寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
152 / 266

152 カネコ、迷宮入り。

しおりを挟む
 
 近頃、国内にて出回っている危険な麻薬。
 その出処を探っているうちに、辺境の城塞都市トライミングに辿り着く。
 しかし調査に向かった間諜らはみな消息を断ち、のちに死体となって発見された。
 この事態を受けて、中央より派遣されたのが魔剣グラムボルグを持つ剣姫である。
 独自の高い追跡能力を持つがゆえの人選であった。

 捜査の過程で様々な妨害工作を受けるも、商業ギルドからのタレコミにて怪しい商会の存在を知る。消された間諜らも調べていた模様。
 なのでこの商会を張り込むことになったが、わずか一日にして飽きたワガハイは夜更けに潜入を敢行する。
 そして地下深くで発見したのは、ヤバそうな施設とナゾの封印であった。

 賢いワガハイは「くわばら、くわばら」
 君子危うきに近寄らず、と触れることなくスルーしようとするも、なぜだか勝手に封印が解けて、なかからあらわれたのはヘドロが人型をしたような怪人八号なる奇異な存在である。

 その性質は凶暴にて、いきなり襲いかかってきた怪人八号。
 なし崩し的に戦闘に突入することになった。
 戦いのさなかに明らかとなる怪人八号の恐るべき能力――分裂増殖。
 斬れば斬るほどドンドン増える。
 炎もダメで、表面が焼けたはしから再生しちゃう。
 さらには覚醒するほどに動きが機敏になり、パワーも増し、手強くなっていく。
 さらにさらに痛みや恐れを一切感じない死兵と化しては、よってたかってこちらをタコ殴りにしようとしてくるではないか!

 このままではマズイと、ワガハイは撤退する。
 かくして戦いは地上へと舞台を移した。
 そこへ魔剣と剣姫も応援にかけつけ、協力することでどうにか増えた怪人八号たちを捕縛することに成功し、ホッとした矢先のこと。
 みんなの目の前で、例の商会が業火の焔に包まれ跡形もなく消滅してしまった。

  〇

 騒動があった翌日――

 まだ薄っすら熱が残っては燻っている竪穴。
 その縁に立っていたのは剣姫と魔剣とワガハイである。

『ものの見事に消滅しておる。因果の糸も完全に途切れているな』

 魔剣によれば、たんに焼いた程度ではこうはならないという。
 たしかにその通りにて、あまりにもキレイに焼けている。
 まるで、商会のあった場所だけをごっそりすくったかのような跡にて。

「……ということは、あれはただの火じゃなかったということかにゃあ?」
『うむ。おそらく派手に燃やしたのはこちらの目を欺くためのモノで、裏でなんらかの特殊な魔法を行使したのであろう』

 それこそ証拠隠滅のために。
 破人とやらの仕業であろうが徹底している。
 なんぞとワガハイと魔剣が話していたら。
 突然、剣姫がぴょん。穴へと身を投げたものだからワガハイたちは、ギョッ!
 あわてて穴をのぞき込んだ時には、もうその姿は深淵に消えていた。

 で、待つことしばし。
 まるで何事もなかったかのようにして、ひょっこり戻ってきた剣姫は「……」
 無言のままで首を横へと振った。
 念のために底を調べてみたが、何も残っていなかったらしい。
 よって物証として手に入れられたのは怪人八号のみ。
 破人らの動向は途切れ、かき集めていた物資をどこに送っていたのか、その搬送方法も不明のまま。肝心の麻薬の出処もわからない。そしてアロセラ教団との繋がりもまた……

「とどのつまり、迷宮入りかにゃあ」

 迷宮入り――
 犯罪事件で犯人がわからない、事件が解決しないままで捜査が打ち切りとなること。お宮入りともいう。

 結果だけ見れば、まんまと破人らにしてやられたような格好にて。
 ただし、わざわざ辺境まで足を運んだことでわかったこともあると魔剣は言う。

『どうやら薬の流れは南の方からきているようである』

 あくまでまだ推測の域を出ないが、ほぼ確定だろうと魔剣は自信をにじませ、剣姫もコクコクうなづく。
 てっきりワガハイにめんどうな張り込みを押しつけて、自分たちはのうのうと接待を受けていたのかとおもっていたら、ちゃんと捜査会議をしては集まった情報を精査していたらしい。
 でもって、南といえばあの迷惑な国があるところで……

「またなのかにゃあ~。後腐れがないようにとっとと潰せばいいのにゃん」

 おもわずそう口にしたら、すでにその方向で周辺各国が協議に入っていると聞かされて、ワガハイはスンってなった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...