寄宿生物カネコ!

月芝

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147 カネコ、潜入する。

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 張り込み初日。
 夜になった。
 ワガハイは早くも飽きた。めちゃくちゃ退屈である。これはたいへんなお仕事だ。追加料金をはずんでもらわないと、とてもではないが割りに合わない。
 それでもどうにか一日、がんばってみたのだけれども……

「本当に客がほとんどこないのにゃん」

 あまりにも変化が乏しい店先、まるで静止画を延々と見せられているかのよう。
 これもまた退屈を助長する要因のひとつである。
 で、ついに閉店時間を迎え、店はひっそりと営業を終えた。にしても店員たちがもっともイキイキしていたのが、閉店作業中ってのはどうなのかしらん?

 商業エリアは場所によっては眠ることなくつねに可動している。だがこの店のある界隈はそうじゃない。日が暮れたら、大半の店がサッサと看板を下ろしてしまい、通りかかる者や荷車も稀となる。

 監視対象の店が就労を終えた従業員を吐き出していく。
 それらに怪しいところは見受けられない。しいてあげれば、やる気と愛社精神は期待できなさそうにて、もしもワガハイが面接官ならば絶対に採用しないと断言できることぐらいであろうか。
 もっとも彼らとて怠惰な寄宿生活を目指すカネコにだけは言われたくないだろうけど。

 じきに四階建て建物の窓明かりがほとんど消えた。
 あらかた帰宅した模様。残っているのは、ごくわずか。

「ふ~ん、居残りねえ。むちゃくちゃヒマそうだったのに? う~ん、怪しい。これは生活残業かにゃあ」

 生活残業とは、昼間に手を抜きわざと残っては残業代を稼ぐことである。性質の悪いケースだと、とくに仕事もせずに、誰もいなくなった社内で遊んでいたりするらしい。
 さらにヒドイ場合だと、うふんあはん、18禁な大人の遊びに興じるなんてこともあったりするとか。たいていが社内不倫にて、このシチュエーションに興奮するんだとか。
 フム。ただれてますな。たとえ世界はちがえども、ヒトが考えることはたいして変わらないらしい。

 まぁ、ことの是非はともかくとして。

「どれ、そろそろワガハイも動くかにゃあ」

 ぼんやり眺めているだけなのにはとっくに飽きている。
 なのでこれから対象に潜入してみようとおもう。
 だって、何日も張り込みを続けるのとかダルダルなんだもの。
 それによくよく考えてみたら、いまのワガハイはカネコインビジブルによって、他者から視認されにくくなっている。夜陰にまぎれてしまえば、どうにかなりそうな気がする。

「……というわけで、さっそくお邪魔しますのにゃあ~」

 サクっと潜入完了。
 不用心なことに裏手にある従業員用の扉のカギが閉め忘れてあったもので、ラッキー!
 店舗の裏手はバックヤードになっており、棚にはたくさんの荷袋が積んである。中身は、この商会がせっせとかき集めているという穀物類だった。

「豆、小麦、米、モロコシ、ソバ、イモ……。フムフム、ひと通りそろっているのにゃんねえ」

 品揃えは悪くない。
 袋を開けて確認していないので品質についてはなんとも言えないが、濡れたり湿気ったりしていないので管理はきちんとしているようだ。
 そろりそろり、息を潜めながら移動する。棚の合間を抜けてバックヤードから店舗側へと。
 で、店の方を見てみれば、在庫の充実ぶりに反して、こちらの商品棚には空きが目立つ。
 スカスカとまでは言わないけれども、必要最小限にて全体的にボリュームに欠ける印象を受ける。

「う~ん、まるで地方の田舎にある寂れた駄菓子屋みたいだにゃん」

 これがワガハイの率直な感想であった。
 ぱっと見に商品はそれなりにあるけれど、いざ手にしてみたら「げっ、賞味期限がとっくに切れてる!」みたいな。
 ようは微妙だということ。
 とてもではないが、ここで買い物をしたいとはおもえない。

「そのわりには掃除だけはきちんとしてあるにゃんねえ。ネズミとか害虫対策かにゃあ。……もしくは、わざとすき間だらけにして客の購買意欲を削いでいる?」

 首をかしげつつワガハイは店のなかをぐるりとひと回りしてから、ふたたび奥へと戻った。
 階段のところまできたところで、耳をピンと立ててはカネコイヤーを発動する。
 上階の様子を探っていたのだけれども……

「うにゃ? 足下からヘンな音が聞こえるのにゃあ」

 ぐぅおん、ぐぅおんという低い駆動音がする。
 勇者一行の移動手段である飛行船アンフィニのプロペラの音に似ているかも。なんらかの動力が働いているようだ。
 だが、地下へと通じる階段がどこにも見当たらない。
 で、よくよく探すと階段一階脇の納戸の奥にて、それらしい扉を発見した。


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