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180 カネコ、箱に閉じ込められる。
しおりを挟む風属性の魔法にて落下速度を調整しながら、フワフワと降りていく。
竪穴はそこそこ深い。
周囲の壁が途中から人工のものではなくて、天然とおぼしき岩肌に変わる。どうやらもとからあったものに手を加えたようだけど。
「……とか、考えているうちに底に到着っと」
深いは深いけど、そこまでムチャクチャな深さじゃなかった。
で、空井戸の底には膨大な量の人骨が……
な~んてことはなくて、何もなし。
執事さんは物騒な使用目的を考察していたけど、もしかしたら大雨の時とかに池の水が溢れないようにする貯留施設なのかもしれない。
ワガハイは穴の底をガリガリと引っ掻いてみる。
堅い岩盤があるようで、さして掘り進められそうにない。
フム。お宝を埋めて隠すには適した土質ではないようだ。
キョロキョロと周囲を探せば、壁の一部に違和感を覚えたもので「カネコアイだにゃあ~」
第三の目を見開き、じ~っと。
すると薄っすらと魔力による保護がかけられているではないか。
肉球にてその箇所をぷにっと押せば、淡く光ってウィンと横にスライドする。
「まるで自動ドアだにゃん!」
隠し扉の奥には通路が続いていた。
ワガハイでもギリギリ通れる幅にて、ほっとする。
「ここまできてダメとかいわれたら、さすがにブチギレにゃ」
通路の長さはさほどでもなくて、すぐに突き当たりへと。
で、またしても扉であるが今度のは普通のドアだった。
板チョコみたいなデザインのドアを開ければ、そこは四角い空間。
キューブをそのまま大きくしたかのような造りにて、もしかしたらここを作ったのもあの魔道具と同じ制作者なのかもしれない。
そんな空間の真ん中には台座があり、上にちょこなんとのっていたのは……木製の小箱?
「また箱かにゃあ。なみなみならぬ情熱を感じるのにゃ。作者はきっと無類の箱好きにゃんねえ」
箱、箱、箱と執拗なまでの箱づくし。
ここまでくると職人のこだわりというよりかは、箱マニアの変態といったほうがしっくりくる。
「生前のリッチーさんもたいがいみたいだったし、類は友を呼ぶにゃんねえ。なんにせよあんまりお近づきにはなりたくないのにゃあ」
なんぞと言いつつ、ワガハイは発見した小箱をアイテムボックスへと放り込む。あんまりグズグズしていたら、上で待っている仮面令嬢が機嫌を損ねるかもしれない。だから中身を確認するのはあとにする。
で、用事がすんだのでとっとと帰ろうとしたんだけど……ガチャ、ガチャ、ガチャ。
「うにゃ!? ドアが開かにゃい。ロックされている!」
もしかして台座から小箱を動かすと発動する罠とか、なんてベタな。
とワガハイが内心で呆れていると聞こえてきたのが……
パタ、パタパタ、パタパタパタタ。
何やら聞き覚えがある音である。
たしかキューブのパズルを解いた際に聞こえたアレだ。
硬質の箱がたちまち紙の箱へと変化して、ほどけて箱から一枚の地図になった時の。
「にゃっ、ま、まさか」
どうにもイヤな予感がしたワガハイが、バッと音が聞こえる方を見上げたら。
四角い空間が天井の方から、パタパタとまるでドミノが倒れるみたいにして少しずつ消えていくではないか!
宝を狙う不埒者を閉じ込めるだけでなく、空間ごと葬るつもりのようだ。
「うんぎゃーっ、悪辣にもほどがある!」
あわてて扉をこじあけようとするも、ガチャガチャとするばかりで開かない。
この『もうちょっとがんばれば開きそう』という仕様もまた厭らしい。
どうしてそのことがわかったのかといえば、カネコスラッシュやカネコパンチで殴ってもドアが破れなかったから。数多の敵を張り倒してきたワガハイの拳が通じない。衝撃が吸収されて、散らされているっぽい。
そうしてドアにかかりっきりなっている間にも、部屋の消失はどんどんと進行している。
このまま部屋の中にとどまり続けたらどうなるのかわからない。
さすがに身の危険を感じたワガハイは――
「カネコビーム、極小バージョン!」
額にある第三の目をカッと見開き、シュビビビと怪光線を放った。
ただしドア目がけてではなくて、その縁をなぞるようにして壁の方へと。
ようは高温のガスバーナーで鉄を切断する要領にて、壁ごとやっかいなドアを抉ったのである。
この方法は巧くいき、ワガハイは無事に四角い部屋から脱出を果たした。
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