた。
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