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155 カネコ、お口にチャック。
しおりを挟む合コンでの一本釣りはまずまず成功しているのに、そのあとのデートでは失敗続き。
「けっ、どうせ私なんて」
すっかりやさぐれている婦警のお姉さんのボヤキ節が止まらない。
扱いに困って、どうしたものかとワガハイが途方に暮れていたら、たまさか通りがかったのがキルコスだ。
「ちょうどいいところにやってきたのにゃあ~」
「えっ、な、なんですか?」
ネコなで声でワガハイから手招きをされて、キルコスはやや及び腰となった。それを強引にテラス席へと座らせ、かくかくしかじか。
ワガハイがかいつまんで事情を説明すれば、キルコスは「なるほど、それは難儀なことですねえ」とうなづいた。
「そういう殿方って、じつはけっこう多いんですよ。うちもちょっと似たようなケースがありますから」
キルコスが所属しているのは漁業組合である。
扱うのはもちろん魚だ。せっせと養殖をがんばっては、辺境では貴重な生魚を市場に手頃な価格で供給してくれている。
貴いお仕事である。
しかし、その一方で現場はたいへんだ。
はっきりいって汚れ仕事が大半だし、独特の生臭さ、魚臭がどこまでもついて回る。
仕事終わりには公共の浴場に寄って全身をキレイに洗っても、体に染みついたニオイはなかなかとり切れないもの。服についたニオイもやっかいだ。
なので男女ともに組合の職員らは、身だしなみには特に神経を尖らせている。
それでも職業を理由にフラれることも、ちらほらと……
だからであろうか。
事情を聞いたキルコスは「まぁ、私でお役に立てるのでしたら」と協力を了承してくれた。
「とはいえ、私は何をしたらいいのでしょうか?」
「え~と、そうにゃんねえ。とりあえずふだん通りに行動して貰いたいのにゃあ」
「はぁ、そんなことでよろしいのですか」
「そうにゃん。下手に取り繕ってもどうせすぐにボロがでるのにゃあ。だったら日頃からの習慣とか仕草なんかを、無理のない範囲で摘まんで取り入れる方がいいはず……たぶん」
言いながらワガハイ自身も首をかしげている。
いまいち自信がないのは、ワガハイがカネコだからである。いろいろとハイスペックな超生命体だけど、こと恋愛方面はからっきしにて。なにせやる気がなさすぎて絶滅寸前の種族なんだもの。
ともあれアドバイスを求めるにしてもだ。相談相手の実力がわからなければ、信憑性に欠けるだろう。
だからまずはキルコスの実力がどんなものかを、ちょいと小手調べにて。
言われるままに「それじゃあ、ちょっと行って来ます」とキルコスは素直に屋台へと向かう。
で、待つことほんのわずか。
キルコスは両手いっぱいの荷物を抱えて戻ってきた。
信じられないことに、これらはすべて戦利品。
自腹で購入した品はひとつもないという。
なんでも屋台街をぶらついているだけで、声をかけてくる異性が多々。ちょいと物欲しそうな視線をチラリと屋台に向ければ「おや、あれが欲しいのかい? だったら買ってやるよ」という野郎どもがホイホイ釣れる。加えて屋台のオヤジたちまでもが、デレデレとだらしなく鼻の下をのばしてはオマケをしてくれるから、さらに倍でドン!
なんというモテっぷり! なんという女子力の高さ!?
実力をいかんなく発揮したキルコス、恐るべし!
そんな彼女を前にしてワガハイのハートにメラメラと火がついた。
ワガハイとてゆくゆくはマスコットキャラクターとなって、この城塞都市トライミングの看板を背負って立つ予定の男である。
ここはおめおめと引き下がるわけにはいかない。
「負けてられにゃい」というわけで「ちょっとワガハイも行ってくるのにゃ」
だがしかし――
結果はキルコスに遠く及ばず。
屋台の店主に「にゃあにゃあ」媚びては、ちょっとオマケしてもらうのが関の山。あとは酔っ払っていたヤツにたかって、串焼きを二本ばかりゲットしたのみ。
いちいち比べるまでもなく惨敗であった。
ツバッキーくん、女神フロディアに続く第三のライバルの登場、本物の地下アイドルはここにいたのか!? ワガハイは「ぐぬぬ」と歯噛みする。
でも下には下がいた。
誰あろう、婦警のお姉さんである。
同じように屋台街を一巡させたところ、なんと成果はゼロ。
「そんなバカな……この私がそっちのキレイな子はともかくとして、こんなゴワゴワしたシシガシラもどきに負けた、だと」
婦警のお姉さん、地面に両手をついては愕然とする。
こうなると本当に職業が原因でフラれたのか、はなはだ怪しくなってくる。
なぜなら屋台街にいる大半の連中は、彼女の仕事のことなんて知らないんだもの。
とどのつまり職業は口実にて、原因はお姉さんの女子力が低いせいなのでは……
見かねたキルコスが慰めがてらこう言葉をかける。
「え~と、あんまり気にする必要はないかと。こういうのって巡り合わせみたいなものでしょうから。とりあえず今度うちの男たちと合コンしてみますか?」
すると婦警のお姉さんは、少し逡巡してから首を横に振った。
「ありがたいけど遠慮しとくわ。生魚のニオイはちょっとねえ」
う~ん、そういうところがダメなのでは?
と、ワガハイは思った。
けど言ったら絶対にややこしくなるので、ここはお口にチャックで。
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