寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
153 / 280

153 カネコ、テラス席でまったり。

しおりを挟む
 
「はぁ~、こうやってのんびりするのも久しぶりにゃんねえ」

 ところは屋台街の片隅、ちょいとこじゃれたカフェのテラス席にて。
 ワガハイはひとり、まったりと過ごしている。
 ここのところ、およそ寄宿生物らしからぬ勤労と緊迫の日々が続いていた。

 じつにいろいろあったけど、結果としては下水道の一部が崩落して、トライミングから商会がひとつ消えただけである。
 商会の方にかんしては文字通り、跡形もなく消失してしまったけど。
 残された竪穴を前にして、行政府のえらい人たちは「どうすんの、コレ?」
 と頭を抱えているとかいないとか。かなり深いから埋めるのもたいへんそうであるが、それはワガハイの預かり知らぬことにて。

 なお、ひと仕事は終えたので魔剣グラムボルグと剣姫はすでにこの地を発っている。
 王都に帰還して王妃さまに報告をするのかとおもいきや、その前に国の研究施設に捕縛した怪人八号を護送するんだとか。
 さすがにアレをいきなり王都に持ち込むようなことはしないそうな。
 賢明な判断である。
 今回はたまたま抑え込むことに成功したが、もしも何の備えもしていない状態で怪人八号を解き放たれていたらと想像するだけで、ブルル。

 いくつものナゾを残し、あるいはさらなる大きなナゾも。
 けれどもワガハイの仕事は終わりである。
 今後、事態がどのように動くはわからないが、その時はその時である。
 いまからあれこれ心配したってしょうがない。どうせなるようにしかならないのだから……

『毛玉のわりにはなかなかのものだ。どうだ王都に来ないか? 特別に我らの従者に取り立ててやってもよいぞ』
「……コクリ」

 魔剣と剣姫から勧誘を受けたけど、ワガハイは毅然と断った。
 なぜならワガハイは「ノー」と言えるダンディな男。しがらみまみれの宮仕えなんぞは、まっぴらごめんである。

 いかに高給かつ安定した生活が保障されようとも、それはワガハイの望むところではない。
 他人の家にタダで置いてもらい、ぐうたらしつつ、一番風呂に浸かり、寄食(食事の世話を受けること)する。だけどなんぴとにも縛られない。
 おんぶに抱っこで、自由な暮らし。
 寄宿生物カネコは、そんな生活の実現を目指す生き物なのだから。

 ……というわけで、しばらく働かない。
 というか、ここのところちょっとがんばり過ぎた。
 いかに都市のマスコットキャラを目指す身とて、休養は必要だ。
 幸いなことに今回の無茶ぶり……もとい指名依頼をこなしたおかげで報酬はがっぽり、懐はかなり潤っている。
 ダラダラと優雅に食っちゃ寝生活を満喫するとしよう。

「にしてもいい天気にゃんねえ。お弁当を持ってドライブがてら試運転をするのも悪くないのにゃあ~」

 せっかく作った新生カネコモービル・エボルヴ。
 えらい学者先生との絡みや今回の事件などなど、いろいろあってすっかり忘れていた。
 さすがにそろそろ動かしてやらないと、動力を担っている小さいゴーレムたちがヘソを曲げかねない。

 なんぞとワガハイが休暇中の予定をあれこれ考えていたときのことであった。
 空いていた隣のテラス席が埋まった。
 座ったのは若い獣人の娘さん。どっかと腰をおろすなり「はぁ~」と盛大なタメ息をついたもので、ワガハイはつい見てしまったのだけれども……はて? どこかで見たような。う~ん。

 ネコ系の獣人さん。
 スレンダーにてほどよく引き締まった体をしている。軽快かつ動きやすそうなパンツルックがよく似合っており健康的だ。
 一見無防備にみえるがときおりキリリと目つきが鋭くなる。一般職ではなさそうである。
 冒険者ギルド内で見かけたのであろうか。だが職員ではない。なにせあそこは都市内屈指のおっさん密集地帯にて。女性といえばギルド長か解体場のオバちゃんぐらいしか、ワガハイは知らない。

 だったらギルドに出入りしている冒険者なのかといえば、それもたぶんちがう。
 なんというかまとっている空気というか、雰囲気がまるでちがうのだ。
 冒険者稼業は自己責任にて。
 がんばり次第で稼げるけれども、つねに死と隣り合わせとなる。
 だからどうしたって殺伐としてしまうし、反動ゆえか私生活がちょっと刹那的な生き方となりがち。
 けど、この女性からはそういったモノが微塵も感じられない。

 ワガハイがじろじろ眺めつつ「んんん?」と首をひねっていたら、その不躾な視線に気がついた相手がこっちをジロリ。
 で、こう言った。

「なんだあんたか。ちゃんと罰金は払った? 走行許可はとったの?」

 その言葉でワガハイも「アーッ!」
 ようやく彼女の正体がわかった。
 誰かとおもえば、ワガハイとは何かと縁がある獣人の婦警さんではないか。
 衛士隊の制服じゃなくて私服姿だったから、ちっとも気づかなかった
 では、そんな婦警さんがどうして小粋なカフェのテラス席で、盛大にタメ息をついていたのかといえば……


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

気が付けば悪役令嬢

karon
ファンタジー
交通事故で死んでしまった私、赤ん坊からやり直し、小学校に入学した日に乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを自覚する。 あきらかに勘違いのヒロインとヒロインの親友役のモブと二人ヒロインの暴走を抑えようとするが、高校の卒業式の日、とんでもないどんでん返しが。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...