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168 カネコ、鳥葬の刑に処す。
しおりを挟むバサバサバサバサバササマンサタバササバサバ……
視界が大量の黒に埋め尽くされて、聞こえてくるのは羽音のみ。
いったい何ごとかとおもいきや、漆黒の獣の群体によるもの。波となっては襲いかかってきた。
「イタ、イタ、イタタタタ、痛いのにゃん!」
一撃一撃はたいしたことない。
でも、それが数十、数百と次々に押し寄せてくれば話は別だ。
ペチペチ痛い。
それにこの状況になってようやく相手の正体にワガハイは気がつく。
漆黒の獣は小鳥のような魔法生物の集合体であったのだ!
イメージ的には夕暮れ時の町中で見かけるヒヨドリの群れっぽい。
ただし、あれとちがって外敵から逃げ惑うのではなくて、積極的にチクチクついばんでくるけれども。
ワガハイは数の暴力に圧倒され翻弄されるばかり。
しかもこいつら、通りすがりにこぞってワガハイの毛をブチブチむしっていきやがる。
このままだと十円ハゲだらけになってしまう。
そうなったらますますマスコットキャラクター化計画が遅延するではないか。ワガハイのぐうたら寄宿生活の予定にも支障がでる。
「にゃんてこったい! 」
カネコインビジブルも解けてしまった。ワガハイは絶体絶命のピンチである。
とりあえずアイテムボックスで吸い込めないかとやってみたけど――
「くっ、やっぱりダメかにゃあ~」
ワガハイのアイテムボックスは、大容量にて内部の時間を停止させるのも進めるも自由自在でいろいろ応用が効く優れモノ。だが唯一の欠点が『ナマモノ厳禁』なところ。
たとえホムンクルス的な魔法生物とて、ナマモノ判定されてしまったようではじかれてしまった。
そうこうしている間にも群体の猛攻は続いており、気づけばワガハイの足は地面から離れていた。
「浮いてる!? 囲まれたまま、持ち上げられたのかにゃ!」
バサバサ、トリの群れに運ばれて大空へ。
なんともメルヘンな展開だが、実態は凶悪にて。
よってたかって小突かれては、逃げ場のない空の上で鳥葬の刑に処す。
ちょいちょい目も狙ってくるから、ろくに目を開けてもいられず。
目隠しされたような状況下で、どうにか確認できたのは、いつしか群体が竜巻の形となってワガハイを呑み込んでいたこと。
渦中にて、ひたすらグルグルかき回されている。
まるでミキサーのなかに放り込まれた食材のようにて、「うんにゃ~、目が回る~」
このままでは生きながら挽肉にされかねない。
自分が手こねカネコハンバーグの具になる姿を想像し、ワガハイはゾッとした。
かつて感じたことのない恐怖に襲われる。
さなかに叫んでいたのは――
「助けて! ベトベトさん」
お掃除仕事にて、もっとも行動を共にしている相棒の名前であった。
とはいえ彼は闇の生活魔法クリーンを発動すると召喚される存在にて。
いまのワガハイは魔力がスカンピンだから、呼び出したところでたいした規模は展開できないだろうし、滞在時間だってしれておりすぐにトンボ返りしちゃう。
……はずだったのだけれども。
予想に反してドバっと出た!
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン♪
ワガハイの背後からぬるっとあらわれたダークマターは、ばさりとマントのごとくひるがえったとおもったら、そのままスルスル広がっていっては、周囲にいた黒いヒヨドリもどきどもを次々に呑み込んでは捕食していく。
おかげでワガハイは助かったのだけれども「なんで?」
えっ、魔力については問題ない。
なぜなら日頃から少しずつ貰ってたっぷり貯蔵している分があるから。
へーほー、さいですか。
にしても知らんかった。
ベトベトさんはワガハイと直繋ぎのコード式だけでなく、充電式でもあったことがここに発覚した。
これにあわてたのが漆黒の獣側だ。
おもわぬ反撃にあったばかりか、みるみる群体が削られていく。
底なしの胃袋を持つベトベトさんを、このまま自分たちの腹の中に置いておくのはマズイと判断したらしく、群れは散開し、黒い竜巻は消失する。
急に拘束を解かれたワガハイはドテっ、お尻から地面に落ち「ぎにゃっ!」
しかし地べたに這うカネコにはかまわず、上空では驚愕の光景が繰り広げられていた。
ヒヨドリの群れのように右へ左へとうねっては、空を駆ける漆黒の獣の群体。
それを丸ごと呑み込まんとするかのごとく、大風呂敷を広げているベトベトさん。
異形と異形が亡国の王都の上空で対峙する。
そのせいで太陽が翳り、地上は薄闇に覆われた。
さながら暗黒神話のような場面に、ワガハイは空を見上げたまま固まった。
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