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160 カネコの廃墟探訪。
しおりを挟む「うわ~、ものの見事にやられているのにゃあ」
「内部は荒らされ尽くしておるのぉ。地下室までほじくり返しておるわい」
国境砦は無人にて、門は外側から押し倒されており壊れている。
外壁のところどころに穴があいており、窓という窓も割れている。
建屋の北側の一部は崩れており、瓦礫の山と化している。
騒動のおりに火も出たのか、焼け焦げ、いまなおプスプスと燻っている場所もあった。
びゅうびゅうと乾いた風が吹くたびに砂埃が舞う。
ヒドイ有り様だ。
「よほど激しく抵抗したんにゃんねえ」
ワガハイがしみじみ漏らせば「ふん」とえらい学者先生が鼻で笑った。
「そんな根性、スぺリエンスの兵どもにあるわけないじゃろう。痕跡からして、たしかに北側の門を破ったのは魔獣じゃろうが、南側の門の方はキレイなもんだ。おそらくは常駐していた連中は、さっさとしっぽを巻いて逃げたんだろうよ」
言えれてワガハイも「あー」と納得。
すっかり忘れていたけれども、ワガハイが森を出て最初に出会った人間って、スぺリエンから出稼ぎに来ていた強盗どもだったっけか。
その手口がまた悪辣であった。
囮用の馬車で道をふさいでは、トラブルで困っている風を装い獲物が通りがかるのを待つ。そして他人の親切心につけ込んで、油断したところをブスリと殺っちゃうというもの。
もっともワガハイと行き合ったのが運の尽きにて、カネコモービルで撥ね飛ばしてやったけど。
そんな連中が大手振って国境を出入りしている時点で、砦とのズブズブな関係も知れたもの。
「……にしても、さすがにゃんねえ。チラッと見ただけで、そんなことまでわかっちゃうにゃんて」
ワガハイが感心していると、えらい学者先生は肩をすくめて苦笑い。
「たいしたことはない。なにせ壁の隠し金庫までご丁寧に開けてあるからのぉ。それに魔獣は金品類には興味がないはずなのに、きれいさっぱり無くなっている点からしても、明らかじゃ」
砦を放棄した連中が持ち出したのか、どさくさにまぎれて盗んだのか、あるいは無人となったここを抜けるときに難民が漁ったか。
なんにせよ砦はすっからかんだ。金目の物、使えそうな品は根こそぎさらわれている。
「で、どうするのかにゃあ? 今晩はここで一泊するのかにゃあ」
ワガハイはえらい学者先生におうかがいする。
べつにカネコモービル・エボルヴならば夜間行軍は可能にて、車中泊もできるけど。
しばし考えてからえらい学者先生は「ふむ」とうなづき言った。
「いちおう外壁と屋根も残っておるし、雨風はしのげるか。あまり気は進まんがそうするか」
というわけで宿泊決定。
ワガハイはさっそく生活魔法・闇のクリーンを発動する。
「おいでませ! ベトベトさん」
言うなり、ワガハイの足下がぶくぶくと泡立ち、ドバっとあふれてきたのは黒い何か。
ドロリとしており、ヌメヌメじっとり、しっとりヒンヤリ、ねちゃっとしてべちょり。うっかり顔に張りついたら窒息しそうにて、見た目はコールタールっぽいけど無臭だ。そのくせほとんど重さを感じない変幻自在のダークマター。
こんなのだけど、掃除能力はとても優れており、にゅるんと呑み込んでモグモグ、ペッとすれば、あら不思議!?
新品同様にピカピカになるデキるヤツ。
「ほぅ、それがウワサに聞くベトベトさんか。こりゃまたすごいのぉ」
興味深げに眺めているえらい学者先生をよそに、ワガハイはベトベトさんに廃墟と化している砦内の清掃活動を命じる。ベトベトさんの手にかかれば、あっという間だ。
ブワッと広がったベトベトさんが、たちまち砦跡を覆い尽くしては、モゾモゾもぐもぐ。
埃や汚れを吸収し、シュルルと縮小すればお掃除完了となる。
ちゃちゃっとお掃除を終えてくれたベトベトさん。
「ご苦労さまだにゃん」
ワガハイが礼を述べたら、ベトベトさんからにゅるんと差し出されたのは……膨らんだ小袋と箱?
「えっ、掃除中に見つけたって? 屋根裏と床下に隠されていたのかにゃあ」
よほど厳重かつ巧妙に隠匿されていたようで、まだ残っていたらしい。
確認してみたら小袋の方には銀貨と金貨が計五十枚ほど、箱のほうはビンが十本入っていた。
ビンの一本のフタをキュッポン!
はずすなり漂ってきたのは、鼻孔をくすぐる芳醇な香り。
「お酒みたいだにゃあ」
「そのようだの、しかもかなり上等なのじゃ」
おもわぬ臨時収入にワガハイはホクホク顔。
晩酌ゲットにて、えらい学者先生もホクホク顔。
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