157 / 254
157 カネコとナゾ肉のナゾ。
しおりを挟むジュウジュウ、ジュンジュワワ~……
網の上でいい音をさせながら、油を滴らせるお肉。
ほどよく焼けた肉を摘まみながら、やくたいもない話にガヤガヤと興じつつ酒を呑む。
隣を見ても、前を見ても、どこもかしこもおっさんだらけという店の中。『オヤジの園』という店名そのままの光景に、来店当初こそは「うにゃ~、ギトギトしてむさ苦しいのにゃあ~」と「にゃあにゃあ」不満を零していたワガハイであったが、すぐに慣れた。
というか、悔しいが認めざるをえない。
ここはムチャクチャ居心地がいい。
異性の目を気にしないでいいこの気安さ、同性だからこその下ネタ全開トークによる品のないゲラゲラ笑い、胸襟を開くどころかリラックスするあまり裸になって浮かれ踊る阿呆までいる。
そしてなによりも……
「旨いにゃんねえ、この肉……。ワガハイ、これでも屋台街で売ってる肉はあらかた食べ尽くしたのに、これは知らないのにゃあ」
ほどよい歯ごたえ、それでいて肉汁たっぷりで、噛むほどのじゅわっと染み出てくる。
なのでつい夢中になって咀嚼していたら、いつのまにやら口の中から消えており、ついつい「もう一枚」と箸が進む。
あぁ、いまさらだけどこっちの世界にもお箸文化は普通にあったよ。べつに転移者や転生者が持ち込んだのではなくて、元からあったらしい。
まぁ、それはさておき肉だ、肉!。
おもわず「むむむ」とうなる味わい。
値段や食感はからしてバトラコスっぽいのだけれども、ワガハイの知るバトラコスとはひと味もふた味もちがう。
ちなみにバトラコスとはデカいトノサマガエルみたいな魔獣にて。そりゃあもう、いろいろとヌメっている。けれどもヌメっている見た目に反して、食べて良し、素材として使って良し。そのくせ強さはたいしたことがなく、毒もないから、冒険者にとってはいいカモである。
「う~ん、わからないのにゃあ。降参するから教えて欲しいのにゃあ」
ワガハイは右隣に陣取っているギルドの馴染みの受付のおっさんに訊ねた。
そうしたら馴染みの受付のおっさんは「あー」と頬ポリポリにて、ちょっと困り顔となる。
「いやな、じつはこれ……ナゾ肉なんだ。みんな気になってはいるんだけど、店主が『企業秘密だ』の一点張りでなぁ」
でも隠そうとすればするほど、余計に気になっちゃうもの。
このナゾ肉のナゾを解き明かそうと、足繁く店に通っている熱心な常連客も多いんだとか。
ときにはトイレに行くフリをして、こっそり厨房とか保冷庫に忍び込もうとする粗忽者があらわれるそうなのだけれども……それっきりにて。
ちっとも席に戻ってこない。
いっしょに来店していたお連れさんが「あれ? アイツどうしたんだ」といぶかしんで店員に声をかけたら、店員は「あぁ、あの方ですか? あの方でしたらお会計をすませて先に帰られましたよ」とニヤリ、妖しい笑み。
「かなり悪酔いしていたから、そんなこともあるか」
と、お連れさんもいちおう納得するも、けっきょく先に帰ったという友人はそのまま行き方知れずに……
よもやのホラー展開に、ワガハイはギョッ!
えっ、正体不明のナゾ肉ってば、まさかアレだったりしちゃうの?
ワガハイの箸がピタリと止まった。
するとワガハイの左隣にて酒の入ったコップを両手で包むように持っては、ニコニコしていた森人の爺さんが「ホホホ、心配せんでもいい。妙なもんは入っておらん。ちゃんと鑑定したからの。おそらくはタレと肉の処理の仕方に秘密があるのじゃろう」と言った。
白い眉毛に白くて長いアゴ髭にメガネをかけており、どこぞの魔法学校の学長のような容姿をしているこの老人は、えらい学者先生である。
でもってそのメガネは老眼対策だけでなく、優れた鑑定機能を兼ね備えた魔道具なんだとか。
なぜだか慰労会に混じっては、シレっとワガハイの隣にいることはさておき。
そんなえらい学者先生と魔道具をもってしても、ナゾ肉の安全性はともかく正体はわからないそうな。
とりあえず食べても問題ないと聞いて、ワガハイはふたたび肉をせっせと口に運ぶ。
「モグモグ、う~ん、怪しいけれどもやっぱり美味いにゃ!」
おもえば、ここまでの道のりは遠く険しかった。
他人の金で存分に飲食する。
これこそが寄宿生物カネコが求めるもの。
ようやくだ。ようやくここまできた。
ワガハイ感無量にて。
2
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる