寄宿生物カネコ!

月芝

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153 カネコ、テラス席でまったり。

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「はぁ~、こうやってのんびりするのも久しぶりにゃんねえ」

 ところは屋台街の片隅、ちょいとこじゃれたカフェのテラス席にて。
 ワガハイはひとり、まったりと過ごしている。
 ここのところ、およそ寄宿生物らしからぬ勤労と緊迫の日々が続いていた。

 じつにいろいろあったけど、結果としては下水道の一部が崩落して、トライミングから商会がひとつ消えただけである。
 商会の方にかんしては文字通り、跡形もなく消失してしまったけど。
 残された竪穴を前にして、行政府のえらい人たちは「どうすんの、コレ?」
 と頭を抱えているとかいないとか。かなり深いから埋めるのもたいへんそうであるが、それはワガハイの預かり知らぬことにて。

 なお、ひと仕事は終えたので魔剣グラムボルグと剣姫はすでにこの地を発っている。
 王都に帰還して王妃さまに報告をするのかとおもいきや、その前に国の研究施設に捕縛した怪人八号を護送するんだとか。
 さすがにアレをいきなり王都に持ち込むようなことはしないそうな。
 賢明な判断である。
 今回はたまたま抑え込むことに成功したが、もしも何の備えもしていない状態で怪人八号を解き放たれていたらと想像するだけで、ブルル。

 いくつものナゾを残し、あるいはさらなる大きなナゾも。
 けれどもワガハイの仕事は終わりである。
 今後、事態がどのように動くはわからないが、その時はその時である。
 いまからあれこれ心配したってしょうがない。どうせなるようにしかならないのだから……

『毛玉のわりにはなかなかのものだ。どうだ王都に来ないか? 特別に我らの従者に取り立ててやってもよいぞ』
「……コクリ」

 魔剣と剣姫から勧誘を受けたけど、ワガハイは毅然と断った。
 なぜならワガハイは「ノー」と言えるダンディな男。しがらみまみれの宮仕えなんぞは、まっぴらごめんである。

 いかに高給かつ安定した生活が保障されようとも、それはワガハイの望むところではない。
 他人の家にタダで置いてもらい、ぐうたらしつつ、一番風呂に浸かり、寄食(食事の世話を受けること)する。だけどなんぴとにも縛られない。
 おんぶに抱っこで、自由な暮らし。
 寄宿生物カネコは、そんな生活の実現を目指す生き物なのだから。

 ……というわけで、しばらく働かない。
 というか、ここのところちょっとがんばり過ぎた。
 いかに都市のマスコットキャラを目指す身とて、休養は必要だ。
 幸いなことに今回の無茶ぶり……もとい指名依頼をこなしたおかげで報酬はがっぽり、懐はかなり潤っている。
 ダラダラと優雅に食っちゃ寝生活を満喫するとしよう。

「にしてもいい天気にゃんねえ。お弁当を持ってドライブがてら試運転をするのも悪くないのにゃあ~」

 せっかく作った新生カネコモービル・エボルヴ。
 えらい学者先生との絡みや今回の事件などなど、いろいろあってすっかり忘れていた。
 さすがにそろそろ動かしてやらないと、動力を担っている小さいゴーレムたちがヘソを曲げかねない。

 なんぞとワガハイが休暇中の予定をあれこれ考えていたときのことであった。
 空いていた隣のテラス席が埋まった。
 座ったのは若い獣人の娘さん。どっかと腰をおろすなり「はぁ~」と盛大なタメ息をついたもので、ワガハイはつい見てしまったのだけれども……はて? どこかで見たような。う~ん。

 ネコ系の獣人さん。
 スレンダーにてほどよく引き締まった体をしている。軽快かつ動きやすそうなパンツルックがよく似合っており健康的だ。
 一見無防備にみえるがときおりキリリと目つきが鋭くなる。一般職ではなさそうである。
 冒険者ギルド内で見かけたのであろうか。だが職員ではない。なにせあそこは都市内屈指のおっさん密集地帯にて。女性といえばギルド長か解体場のオバちゃんぐらいしか、ワガハイは知らない。

 だったらギルドに出入りしている冒険者なのかといえば、それもたぶんちがう。
 なんというかまとっている空気というか、雰囲気がまるでちがうのだ。
 冒険者稼業は自己責任にて。
 がんばり次第で稼げるけれども、つねに死と隣り合わせとなる。
 だからどうしたって殺伐としてしまうし、反動ゆえか私生活がちょっと刹那的な生き方となりがち。
 けど、この女性からはそういったモノが微塵も感じられない。

 ワガハイがじろじろ眺めつつ「んんん?」と首をひねっていたら、その不躾な視線に気がついた相手がこっちをジロリ。
 で、こう言った。

「なんだあんたか。ちゃんと罰金は払った? 走行許可はとったの?」

 その言葉でワガハイも「アーッ!」
 ようやく彼女の正体がわかった。
 誰かとおもえば、ワガハイとは何かと縁がある獣人の婦警さんではないか。
 衛士隊の制服じゃなくて私服姿だったから、ちっとも気づかなかった
 では、そんな婦警さんがどうして小粋なカフェのテラス席で、盛大にタメ息をついていたのかといえば……


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