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182 カネコ、芸術とは……。
しおりを挟む宴会の余興にと用意されたはずのオリエンテーションが、最終的には命懸けになった宝探しゲーム。
数々の試練をクリアしようやくゲットしたお宝が、生前の亡霊紳士のサイン入りブロマイド。
ムカついたワガハイが青筋を浮かべながら「うにゃーっ、ちくしょう!」とビリビリに破こうとしたとていたしかたなかろう。
でも、それを寸前で止めたのは執事さんであった。
「お待ちくださいワガハイ様。お怒りはごもっともですが、この絵柄のタッチ……もしや……」
詳細は専門家の鑑定待ちだが、おそらくは高名な画家の作品。
どれぐらい高名かといえば、一枚あれば王都にけっこう大きな家が建つといわれるぐらいには、世間から評価されている人物。
たとえモデルやモチーフがどれだけクソしょーもなくとも、絵は絵である。
そしてそんな高名な画家の幻の作品ともなれば、絵のデキうんぬんはともかくとして、オークションに出せば相当の値がつくはず。
でも、それだけではなくて執事さんはこうも言った。
「たしかに一見するとくだらない一枚ですが、これに使われている技術はかなり特殊なものかと。絵画としての価値だけでなく、技術的な面を考慮すれば、さらに価値が跳ね上がる可能性が高いかと」
とどのつまり、執事さんの言うことを要約すれば……
超有名な絵描きさんならば、便所の落書きにすらも価値がつく。
特殊仕様であれば、さらにドンと倍!
う~ん、芸術っていったい何なんだろう?
しかしこうなると現金なもので、小憎たらしいキラキラカードがとたんに素晴らしいモノに見えてくる。
ワガハイは振り上げた拳をあっさりおろし「芸術に罪はないのにゃあ~」と手の平を返した。
そんなブロマイドもどきだが、お嬢さまはまったく興味を示さず。
「そう……だったらこれは報酬として貴方がとっておきなさい。そのかわり、こちらの箱をわたくしにくださいな」
仮面令嬢が所望したのは入れ物の方。
木目が美しい寄せ木細工の丁寧な仕事が気に入ったとのこと。
もちろんワガハイに異論はない。
さりとていくら価値があろうとも、こんな悪趣味なカードをアイテムボックスに入れておきたくない。たとえ問題ないとはいえ、心情的にお肉とかの食べ物といっしょにしておきたくない。
するとそんなワガハイの本音が露骨に顔へ出ていたらしくて、執事さんが「でしたら、こちらは当家の方で王都のオークションに出品して、のちほどワガハイ様に報酬を支払うということでいかがでしょうか?」と提案してくれた。
「それは助かるのにゃん。お願いするのにゃあ」
「わかりました。では手数料と仲介料を差し引いた分を後日口座の方へ振り込ませていただきます」
ちゃっかり仲介料をとられた!
が、かかる手間や労力を考えればそれもやむなし。
ワガハイはにへらと了承した。
〇
宝探しゲームにて、邸内を奔走した日の夜更けのことである。
「もし……もし……」
グースカ鼻ちょうちんにて気持ちよく寝ているところへ声をかける者がいる。
「誰にゃあ、こんな時間に……って、リッチーさんかにゃ。どうしたにゃん?」
リッチーさんは亡霊紳士であるがゆえに睡眠は必要ない。
だから夜通し邸内をフラフラしている。
そんなリッチーさんが真夜中の訪問、いったい何事かとおもいきや。
「えっ、屋敷に侵入者!?」
現在、仮面令嬢が滞在中ゆえに、この屋敷には彼女が連れてきた護衛の騎士たちが24時間体制にて警備にあたっている。みな生え抜きの実力者揃いだ。執事さんをはじめとしてメイドさんたちもクセモノ揃い。
そんな連中の目を掻い潜って屋敷に潜入するだなんて信じられない。
「本当なのかにゃん?」
「はい。極めて巧妙に姿や気配を隠していますが、間違いありません」
「にゃるほど……となれば、敵は相当の手練れにゃんね。しかし狙いは何にゃ」
ワガハイは「ムムム」と首をかしげる。
例の婚約破棄騒動にまつわることならば、お嬢さまということになる。
貴族社会は複雑怪奇にて、家と家、個人と個人、一族と一族、立場、利権、愛と憎しみ、嫉妬や妬み、思想、信条、さまざまな思惑がドロドロに入り交じっているという。
王弟の息子側からの逆恨みという線も捨てきれないけれども、仮面の令嬢の家がこれを機に影響力を増すことを苦々しくおもっている一派もいるわけで、そちらの線も捨てがたい。
「……にしても暗殺業を生業にしている輩が、どうやってトライミングに入ってこれたのにゃあ」
都市への出入りは厳重にて、入場審査の際にはレジメ板に触れなければいけないから、ごまかせない。
非公認の裏ルートがあるらしいけど……
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