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163 カネコ、おっふ。
しおりを挟む「おーい! おーい! そこに誰かいないのかにゃあ~」
声を張りあげ、黒いドームへと向けてワガハイは呼びかけてみる。
しかし応答はなし。
カネコイヤーをピンと立てては感度を高め探ってみるも、ドームの中からは物音ひとつ聞こえてこない。どうやら音すらも吸収しているっぽい。
魔法がダメならば物理だ!
とばかりに、えらい学者先生がその辺に落ちていた石ころを拾っては「どりゃっ」
見かけによらない強肩ぶりを披露するも、投げた石もまた黒いドームにムニュっと呑み込まれてしまい、それっきりとなる。
ならばとワガハイは地魔法を発動し穴をゴリゴリ掘り進める。
地下から黒いドーム内への侵入を試みた。
が、結果は残念であった。地中にもしっかり闇の結界が張られてある。
どうやらドーム状に見えていたのは地表部分のみにて、この結界は巨大な球体であったようだ。
王都は大きな黒い球の中ということ。
呼びかけても、魔法で突いても、物理で攻撃しても、なしのつぶて。
完全に音信不通である。
はてさて、どうしたものやら……
「いっそのこと、このまま放置でいいのでは?」
ワガハイは無責任なことを言った。しょせんは他人事だもの。
そのうち飽きたら勝手に出てくるだろう。
でも、えらい学者先生の見解はちょっとちがっているらしく。
「そうしたいのは山々じゃが、ちと気になることがあってのぉ」
「?」
「なにせこれだけの規模の結界じゃ。発動するにも維持をするにも、膨大な魔力量を必要とするはず」
「あーだったら、そのうち燃料切れを起こして自然に解除されるにゃんね」
「おそらくはな。ただし、問題はその魔力の供給源じゃ。これはあまり考えたくはないのじゃが……」
魔力の供給源は奴隷たち、もしくは都に住んでいたであろう大勢の者たちの可能性が極めて高い。
と、えらい学者先生は断じた。
生きた電池扱いとはイヤな話だが、塵も積もればなんとやらである。上の連中は下々からとことん搾り取るつもりのようだ。
これ以外の方法だと、あと考えられるのは……
ひょっとしたらダンジョンコアを丸まる使えば、結界の維持に必要な量をまかなえるかもしれない。
けれどもアレの丸ごと回収は世界でも三例しかない。
もっとも近々なのは、ワガハイが勇者一行と携わった分にて。
だがそんな希少かつ貴重な品を、こう言ってはなんだが『こんなクソかつ、たいして価値のない腐国』に使うわけがない。たとえバックにアロセラ教団と大国グランシャリオがついていたとしてもだ。
それらを踏まえた上で、えらい学者先生はあることを危惧している。
「これはまだ穏便なケースの想定じゃ。最悪なのは、結界のための魔力をかき集めるための機構が制御を失っている場合じゃな。
いまだに結界が解除されていないところをみるに、その可能性も否定できん」
そうそう都合よくヒトの体の中からだけ、魔力を抽出できるものなのか?
ひとりやふたりならばともかく大勢から同時に、いっきに大量に。
――技術的には極めてむずかしいと言わざるをえない。
そして忘れてはならないのが、魔道具に用いられている魔晶石にも魔力が宿っているということ。
王都ともなれば都市のインフラ整備のために膨大な数の魔道具が用いられている。個人宅や店舗、商会などでもたくさん使用されているだろう。
もしもそれらからも一斉に魔力を抽出していたら、都市機能はたちまちマヒして、どえらい騒ぎになっているはず。パニックである。
「隷属の首輪……あれもまた魔道具じゃ」
えらい学者先生がボソッと。
この国は類人至上主義にて、他の種族を亜人と蔑み奴隷にして酷使している。所有する奴隷の質や数は、そのまま貴族のステータスとなる。
王都ともなれば、けっこうな数がいたはずだ。奴隷商とかも堂々と店舗を構えていただろう。
魔力を失った時点で、隷属の首輪はただの首輪となる。
自由を得た奴隷たち。
ずっと虐げられていた彼らがいかなる報復行動に打って出るのかなんて、容易に想像がつく。
阿鼻叫喚の地獄絵図を想像して、ワガハイは「おっふ」
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