寄宿生物カネコ!

月芝

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181 カネコ、スン。

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 隠し通路から飛び出して「ふぅ、やれやれ」
 とおもったら、甘かった!

 パタ、パタパタ、パタパタパタタ……

 例の音がまだ追いかけてくるではないか!?

「へっ、にゃんで?」

 ふり返れば、空間消失がすぐ背後まで迫っていたもので「にゃーっ!!」
 てっきり閉じ込められた部屋と、そこへと通じている隠し通路内で完結するのかとおもいきや、さにあらず。空井戸の底にまでおよぶどころか、ここをも呑み込む勢いにて。

「あんぎゃあ~~~~」

 ワガハイは涙目にて爪をジャキンとのばしては、壁に張りつきシャカシャカシャカ……
 油虫のごとく壁走りにて駆けのぼる。
 風魔法で空を飛べたらよかったのだけれども、あいにくと魔力と姿勢制御がムズカシイので、じつは飛行魔法は実現していない。
 だからこそグランシャリオ国の飛行船アンフィニみたいな乗り物が幅を利かせているわけで。

 ワガハイが地上へ飛び出すのと、空井戸が埋まるのはほぼ同時であった。
 それすなわちワガハイだからこそギリギリ助かったけれども、ふつうだったら死んでいたということ。もしくは空間消失に巻き込まれてどこぞに強制転移させられていたかもしれない。
 転移魔法は破人たち以外は使えないという話だったけれども、それに近い技術を用いていたとしたらスゴイこと。
 う~ん、キューブの制作者ってば、いったい何者?

 まぁ、それはさておき。
 ワガハイはお宝をゲットして無事に帰還を果たした。
 ちなみに決死の脱出劇をくり広げたワガハイを出迎えたのは、お嬢さま付きのメイドさんのうちのひとりのみ。お嬢さまや執事さんらの姿はない。

「あれ、お嬢さまたちは?」
「辺りが暗くなってきましたので、お屋敷の方へ戻られました」
「………………」

 危うく死にかけた者に対するこの仕打ち。
 ちょっと酷くない?
 と、ぷつぷつ文句を口にしつつ、ワガハイはメイドさんと沼地の小島をあとにした。

  〇

 所かわって、邸内のリビングルームにて――

 辺境都市にて発行しているローカル新聞。
 一面の特集は王都で起きた騒動についての特集であった。
 記事に目を通していたお嬢さまが顔をあげる。

「あら、お帰りなさい。その様子では首尾は上々のようですわね。それが例の?」
「はい、だにゃあ~。にしてもヒドイ目に合ったのにゃあ。リッチーさんはどこにゃん、苦情のひとつでも言ってやらないと気がすまないのにゃあ」

 ワガハイは「にゃあにゃあ」文句を言いながら、ゲットした小箱を差し出すも「あー、もしかしたらそれにもイジワルな罠が仕掛けられているかもしれないにゃん」と念のために注意を促す。
 なにせ今回の宝探しゲームってば、進行するほどに仕掛けが段々と凶悪になっており、殺る気マンマンだったもので。

 そこでまずは執事さんが「僭越ながら」と小箱を手に取り確認する。
 彼のかけている眼鏡はおそらく魔道具なのだろう。商業ギルドの副ギルド長がつけている片メガネと同じく鑑定機能が付いているのかもしれない。

 小箱を手に取り返すがえす眺めては、執事さんのメガネの奥にてキランと目が光る。
 やがて小箱をお嬢さまのもとへ差し出し「魔力反応は一切検知されません。どうやらふつうの箱のようです。ただし……」

 執事さんは言った。

「ただの箱ではなくて、からくり細工のようです」

 からくり細工の箱――秘密箱といえば箱根の寄木細工が有名であるが、どうやら持ち帰った小箱はそれと同じような品らしい。
 それすなわち、開けるのにさらにひと苦労をしいられるということ!

「どんだけお宝を渡したくないのにゃん!」

 お行儀が悪いけど、ワガハイがそう叫んだとてしょうがあるまい。
 だがしか~し、生前のリッチーさんとキューブの制作者も、よもやここにパズルの申し子のような仮面の令嬢がいようとは夢にもおもわなかったことであろう。

 じつに49もの手順を経ねば開かない小箱。
 それを仮面の令嬢はわずか三分ほどで解除する。
 挙句に言うことにゃあ。

「ちょっと物足りませんわね」

 で、ようやくお目見えしたお宝については一瞥したのみで興味を失ってしまった。
 だがそれもしょうがあるまい。
 なぜならワガハイもそれを前に、スンと顔から表情が抜け落ちたもの。

 小箱のなかにあったのはケースに入れられた一枚のキラキラしたトレーディングカードっぽいの。
 サイン入りのブロマイドみたいなやつだけど、そこに描かれていたのは生前のワガママボディの頃のリッチーさんの姿であった。


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