172 / 256
172 カネコ、乙女ゲーム編スタート。
しおりを挟む南の隣国でのあれやこれ。
連絡を受けて駆けつけた連合軍の先遣隊への引継ぎをすませたところで、ワガハイたちはお払い箱……げふんげふん、失礼。
もといお役御免となり、ようやく帰路についた。
で、報告がてら冒険者ギルドのギルド長のもとを訪ねる。
「ただの物見遊山だったはずなのに、えらい目に合ったのにゃあ。心も体もちっとも休まりゃしない」
休暇がメインでおまけの偵察業務だったはずが、途中からガッツリお仕事。コツコツ貯め込んでいたお肉も大放出にて、すっからかん。
いちおう食料を配給するときに「カネコ、カネコ、かわいいカネコ、ステキなカネコ、愉快なカネコ。家内安全、無病息災、しあわせを運ぶ寄宿生物カネコ、ご所望の方は城塞都市トライミングの冒険者ギルドにご一報くださいにゃん」と宣伝はしておいたけど。
話がちがうとワガハイがぷつぷつ文句を言っていたら、ギルド長が「こっちはこっちでたいへんだったんだぞ」と負けずに愚痴り返してきた。
「へ~、なにかあったのかにゃあ?」
「あったぞ。それもけっこう特大級のが」
とはいっても、ここではなくて中央の都の方で。
いったい何が起きたのかといえば王妃暗殺未遂事件というから、ワガハイのしっぽもおもわずピンと立つ。
事件が起きたのは、タイミング的にワガハイがえらい学者先生と共に南へと向かってすぐのこと。
ちなみに事件の概要は以下の通りにて。
〇
エスカリオ国の王都には貴族の子息子女らが通う全寮制の学園がある。
頼りになる教師陣、確かな実績、充実の設備とカリキュラム、けっこう優秀にて周辺国からも王族や高位貴族の身内が、わざわざ留学にやってくるほど。
そんな学園の卒業記念パーティーの席で事件は起きた。
これから本格的に貴族社会という荒海に乗り出す若人ら。
彼らの前途を祝福するだけでなく、決起集会の意味を持つ大切な式典の場にて――
「キサマのような口うるさいだけの性悪な仮面女なんてもううんざりだ! いま、この時をもって、おまえとの婚約を破棄する!」
めでたい門出の席で、いきなりトチ狂った発言を堂々としたのは王弟の息子である。
かたわらには、いかにも男性受けが良さそうな、ピンク髪のゆるふわな娘の姿もあった。
公衆の面前での罵倒と婚約破棄。
ひどい話だ。
やった方は気分がいいかもしれないが、やられた方はたまったものじゃない。
面子丸潰れにて、とんだ赤っ恥である。ましてやそれが、うら若き乙女の身となればなおのこと。あんまりな仕打ちにてショックのあまり卒倒したとておかしくない状況だ。
さぞや屈辱と羞恥にて打ち震えていることかとおもいきや……
婚約破棄を言い渡された仮面の令嬢は「よし!」
腰の脇で拳をグッと握りしめては、控えめながらも喜びを表明していた。
でもって、この場面を目撃することになったパーティー参加者らの大半も「でしょうね」とウンウンうなづく。
なぜならこんな場所で、こんなマネを仕出かしちゃうことからもお察しのとおり、王弟の息子はとっても残念な人物であったから。
誇るべきは家柄だけ。在学中のやらかしを数えたら、両手両足の指をすべて使ったとしてもとても足りやしない。
そんな問題児……もとい男の婚約者に選ばれてしまったことこそが仮面令嬢の不運。ちなみに婚約は王族側からのたっての希望にて。
なお仮面令嬢の方は品行方正、学業優秀にて、在学中はずっと首位を維持するほどの才媛であった。
ふつうならば三顧の礼をもって嫁に迎え入れたいほどの逸材である。
でも王弟の息子にとっては、それもまた気に入らなかったらしい。
ことあるごとに周囲からは婚約者と比べられて、「少しは彼女を見習え」と叱咤される。
加えて彼女がずっと被っている仮面もまた腹立たしい。
あんまりにもうっとうしいから「はずせ!」と命じても、相手はツーンとそっぽを向いて無視するばかり。「このやろう!」とぶち切れて強引に取り上げようと詰め寄れば、軽くあしらわれて尻もちをつかされる。
仮面令嬢は学問だけでなく武術にも秀でていた。
何もかも婚約者より劣っていた王弟の息子はコンプレックスをこじらせまくって、ついにはこのような暴挙におよぶ。
なのに当人はそのことにまったく気がついていない。
ゆるふわな娘の腰を抱き、人目もはばからずにイチャコラしているのだから度し難い。
などの内訳はともかくとして。
突然の婚約破棄騒動に式典会場はザワザワザワ。
そのタイミングで入場してきたのが王妃さまであった。本日は忙しい王さまにかわって卒業生らに祝辞を述べるための参加であったのだけれども。
「……これはいったい何事ですか?」
スッと目を細める王妃さま。
淡々とした声音ながらも、そこに込められた怒気により、会場はたちまちシ~ンと静まり返った。
にもかかわらず、やはり当事者だけがそのことに気づかない。
どうやら王弟の息子には家柄以外にも優れた点があったようだ。
それは鈍感力である。
ここまで空気が読めないのは逆にすごい。
王弟の息子はゆるふわな娘を連れて王妃さまの御前へと。
そして「伯母上、オレはついに真実の愛をみつけた」とかのたまうものだから、さしもの王妃さまもすっかり呆れ顔となってしまう。
さらには許可も与えていないのに、ズイと前へと出てはカーテシーをしたのは、ゆるふわの娘である。
仕草こそはそれっぽいが、下位の者から上位の者へ声をかけるのはマナー違反である。
貴族社会では常識、その程度のこともわきまえていないのかと、王妃さまは扇子で口元を隠しながらついタメ息を零してしまう。
周囲からも失笑が聞こえ、場もしらけ、悪い意味で緊迫していた空気もフッと緩んだ。
だがその瞬間のことであった。
顔を伏せてお辞儀をしていた娘がいきなりガバっと面をあげたとおもったら、いきなり王妃さまへとに躍りかかったのである!
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる