寄宿生物カネコ!

月芝

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157 カネコとナゾ肉のナゾ。

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 ジュウジュウ、ジュンジュワワ~……

 網の上でいい音をさせながら、油を滴らせるお肉。
 ほどよく焼けた肉を摘まみながら、やくたいもない話にガヤガヤと興じつつ酒を呑む。
 隣を見ても、前を見ても、どこもかしこもおっさんだらけという店の中。『オヤジの園』という店名そのままの光景に、来店当初こそは「うにゃ~、ギトギトしてむさ苦しいのにゃあ~」と「にゃあにゃあ」不満を零していたワガハイであったが、すぐに慣れた。

 というか、悔しいが認めざるをえない。
 ここはムチャクチャ居心地がいい。
 異性の目を気にしないでいいこの気安さ、同性だからこその下ネタ全開トークによる品のないゲラゲラ笑い、胸襟を開くどころかリラックスするあまり裸になって浮かれ踊る阿呆までいる。
 そしてなによりも……

「旨いにゃんねえ、この肉……。ワガハイ、これでも屋台街で売ってる肉はあらかた食べ尽くしたのに、これは知らないのにゃあ」

 ほどよい歯ごたえ、それでいて肉汁たっぷりで、噛むほどのじゅわっと染み出てくる。
 なのでつい夢中になって咀嚼していたら、いつのまにやら口の中から消えており、ついつい「もう一枚」と箸が進む。
 あぁ、いまさらだけどこっちの世界にもお箸文化は普通にあったよ。べつに転移者や転生者が持ち込んだのではなくて、元からあったらしい。

 まぁ、それはさておき肉だ、肉!。
 おもわず「むむむ」とうなる味わい。
 値段や食感はからしてバトラコスっぽいのだけれども、ワガハイの知るバトラコスとはひと味もふた味もちがう。
 ちなみにバトラコスとはデカいトノサマガエルみたいな魔獣にて。そりゃあもう、いろいろとヌメっている。けれどもヌメっている見た目に反して、食べて良し、素材として使って良し。そのくせ強さはたいしたことがなく、毒もないから、冒険者にとってはいいカモである。

「う~ん、わからないのにゃあ。降参するから教えて欲しいのにゃあ」

 ワガハイは右隣に陣取っているギルドの馴染みの受付のおっさんに訊ねた。
 そうしたら馴染みの受付のおっさんは「あー」と頬ポリポリにて、ちょっと困り顔となる。

「いやな、じつはこれ……ナゾ肉なんだ。みんな気になってはいるんだけど、店主が『企業秘密だ』の一点張りでなぁ」

 でも隠そうとすればするほど、余計に気になっちゃうもの。
 このナゾ肉のナゾを解き明かそうと、足繁く店に通っている熱心な常連客も多いんだとか。
 ときにはトイレに行くフリをして、こっそり厨房とか保冷庫に忍び込もうとする粗忽者があらわれるそうなのだけれども……それっきりにて。

 ちっとも席に戻ってこない。
 いっしょに来店していたお連れさんが「あれ? アイツどうしたんだ」といぶかしんで店員に声をかけたら、店員は「あぁ、あの方ですか? あの方でしたらお会計をすませて先に帰られましたよ」とニヤリ、妖しい笑み。

「かなり悪酔いしていたから、そんなこともあるか」

 と、お連れさんもいちおう納得するも、けっきょく先に帰ったという友人はそのまま行き方知れずに……

 よもやのホラー展開に、ワガハイはギョッ!
 えっ、正体不明のナゾ肉ってば、まさかアレだったりしちゃうの?
 ワガハイの箸がピタリと止まった。

 するとワガハイの左隣にて酒の入ったコップを両手で包むように持っては、ニコニコしていた森人の爺さんが「ホホホ、心配せんでもいい。妙なもんは入っておらん。ちゃんと鑑定したからの。おそらくはタレと肉の処理の仕方に秘密があるのじゃろう」と言った。
 白い眉毛に白くて長いアゴ髭にメガネをかけており、どこぞの魔法学校の学長のような容姿をしているこの老人は、えらい学者先生である。
 でもってそのメガネは老眼対策だけでなく、優れた鑑定機能を兼ね備えた魔道具なんだとか。
 なぜだか慰労会に混じっては、シレっとワガハイの隣にいることはさておき。
 そんなえらい学者先生と魔道具をもってしても、ナゾ肉の安全性はともかく正体はわからないそうな。

 とりあえず食べても問題ないと聞いて、ワガハイはふたたび肉をせっせと口に運ぶ。

「モグモグ、う~ん、怪しいけれどもやっぱり美味いにゃ!」

 おもえば、ここまでの道のりは遠く険しかった。
 他人の金で存分に飲食する。
 これこそが寄宿生物カネコが求めるもの。
 ようやくだ。ようやくここまできた。
 ワガハイ感無量にて。


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