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177 カネコ、のしのしさらさら。
しおりを挟む総数二十七個のキューブを集めると、宝の地図が手に入る。
ただいま手元にそろっているキューブは十一個。
現物があって、微量ながらも魔力が宿っていることもわかっているのだから、同様の魔力を探って辿っていけば、たやすく残りも発見されるのでは? 楽勝じゃん!
などとワガハイは考えたのだけれども、それは甘かった。
キューブの魔力ってばぜんぶ異なっており、かつLEDライトのごとくパターンがちょいちょい変わるという芸の細かさを見せたのである。
「すごい……けど、とんだ技術のムダ遣いだにゃあ~」
「……ですわね」
「なにかに応用できそうですが」
ワガハイと仮面令嬢と執事の三人は、やっかいなキューブを前にして「う~ん」
仕掛けた当人であるリッチーさんも人任せだったらしく、どこに隠したのかなんて知らないというし。
「しょうがありませんわね。こうなれば人海戦術でいきましょう」
お嬢さまの鶴の一声により、屋敷に滞在中の総員がこぞってキューブを探すことになった。
が、ただ家探しをするのもなんなので「ついでに掃除もしましょう」と執事が言い出した。屋敷での滞在も五日を越えると、すっかり馴染んでちょいちょい生活臭もにじむ頃合いにて。慣れからつい気も緩みがち。
タイミング的にもちょうどいいので、ここいらでいったん気持ちをリセットするのに大掃除を敢行する。
整理整頓をして身を引き締め、ついでにキューブも見つかるから一石二鳥という次第。
さすがはデキる執事は抜け目がない。
ワガハイはほとほと感心した。
〇
のし、のし、のし、のし……
ワガハイは背に仮面の令嬢を乗せて歩く。うしろにはお付きの面々がついてきており、まるでちょっとした大名行列のようだ。
高位貴族のお嬢さまともなれば、ちょいとそこまでであっても、おいそれとは歩かないし、つねに誰かをはべらせている。
が、ここは辺境にて、ただいまバカンス中である。
他人の目を気にしなくていいこともあって、「あら、あなた、ちょうどいいわね」とワガハイがお嬢さまの足代わり……もとい移動係に任命されてしまった。
これをご褒美ととるか、屈辱と感じるかは個人の性癖によるだろう。
ちなみにワガハイは……ヒ・ミ・ツ。
だが移動係になった役得には満足している。
それはシャンプーとトリートメントだ。
あれは最初にワガハイに乗った時のことであった。
「悪くはないけれども少し固いわね。毛もなんだかゴワゴワしているし。あと独特の加齢臭みたいな獣臭もちょっとイヤだわ」
お嬢さまが不満を口にしたとたんに、どこからともなくあらわれたメイド軍団にワガハイは拉致された。
で、ドボンと放り込まれたのは浴槽にて。
よってかたってワシャワシャされた。
あ~んなところや、こ~んなところまで容赦なくいじくりまわされた。「ワガハイ、もうお嫁にいけにゃい!」
けれどもそのおかげでワガハイは待望のサラサラヘアーを手に入れたのである。
自分でもこまめに手入れはしていた。毎日欠かさず自身にクリーンの魔法をかけていたし、たまにお風呂にも入っていた。商業ギルドを通じて手に入れた洗髪料なんぞも、あれこれ試したりもした。
しかしなかなか満足のいく成果を得られず、「ワガハイのキューティクルはどこに消えたのにゃん?」と、ずっと悶々とした日々を過ごす。
それが解消された。
お嬢さまたちを磨くことに関しては他の追随を許さない、プロフェッショナルなメイドたちの仕事ぶりにワガハイは脱帽である。
世の女性陣たちがこぞって大金を払ってまで、エステや美容院に通う理由がわかったような気がする。
かくして仮面令嬢より合格をもらい、ワガハイは歩く毛皮となって彼女を騎乗させうろつく栄誉を賜ったという次第。
アムールトラほどもある毛玉の背に、両膝を揃えては横座り。
そんなお嬢さまを落とさないようにと、ワガハイは細心の注意を払いつつ、そろりそろり。
邸内を練り歩いては、大掃除&宝探しゲームの進捗状況を見てまわる。
「わたくしもひとつぐらいは自分で見つけたいわね」
なんぞとお嬢さまがつぶやく。
それを受けて、音もなくいなくなったのは背後から静々と従っていたお付きの面々のうちのひとり。
おそらくは準備を整えるべく奔走したのであろう。
ワガハイはカネコイヤーをピクピクさせながら、内心で「たいへんだにゃあ」とおもいつつも素知らぬふりにて。
こうしている間にも着々とキューブは発見されており、その数は二十個にまでなっていた。
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