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158 カネコ、ドライブに行く。
しおりを挟むブロロロロロロ……
ゴーレム駆動が「ウィーン」と唸りをあげる。
風を切り、安定した走りにて快調に飛ばすのはカネコモービル二号機のエボルヴだ。
見た目はまんまゴツイ4WD車にて。でも操車するのはワガハイなので、運転席は縦長の特殊仕様である。
なにせアムールトラほどもの図体なものだから、ふつうのシートではとても納まらないので。
よって運転中のワガハイは寝そべるみたいな格好となる。
これは前に乗っていた一号機も似たようなものであったが、エボルヴはより快適さを増すようにクッション性を高めてあるので、実用性だけでなく一段上のラグジュアリーな空間をも実現している。
せっかく作ったのに乗る機会がちっともなかったもので、ワガハイは休暇がてら本格的な試運転をと思い立つ。
いまのところ何ら不具合はみられない。これならばリコールの心配はなさそうだ。さすがはワガハイ製である。
メテオリト大森林を横目に、南へとのびた街道をひたすら流していく。
この森は大陸中央部に位置しており、広大な規模を誇る未開の地だ。
危険な魔獣が跋扈し、植生する草木までもが旺盛で狂暴、日夜血で血を洗う抗争が続けられている弱肉強食の森。別名・死の森とも呼ばれており、深く潜るほどに危険度が跳ね上がり、生存率はだだ下がり。
現在、一般的に確認されているのは第五層の半ばまで。
嘘か誠か、最深部には遥か古に星の彼方より飛来した『異界の邪神』が眠っているなんて話もあるそうだが真偽は不明にて。
世界三大極地のひとつ。
じつはそこの第六層こそが、ワガハイの爆誕の地であり古巣であったりもするんだけど……
「コラッ、先生ってば、あんまり身を乗り出さないの! 危ないのにゃあ~」
ワガハイは助手席にてはしゃいでいる老人を叱った。
走行中の車の窓から身を乗り出すのは危ないから、やっちゃダメ絶対!
「おぉ、すまんすまん。しかしこれは本当に速いのぉ。半日足らずでもうこんなところまで来てしもうた。アツァーリで作られた魔道車には何度か乗ったことがあったが、ここまでの性能ではなかったぞ。いやはやたいしたものじゃ」
エボルヴをべた褒めしているのは、えらい学者先生である。
あとアツァーリというのは技術大国にて、魔法全盛の世界にあって独自の機械文明を歩んでおり、優れた職人や技術者が大勢在籍しているそうな。
では、どうして白髭の森人のお爺ちゃんとドライブをするハメになったのかといえば、この前の宴席にてほろ酔いになったところで、うっかりワガハイが試運転のことを口にしてしまったから。
新車のことはえらい学者先生も知っていたし、気にもなっていた。
だが、それよりももっと興味を惹く『魔術大全』の存在があったもので、ここのところ、ずっとそちらにかかりきりだったのだ。
コツコツ写本作業はいまなお継続されているけれども、終わるのには年単位の膨大な時間がかかりそう。
まぁ、それはさておき。
エボルヴのことだ。
試運転の話が出たとたんに「ワシも乗りたい」とえらい学者先生が言い出す。
でも記念すべき初運転がジジイと相席とか、さすがにちょっと……
だからワガハイは「安全性が確認されていないから、また別の機会に」とやんわり断ろうとするも、「やだい、やだい、ワシも乗るんじゃあ~」と爺さんはダダをこねた。そりゃあもう恥も外聞もかなぐり捨てて、転がってはジタバタと。
いくら酒が入っているからって、あれはない。
さしものワガハイもドン引きである。いっしょに呑んでいた七人の受付のおっさんたちもそろって呆れていた。
ふつうならばここらで折れるのだが、ワガハイは折れなかった。酒のせいでちょっと意固地になっていたであろうことは否めない。
「ダメったらダメにゃ!」
と、突っぱねた。
するとジジイは裏技を行使しやがった。
こともあろうに、自分が懇意にしている冒険者ギルドのギルド長のところに話を持ち込んだのである。
己の欲望をかなえるためならば、伝手もコネも権力をも行使することをためらわない。
なんて大人げない大人であろうか!
そして大人げのない大人の知己もまたろくでもなかった。
「おぉ、そうかそうか。そいつはちょうどよかった。ドライブがてらちょいと南の様子を見てきてくれ」
ギルド長より偵察業務を頼まれた。
なお南というのは、例のいよいよ末期状態に陥っているという迷惑な隣国スぺリエンスのことね。
「えっと、あのぅ、ワガハイ、いま休暇中なんですけど……」
という抗議の声は威圧にて黙殺された。
かくして老人とカネコという色気もへったくれもない、需要がまったくなさそうなふたり旅とあいなったという次第にて。
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