寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
158 / 254

158 カネコ、ドライブに行く。

しおりを挟む
 
 ブロロロロロロ……

 ゴーレム駆動が「ウィーン」と唸りをあげる。
 風を切り、安定した走りにて快調に飛ばすのはカネコモービル二号機のエボルヴだ。
 見た目はまんまゴツイ4WD車にて。でも操車するのはワガハイなので、運転席は縦長の特殊仕様である。
 なにせアムールトラほどもの図体なものだから、ふつうのシートではとても納まらないので。
 よって運転中のワガハイは寝そべるみたいな格好となる。
 これは前に乗っていた一号機も似たようなものであったが、エボルヴはより快適さを増すようにクッション性を高めてあるので、実用性だけでなく一段上のラグジュアリーな空間をも実現している。

 せっかく作ったのに乗る機会がちっともなかったもので、ワガハイは休暇がてら本格的な試運転をと思い立つ。
 いまのところ何ら不具合はみられない。これならばリコールの心配はなさそうだ。さすがはワガハイ製である。

 メテオリト大森林を横目に、南へとのびた街道をひたすら流していく。
 この森は大陸中央部に位置しており、広大な規模を誇る未開の地だ。
 危険な魔獣が跋扈し、植生する草木までもが旺盛で狂暴、日夜血で血を洗う抗争が続けられている弱肉強食の森。別名・死の森とも呼ばれており、深く潜るほどに危険度が跳ね上がり、生存率はだだ下がり。
 現在、一般的に確認されているのは第五層の半ばまで。
 嘘か誠か、最深部には遥か古に星の彼方より飛来した『異界の邪神』が眠っているなんて話もあるそうだが真偽は不明にて。
 世界三大極地のひとつ。
 じつはそこの第六層こそが、ワガハイの爆誕の地であり古巣であったりもするんだけど……

「コラッ、先生ってば、あんまり身を乗り出さないの! 危ないのにゃあ~」

 ワガハイは助手席にてはしゃいでいる老人を叱った。
 走行中の車の窓から身を乗り出すのは危ないから、やっちゃダメ絶対!

「おぉ、すまんすまん。しかしこれは本当に速いのぉ。半日足らずでもうこんなところまで来てしもうた。アツァーリで作られた魔道車には何度か乗ったことがあったが、ここまでの性能ではなかったぞ。いやはやたいしたものじゃ」

 エボルヴをべた褒めしているのは、えらい学者先生である。
 あとアツァーリというのは技術大国にて、魔法全盛の世界にあって独自の機械文明を歩んでおり、優れた職人や技術者が大勢在籍しているそうな。

 では、どうして白髭の森人のお爺ちゃんとドライブをするハメになったのかといえば、この前の宴席にてほろ酔いになったところで、うっかりワガハイが試運転のことを口にしてしまったから。
 新車のことはえらい学者先生も知っていたし、気にもなっていた。
 だが、それよりももっと興味を惹く『魔術大全』の存在があったもので、ここのところ、ずっとそちらにかかりきりだったのだ。
 コツコツ写本作業はいまなお継続されているけれども、終わるのには年単位の膨大な時間がかかりそう。

 まぁ、それはさておき。
 エボルヴのことだ。
 試運転の話が出たとたんに「ワシも乗りたい」とえらい学者先生が言い出す。
 でも記念すべき初運転がジジイと相席とか、さすがにちょっと……
 だからワガハイは「安全性が確認されていないから、また別の機会に」とやんわり断ろうとするも、「やだい、やだい、ワシも乗るんじゃあ~」と爺さんはダダをこねた。そりゃあもう恥も外聞もかなぐり捨てて、転がってはジタバタと。

 いくら酒が入っているからって、あれはない。
 さしものワガハイもドン引きである。いっしょに呑んでいた七人の受付のおっさんたちもそろって呆れていた。
 ふつうならばここらで折れるのだが、ワガハイは折れなかった。酒のせいでちょっと意固地になっていたであろうことは否めない。

「ダメったらダメにゃ!」

 と、突っぱねた。
 するとジジイは裏技を行使しやがった。
 こともあろうに、自分が懇意にしている冒険者ギルドのギルド長のところに話を持ち込んだのである。
 己の欲望をかなえるためならば、伝手もコネも権力をも行使することをためらわない。
 なんて大人げない大人であろうか!
 そして大人げのない大人の知己もまたろくでもなかった。

「おぉ、そうかそうか。そいつはちょうどよかった。ドライブがてらちょいと南の様子を見てきてくれ」

 ギルド長より偵察業務を頼まれた。
 なお南というのは、例のいよいよ末期状態に陥っているという迷惑な隣国スぺリエンスのことね。

「えっと、あのぅ、ワガハイ、いま休暇中なんですけど……」

 という抗議の声は威圧にて黙殺された。
 かくして老人とカネコという色気もへったくれもない、需要がまったくなさそうなふたり旅とあいなったという次第にて。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

処理中です...