寄宿生物カネコ!

月芝

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165 カネコと漆黒の獣。

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 高出力にて放たれたカネコビーム。

 ゴゴゴゴゴ……風がうなり、大気どころか天地すべてが震え、光をまとった破壊の奔流が空へと。
 かつてないほどに丹念に魔力を練り上げたこともあってか、収束されたビームは貫通力がグンと増しており、それこそ世界そのものに穴をうがつかのような勢いにて――

 パリン!

 王都を包んでいる黒いドームの右上の一部が割れた。
 怪光線は直撃することなくかすめるようにして通過していく。
 計算通りにて、まんまと闇の結界を破ることに成功する。
 その際に一瞬、結界内にあった背の高い建物、おそらくは尖塔の類だろうが、それが何本かくしゃっとなったようにも見えたけど……たぶん気のせいだろう。

 壊れた箇所からビキビキとひび割れが走っていく。
 この調子ならばじきに結界全体が砕けることだろう。
 ワガハイは額にある第三の目をゆっくりと閉じていく。それにともなって怪光線もじょじょに細くなっていき、やがて糸のような線となり消えた。
 カネコビームを撃ち終える。

 身の内にてたぎっていた魔力も動きを止めた。オーラのように体の周囲に滞留していた魔力たちもホロホロと溶けるようにして霧散していく。
 逆立っていた全身の毛もへにょんとなり、おっ立てていた三本のしっぽもくたり、ピンとのびていた髭もだら~り。
 反動で吹き飛ばされないようにと、踏ん張っていた四肢からも力が抜ける。地面に突き刺していた爪は根元からポキッと折れた。
 といっても、これはわざとだ。
 急激な荷重を受けたことにより疲労が蓄積され、脆くなっていたので自ら排除した。
 でも大丈夫、放っておいてもじきに新しいのが生えてくるので。

 慣れぬ体の使い方をしたもので、やや倦怠感に見舞われつつ、ワガハイは「んにゃあ~」と大きく息を吐いた。

「けっこう消耗したのにゃあ~。でもそのかいあって黒いドームも……って、何にゃんアレ!」

 ひと仕事終えて気を抜きかけたところでワガハイはギョッ! 大きく目を見張ることになった。
 破壊された黒いドーム。
 そのまま崩壊して砕けてしまうのかとおもいきや、そうはならない。

 割れた結界がぐにゃりと変形した。
 まるで生きているかのように、うにょ~ん。
 のびたとおもったら王都よりはがれる。
 橋でもかけるかのようにして、少し離れた地面へと移動したところで、溶けかけのアイスクリームのようになってしまった。
 そのままドロドロになって消えそうだったけど、ここで劇的な変化を遂げる。
 表面に小さな旋風が発生し、それがみるみる大きくなっていき、ついには全体をも巻き込んで黒い竜巻となる。
 風が暴れ、赤茶けた砂塵が舞う。
 周囲のすべてを吸い込み、取り込むかのようにして黒が渦を巻く。

 その時、飛ばされないように身を伏せていたワガハイは見た。
 黒い渦の奥に潜んでいる何者かの双眸を!

 突然にあらわれた黒い竜巻は、不意に消失する。
 そして残ったのは巨大な漆黒の獣であった。
 フォルムがちょっとカネコに似ている。しっぽも三本あるし。
 しかしゆくゆくは城塞都市トライミングのマスコットキャラクターとなるであろうキュートなワガハイとは、けっして相容れない存在であった。

 夜の闇、物陰の黒、人の影、心に潜む悪意……
 目に見えるモノ、見えないモノ、世の中のあらゆる黒を集めては、いっしょくたにドロドロになるまで煮詰めたかのような、禍々しい黒。
 それが集まり凝り固まっては獣の形をしている。

 猛る漆黒の獣が天へと向けて咆哮する。
 なんとも言いあらわせない声にならない声は、ただただ不快で耳障りであった。
 しいて例えるならば、黒板を爪で引っ掻いた時のゾワゾワとする音のような。
 呪詛のごとく耳の奥へと侵入してくる。
 頭の中をかき回されているみたいで、とにかく気持ち悪い。

「ぐぬっ」

 ネコ耳をぺたり、ワガハイはカネコイヤーの防衛機能を発動し、ヤツの声をシャットアウトする。
 漆黒の獣がぐりんと首を回し、こっちを見た。


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