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188 カネコ、宙へ。
しおりを挟むフッと体が軽くなった。
目が覚めて最初に見たのは小窓の外。
「暗い……いつの間にか夜になってるのにゃあ」
よろよろと立ち上がっては室内の様子を確認する。
一見すると異変はなさそうであったが……
「うにゃっ!? 階段が!」
隔壁が閉じており、階下へと続く道が遮断されていた。これでは塔を降りられない。
コンコン。
邪魔な壁を叩いてみれば堅そうな音。
でも、その気になれば破れなくはない、か。
だからワガハイは爪をジャキンとのばしては前足を振り上げるも、カネコスラッシュを放つ寸前でやっぱり止めた。
お髭がビビビと震えたからだ。
超生命体である寄宿生物カネコのお髭は、キュートなチャーミングポイントなだけでなく、なぜだかここぞという時に震えては危険を報せてくれる。それは過去の経験則からも確かだ。いわばカネコの本能のようなもの。
そんなお髭ちゃんが告げている。
『強引に突破するのは止めた方がいいよ』と。
こういうときは下手に逆張りとかしないほうがいい。
だからいったんその勘に従って、室内から脱出するのは諦めた。
代わりにワガハイは小窓へと近づこうとするも、三歩ほど進んだところで「ん!」
妙に足下がフワフワしている。肉球越しに伝わってくる感覚も変だ。
柔らかなドロとか、深い水へと足を踏み入れたときにちょっと似ているかも。
とかおもったら、ついに踏み外してツルンと盛大に転んでしまった。
すってんころりん。
天地が逆転する。
次に来るであろう衝撃にワガハイはおもわずギュッと瞼を閉じる。
でも、待てども待てども、痛みは訪れなかった。
だから恐そるおそる目を開けてみたら、天井が近づいていたもので「んん!」
ゆっくりと近づいてくる天井。
このままだとぶつかりそうなので、前足で踏ん張ろうとすれば「んんん!」
トンッと軽くチカラを込めただけで、天井へと近づいていた体が今度は離れていくではないか。
ワガハイはジタバタしつつ、どうにか天地をもとに戻したところで、ようやく自分が置かれている現状を把握した。
「う、浮いている! ――って、これってば無重力なのかにゃん! えっ、えぇー! もしかしてツクシ型ロケットってば大気圏を突破しちゃったのかにゃあ~」
前世でヒトの身だった頃、飛行機を用いて疑似的に無重力状態を作り出しては、その状況下でいろんな実験をするバラエティ番組をテレビで視聴したことがある。
宇宙ステーションから、宇宙飛行士による生中継を視聴したこともある。
宇宙を舞台にしたアニメやマンガでは、登場人物たちが重力から解放されて、あたふたしたり、はしゃいだりするシーンもわりとお馴染みだ。
かくいうワガハイとてまだまだ穢れを知らぬ幼少のみぎりには、「ボク! 大きくなったら宇宙飛行士になる」とか言っていた。
だから、もしも行けるのならば是非とも一度は行ってみたいとはおもっていた。
よもや、その夢が二度目のカネコライフで叶うだなんって……じ~ん。
ワガハイ、ちょっと感動で目をうるうるさせちゃう。
ポロリと零れた涙の雫が丸い玉となっては宙に浮いている。
それを横目に、ワガハイは小窓から外をのぞいてみた。
まず圧倒されたのは、どこまでも無限に続く広大な星の海だ。
小窓へと顔をへばりつけては眼下をのぞけば、青い地平線を持つ惑星があり、息をのむほどに美しい景色におもわず吐息が零れる。
「はぁ……すごいのにゃん。ウワサには聞いてたし、映像とかで見たことはあったけど、実物はぜんぜん別物にゃん。この景色をみたら人生観がガラリと変わるというのも、納得だにゃあ」
世界の最高峰に立ったり、宇宙から自分たちが住む星を眺めたり、あるいは深海に潜ったりすると、感動と畏敬のあまりそういう心境になるらしい。
ゆえにワガハイも感涙にむせび泣きしそうになるも、吐いた息が白くなったのを目にして現実へと引き戻された。
「ぶるる、急激に気温が下がっているのにゃあ。空気はいまのところ問題なさそうだけど、このままだとさすがにマズイにゃんねえ」
いや、もしかしたら真空状態でもカネコならば生きられるかもしれないけれども、それをぶっつけ本番で試す気にはなれない。
そこでワガハイは魔法で室内を覆う結界を張った。
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