182 / 254
182 カネコ、芸術とは……。
しおりを挟む宴会の余興にと用意されたはずのオリエンテーションが、最終的には命懸けになった宝探しゲーム。
数々の試練をクリアしようやくゲットしたお宝が、生前の亡霊紳士のサイン入りブロマイド。
ムカついたワガハイが青筋を浮かべながら「うにゃーっ、ちくしょう!」とビリビリに破こうとしたとていたしかたなかろう。
でも、それを寸前で止めたのは執事さんであった。
「お待ちくださいワガハイ様。お怒りはごもっともですが、この絵柄のタッチ……もしや……」
詳細は専門家の鑑定待ちだが、おそらくは高名な画家の作品。
どれぐらい高名かといえば、一枚あれば王都にけっこう大きな家が建つといわれるぐらいには、世間から評価されている人物。
たとえモデルやモチーフがどれだけクソしょーもなくとも、絵は絵である。
そしてそんな高名な画家の幻の作品ともなれば、絵のデキうんぬんはともかくとして、オークションに出せば相当の値がつくはず。
でも、それだけではなくて執事さんはこうも言った。
「たしかに一見するとくだらない一枚ですが、これに使われている技術はかなり特殊なものかと。絵画としての価値だけでなく、技術的な面を考慮すれば、さらに価値が跳ね上がる可能性が高いかと」
とどのつまり、執事さんの言うことを要約すれば……
超有名な絵描きさんならば、便所の落書きにすらも価値がつく。
特殊仕様であれば、さらにドンと倍!
う~ん、芸術っていったい何なんだろう?
しかしこうなると現金なもので、小憎たらしいキラキラカードがとたんに素晴らしいモノに見えてくる。
ワガハイは振り上げた拳をあっさりおろし「芸術に罪はないのにゃあ~」と手の平を返した。
そんなブロマイドもどきだが、お嬢さまはまったく興味を示さず。
「そう……だったらこれは報酬として貴方がとっておきなさい。そのかわり、こちらの箱をわたくしにくださいな」
仮面令嬢が所望したのは入れ物の方。
木目が美しい寄せ木細工の丁寧な仕事が気に入ったとのこと。
もちろんワガハイに異論はない。
さりとていくら価値があろうとも、こんな悪趣味なカードをアイテムボックスに入れておきたくない。たとえ問題ないとはいえ、心情的にお肉とかの食べ物といっしょにしておきたくない。
するとそんなワガハイの本音が露骨に顔へ出ていたらしくて、執事さんが「でしたら、こちらは当家の方で王都のオークションに出品して、のちほどワガハイ様に報酬を支払うということでいかがでしょうか?」と提案してくれた。
「それは助かるのにゃん。お願いするのにゃあ」
「わかりました。では手数料と仲介料を差し引いた分を後日口座の方へ振り込ませていただきます」
ちゃっかり仲介料をとられた!
が、かかる手間や労力を考えればそれもやむなし。
ワガハイはにへらと了承した。
〇
宝探しゲームにて、邸内を奔走した日の夜更けのことである。
「もし……もし……」
グースカ鼻ちょうちんにて気持ちよく寝ているところへ声をかける者がいる。
「誰にゃあ、こんな時間に……って、リッチーさんかにゃ。どうしたにゃん?」
リッチーさんは亡霊紳士であるがゆえに睡眠は必要ない。
だから夜通し邸内をフラフラしている。
そんなリッチーさんが真夜中の訪問、いったい何事かとおもいきや。
「えっ、屋敷に侵入者!?」
現在、仮面令嬢が滞在中ゆえに、この屋敷には彼女が連れてきた護衛の騎士たちが24時間体制にて警備にあたっている。みな生え抜きの実力者揃いだ。執事さんをはじめとしてメイドさんたちもクセモノ揃い。
そんな連中の目を掻い潜って屋敷に潜入するだなんて信じられない。
「本当なのかにゃん?」
「はい。極めて巧妙に姿や気配を隠していますが、間違いありません」
「にゃるほど……となれば、敵は相当の手練れにゃんね。しかし狙いは何にゃ」
ワガハイは「ムムム」と首をかしげる。
例の婚約破棄騒動にまつわることならば、お嬢さまということになる。
貴族社会は複雑怪奇にて、家と家、個人と個人、一族と一族、立場、利権、愛と憎しみ、嫉妬や妬み、思想、信条、さまざまな思惑がドロドロに入り交じっているという。
王弟の息子側からの逆恨みという線も捨てきれないけれども、仮面の令嬢の家がこれを機に影響力を増すことを苦々しくおもっている一派もいるわけで、そちらの線も捨てがたい。
「……にしても暗殺業を生業にしている輩が、どうやってトライミングに入ってこれたのにゃあ」
都市への出入りは厳重にて、入場審査の際にはレジメ板に触れなければいけないから、ごまかせない。
非公認の裏ルートがあるらしいけど……
5
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる