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174 カネコと仮面の令嬢。
しおりを挟む――お、鬼!?
これが初見時にワガハイが抱いた彼女への第一印象である。
お付きの執事にエスコートされて、馬車から降りてきたご令嬢。
さすがは王族との婚姻を打診されるだけあって、可憐で気品があり所作が優雅である。
何をしても絵になる。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……なんて言葉がピッタリ。
なのにどうして鬼なのかといえば、ズバリ! 顔につけているお面のせいだ。
細い首から上にのっているのは厳つい仮面。鬼瓦みたいなデザインにてワガハイが想像していたのと全然ちがう。
てっきりイタリアのヴェネツィア・カーニバルとかでかぶる、ちょっと妖しくも幻想的な銀のマスクとかなのかとおもいきや、神楽舞とかの時に使用されるようなゴツイのだった。
う~ん、仮面の存在感が半端ない。
もっとオシャレなのかとおもっていたのに……
これでは王弟の息子がうんざりしちゃうのもムリはないかも。
とか、失礼なことを考えていたら執事にギロリとにらまれた。
オールバックのイケメン眼鏡なこの執事もまた只者じゃない。一切のソツがないというか、ムダのない洗練された動き。まったく隙がない。
たぶん令嬢ともども、この執事も超強い。
いっしょにやってきた護衛の騎士たちも、みな屈強にて実力は推して知るべし。
三食昼寝付、豪奢な貴族の屋敷内にてゴロゴロしては、たまに仮面の令嬢の話し相手をして「オホホホ」と上品に微笑むだけの簡単なお仕事。
ギルド長から直接そう説明されたものの、ワガハイは疑っていた。
けれども、この様子ならば本当に何もしなくてもよさそうである。
「……とか油断していたら、これだにゃあ~。まさかこんなオチが待っていたにゃんて……」
問題が発生したのは仮面の令嬢の滞在先だった。
てっきり領主館なり迎賓館なり高級ホテルあたりかとおもいきや、さにあらず。
よりにもよってあそこだったのである。
『遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。みなさま』
一行をうやうやしく出迎えたのは、タキシード姿のよく似合う紳士なホワイトゴースト。
この透けてるダンディさんとワガハイは因縁浅からぬ仲にて。
彼は元リッチ(金持ち)でリッチ(死霊)なリッチーさん。
生前の頃には、金と権力にあかせてやりたい放題。
広くて豪華な屋敷にて毎夜宴に興じてはウハウハ酒池肉林の生活を送るも、とある美しい娘に懸想したのが運の尽き。
娘には将来を誓い合った若者がいて、娘と共謀して「この腐れ外道が、死にさらせ!」とブスリと殺られちゃった。
ばかりか、その骸を屋敷内にある秘密の地下室の壁に埋め込まれてしまう。
しかし憎まれ子世にはばかる。
腐った魂は転んでもただでは起きない。
殺され死霊と化しては屋敷にとり憑き、居座り続けるようになった。
この事態に頭を痛めていたのが商業ギルドだ。
幾人かの手を経て商業ギルドが屋敷を管理することになったのだが、自称・死霊王が「ガハハハ」と居座っているせいで、空気の入れ換えや掃除、庭の手入れもままならない。
貴族街でも屈指の大豪邸なのに、すっかり荒れ果てお化け屋敷に!
街の景観を損ねるばかりか、隣近所の地価までだだ下がりにて。そのくせ高い税金だけはしっかりとられるせいで、すっかり不良債権となってしまった。
これを憂いて、腕に覚えありの聖職者たちを派遣するも、みな死霊王に返り討ちにされて泣かされてしまう。
「ちくしょう。いっそ火でもつけて全部燃やしてしまうか」
と、いよいよ思いつめていた時に、お鉢が回ってきたのがワガハイのところであった。
もっとも依頼内容は屋敷の掃除だったけど。
屋敷だけでなく、そこに巣くっていた死霊王をもワガハイの魔法により、ピッカピカにした結果、リッチーはいまの姿に生まれ変わったというウソのような本当の話。
「にしても、よりにもよってどうしてここに?」
ワガハイがこそっと執事さんに訊ねたら「お嬢さまのご要望です」
滞在先の候補を絞っている時に、たまたまヘンテコな屋敷があるというウワサを耳にしたお嬢さまが「いいわね、面白い。そこにしましょう」と即決してしまったそうな。
どうやらこの仮面の令嬢は、格好が奇抜なだけでなく、中身もかなり変わっているっぽい。
そんな彼女が辺境でおとなしくなんてしているだろうか?
う~ん、ワガハイは一抹の不安を覚えずにはいられない。
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