寄宿生物カネコ!

月芝

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179 カネコ、前言を撤回する。

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 パタ、パタパタ、パタパタパタタ……

 どういったカラクリなのか、さっぱりわからない。
 硬質だったパズル――キューブの集合体が折りたたんでいた紙がほどかれるようにして、広がっていき、変質し、ついには一枚の見取り図となる。
 これがパズルを解いたらあらわれるという宝の地図っぽい。

 あらわれた地図をのぞき込む。

「フムフム、これはこの屋敷の見取り図にゃんねえ」
「そのようですわね」
「おや、お嬢さま、こちらに印が……」

 執事さんが指差したところには、たしかに赤でバツ印が入っている。
 場所は屋敷の裏手にある小池のところだ。
 というわけで、さっそく行ってみたのだけれども……

「池というか……沼ですわね」
「緑色で沼っているのにゃあ」
「これはこれで趣がありますが、バラの庭園とでは好みが分かれそうです」

 沼っぽい小池があって、浮島があって、アーチ状の小橋がかかっており、島には八角形のガゼボがある。
 橋やガゼボはこじゃれたデザインながらも、場の雰囲気がどことなく陰気にて、景色も寒々しく、あんまりリラックスはできそうにない。
 地図によるとお宝はガゼボにあるようだ。

 が、ガゼボを調べてみるも何もない。
 シンプルな造りの東屋にて、屋根と柱とベンチとテーブルがあるだけ。壁はなくて、吹きっさらし。モノが隠せるようなスペースはどこにも見当たらず。

「へんにゃんねえ」
「ずいぶんと昔の話みたいですし、とっくに誰かが持って行ってしまったか、あるいは風で飛んでいってしまったとか」
「それはどうでしょうか、お嬢さま。リッチー氏は死後もずっと館に憑いていたそうですから、外部の者がちょっかいを出せる状況にはなかったようです」

 殺されて壁に塗り込まれて、死霊と化したリッチーさんはワガハイと出遭うまで、自称・死霊王を名乗っては、屋敷を訪れる者らに嫌がらせをしては追い返していた。
 そんな大人げのなかった旧リッチーさんがコソ泥なんかに好きにさせるわけがない。
 ようは防犯レベルだけはムダに高かったということ。

 その時のことであった。
 不意に床板がギシリと軋む。
 仮面の令嬢はヒールをはいているので、カカトで踏めば鳴ってもおかしくはない。
 けれどもこれにハッとしたのが執事さん。

「もしかしたら、ここも給仕室と同じなのかもしれません」

 二十七個あったキューブ、その最後のひとつが隠されていた場所が給仕室。
 敷物の下に隠れた床下収納の中にあったというが、他とちがってここだけ隠し方が巧妙にて。発見するには、わざわざ家具を部屋の外へと運び出しては室内を総ざらいする必要があった。
 それに死体があるという秘密の地下室の存在のこともある。
 どうやら生前のリッチーさんはそういったモノが好きだったっぽい。
 いくつになっても少年の頃の気持ちを忘れないなんて、クズだけどお茶目な一面も持っていたようだ。

 で、執事さんがにらんだとおりであった。
 テーブルやイスを運び出し、床板を引っぺがしたら、あらわれたのは空井戸。
 いや、井戸というにはいささか大きい。なにせワガハイでも余裕で潜り込めそうにて、ガゼボそのものがすっぽり収まるほどもある。
 そんな穴が直下にずどんと。
 ためしに小石を落としてみたら、音が返ってくるまでにそこそこ時間がかかった。
 見た目通りにて、かなり深い穴のようだ。
 もはや立派な奈落である。

 一同、穴の縁から底の方をのぞきこみ……

「ここへ潜れと? 宴会の余興のゲームで?」
「本当に景品を渡すつもりがあったのか、はなはだ疑問ですわね」
「ざっと調べたところでは、この穴と上に乗っていたガゼボは連動しているみたいです」

 執事さん調べによると、この場所は設置型のトラップ。
 誘われるままにガゼボにてお茶なんぞを楽しんでいたら、いきなり床どころかガゼボごと穴の底へとおっこちて……といった凶悪な仕様。
 そして新たなガゼボでフタをして、何事もなかったかのようにシレっとごまかすという寸法らしい。

 そんな危険な場所にホイホイ踏み込んでしまっていた。
 もしかしたら自分たちも餌食になっていたかもしれないと知って。

「エグすぎっ! お茶目じゃなくてクソ外道にゃん!」

 前言を撤回するワガハイ。
 そんなワガハイに仮面の令嬢が言った。

「では、ここから先は貴方におまかせしますわ」
「にゃ、にゃんでワガハイが!」
「だって冒険者なのでしょう? 穴倉に潜るといったら冒険者の出番ではないですか」

 お嬢さまの言葉に執事さんやお付きのメイドたちもウンウンうなづく。
 口にこそは出さないけれども、みんなの目がこう語っていた。

『このゴク潰し、毎日毎日食っちゃ寝をしやがって。たまには働け!』と。

 無言の圧力に屈したワガハイは「ちくしょう!」と半べそをかきながら、穴へぴょんと飛び込んだ。


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