寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
170 / 266

170 カネコ、乱々。

しおりを挟む
 
 漆黒の獣なる群体をごっくんしたベトベトさん。

「おつかれした~」

 とばかりにスチャッ、手を振るような仕草をしたとおもったら、いつものごとくシュルルとワガハイの影の中へ帰っていった。

「ベトベトさんが優秀すぎる。これなら怪人八号のときも任せておけば楽勝だったのでは……」

 いや、アレはダメか。
 全部、呑み込んじゃったら証拠が残らないし。
 にしても呑み込まれたモロモロはどこへ消えているのだろう?
 とっても気になります。

「おっと、いまはそれどころじゃにゃかった。はやく学者先生をシェルターから出さないと、あとでまたグチグチ嫌味を言われるのにゃあ~」

 ワガハイはシェルターの方へと向かった。

  〇

 えらい学者先生と合流したワガハイは、闇の結界から解放されたスぺリエンスの王都へと足を踏み入れたものの……

「うんにゃあ~」
「やはり、か」

 城門をこじ開けて中をのぞいてみれば、そこかしこにあったのは激しい争いの痕跡である。
 建物がいくつも倒壊しては瓦礫の山となり、火事もあったよう。鎮火はしているけど一帯がまだ焦げ臭い。引っくり返ったままの荷車が通りに放置されている。散乱した荷が不特定多数によって踏まれてぐちゃぐちゃ。商店も荒らされていた。民家も無事な窓や扉の方が少ない。
 ヒトの姿はなく、街はゴーストタウンと化していた。

 ちょっと暴動が起きたとかのレベルではない。
 殺伐とした景色は完全に戦場のそれであり、内乱とか革命などの大規模な戦闘が勃発したとおもわれる。
 どうやらえらい学者先生が危惧したように、隷属の首輪の呪縛から解き放たれた奴隷たちが一斉に蜂起したようだ。

 この国は類人至上主義にて、奴隷にされていたのは彼らが亜人と蔑んでいる他種族の者たち。
 虐げられていたのは獣人たちを筆頭にして、リザードマンみたいな竜人、エルフみたいな森人、ドワーフみたいな山人ら。
 力、魔力、容姿、肉体強度などなど。
 単純に個体の能力であれば類人よりも上である彼らが、混乱に乗じて内側より叛旗を翻したとしたら、きっと王都はひとたまりもなかったのにちがいあるまい。

 ワガハイは通りを歩きながら耳をピクピクさせる。
 カネコイヤーを発動しては誰かいないか探してみるも、生体反応は皆無。

「誰もいないのにゃん。住民たちは避難したのかにゃあ? もしくはいっしょになってお城に押しかけた?」
「……わからん。とりあえず城の方へと行ってみよう」

 都の中央にある王城へと向かうことにする。
 ちんたら歩いていられないので、ここからはカネコモービル・エボルヴの出番だ。
 エボルヴならば邪魔な瓦礫もなんのその。
 立ち塞がるものすべてを薙ぎ倒し、撥ね飛ばし、時には建物や壁をガンガンぶち抜いては最短距離を真っ直ぐに突き進む。
 そこのけ、そこのけ、エボルヴさまのお通りだい!

「うにゃにゃにゃ! 不謹慎だけどコレはちょっと楽しいのにゃあ~」
「ズルい。ワシも、ワシもやりたい!」

 とがめる者が誰もいない。
 唸るゴーレム駆動、エボルヴは傍若無人に我が道をゆく。

 ブロロロ……とエボルヴを走らせることしばし。
 周囲より一段高くなった場所に建てられてある王城は、やたらと尖がっておりツンツンしている。搭がいっぱいある。夢の国にあるお城みたいで遠目には見映えがいいけれど、利便性は悪そうだ。逆バリアフリーにてお年寄りに優しくない造り。きっと階段の上がり降りだけで足がパンパンになるだろう。

「あれ、お城の上の方……ちょっと欠けてない?」

 見上げながら不思議そうに首をかしげるえらい学者先生。
 ワガハイは「そうかなにゃあ、気のせいにゃん。もとからこんな奇抜なデザインにゃのでは」ととぼけた。

 そんな王城内もくちゃくちゃにて、ここにも誰もいない。
 みんなみんな、生者も死者も、まとめて闇の結界――漆黒の獣に取り込まれてしまったのだろうか?

「先生、ちょっとコレ」

 場所はムダに煌びやかな謁見の間にて、床にはべったり血のあとが……
 例の愚王がふんぞり返っていたであろう王座、ギャルが喜びそうなデコレーションが施されており、眺めていると目がチカチカしてくる。
 そんなイスの長い背もたれが途中で斜めに斬られており、脇にイスの残骸が落ちている。

「座っているところを正面から斬られたか、それもイスごと……。見事な断面だ。かなりの遣い手の仕業だな」

 つるつるの断面をそっと指先で撫で、えらい学者先生が「ムムム」とうなる。
 どうやら愚王は逃げる間もなく、誰かさんに詰め寄られてバッサリ殺られちゃったらしい。
 まぁ、やりたい放題してきたのだから自業自得である。
 それはさておき……

「せっかくだから宝物庫を漁るのにゃあ。きっと歴代の王さまが貯め込んでいるはずにゃん」
「ん~、それはどうじゃろうのぉ。浪費するばかりしか能がない愚王じゃから、むしろカツカツなのでは。財宝じゃなくて借用書の山ならしこたまありそうじゃが」
「えー」

 なんぞと話しつつ、ワガハイたちは地下の宝物庫へ。
 マンガに登場する大銀行の大金庫みたいな外観。
 あんまり期待するなと言われても、これを前にしたらワガハイ、ドキドキしちゃう。
 でも、いざ重たい扉を開けたらところで「げっ!」
 スカスカどころかみっちりすし詰めにて、なかには大量の亜人たちの姿が……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...