146 / 254
146 カネコ、ナゾの粉をペロリ。
しおりを挟む副ギルド長は商業ギルド長の片腕兼懐刀にて、裏では汚れ仕事を一手に引き受けている……らしいとのウワサがあるヤバい森人さん。
そんな彼からもたらされたのは「妙な商会がある」という情報であった。
表向きはどこにでもいる中流の商会。主に農作物などを扱っているそうなのだが、せっせと仕入れるわりには、ちっとも吐き出さないという。相場が動いて、あきらかにもうけられるタイミングでも沈黙している。
どうやら他所に本店があるようで、そちらに送っているらしいのだが、その量もまたおかしい。
城塞都市からの出入りの際に申告されている量と、実際に運び出されている量とにズレがあるのだ。
税金逃れで誤魔化すことはべつに珍しいことではないけれど、ふつうは申告よりも多く持ち出してはその差額をちょろまかすもの。限られたスペースでいかに積載量を増やすか、隙間なく詰め込めるかが荷運び担当の腕の見せ所でもある。
なのにその商会ときたら、やっているのは真逆のことであった。あまりにも無頓着にて持ち出す量が少なすぎるのだ。ばかりか、さらに買い足してさえしている。
彼らが借りている店舗や倉庫の規模からして、在庫を抱え過ぎておりとっくに溢れていてもおかしくないというのに、ちっとも困っている様子がない。
どうにも計算が合わないのだ。
「だからうちでも調べてみたのだが、少なくとも各種手続きや書類上では不備がなかった。というかあまりにもキレイ過ぎる。ふつうは際どい節税対策のひとつやふたつやっているものなのに、そういったこともない」
海千山千の魍魎どもがひしめき合っている商業界。
辺境都市に支店を構えるほどの商会ともなれば、大なり小なりグレーゾーンに足を踏み込まざるを得ない。キレイ過ぎる水では魚は生きていけない。朱に交わればなんとやらだ。
なのに真っ白とかありえない。
だから商業ギルドは前々から目をつけていたものの、ちっともしっぽを出さない。
では、どうしてそんな商会と今回の一件との関連を商業ギルドが疑ったのかといえば、殺された間諜たちがその商会について調べていたから。
当人らは正体を隠し秘密裏に調査していたようだが、ギルドに照会記録が残っていたことで発覚したという次第。
間諜たちがそろって例の商会に興味を示していた。
おそらくは彼らの嗅覚を刺激する何かがあったのだろう。
そして四人は殺された。しかも壁の外で殺れば後腐れがないのに、わざわざ壁のなかでだ。
それすなわち、探られていた側が切羽詰まっていたということ。
間諜たちはきっと何かを見つけたのだ。
知ってはいけないことを知ったがために殺されたのだ。
〇
都市の北エリア、二層目と三層目の境にある商業エリアの某所にて――
建物と建物との間、物陰にひそんでは監視しているのは例の商会の店舗である。
地味な店先にて、店内も薄暗く、やっているのかいないのかわからないものだから、素通りする客が多い。素人目にも商売っ気のなさがうかがえる。
ただいまカネコインビジブルを発動中。
ワガハイは透明になって張り込みをしている。
説明しよう。
カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。
とはいえSF作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。
なぜだか剣姫と魔剣グラムボルグにワガハイの能力のことがバレており、張り込みを命じられてしまった。おそらくは指名依頼を出す際に、あれこれと身元を調べられたのだろう。
情報源は冒険者ギルドのギルド長か、馴染みの受付のおっさんあたりか、もしくはレジメ板で集めた情報からの線も。
「え~、にゃんでワガハイが!?」
文句を言ったら。
『我ではすぐにバレるからな』
「……右に同じ」
正論であった。ぐぅの音も出やしない。
というわけで張り込みを押しつけられた。
なお魔剣と剣姫はその間、いったん用意された迎賓館へと入っている。
さすがにこれまでずっと動きどおしだったので、少し休憩するってさ。あと彼女たちがそうすることで、敵を油断させるとのこと。
「ったく、個人情報だだ洩れだにゃん。これだから行き過ぎた情報化社会は油断がならないのにゃんねえ。モグモグ、ごっくん。ん? 意外とイケるにゃんコレ」
張り込みといえばアンパンと牛乳。
だが残念なことにアンパンは売ってなかった。パンのなかに豆を煮込んだ具をいれた食べ物はあったのだけれども、味はスパイシーにてどちらかといえばカレーパンに近い。あれはあれでウマいのだけれども、張り込みの場面には似つかわしくないので却下。
というか、お口が甘いものを求めている。疲れたときには体が甘い物を欲するもの。
だから屋台街で見つけた砂糖をまぶした揚げパンっぽいのをチョイスしたのだけれども、これが当たりだった。
「たんに油で揚げたパンに砂糖をまぶしただけなのかとおもっていたけど、微妙にちがうにゃんねえ。くんくん……油からしてくどくないし、いいニオイもするし。これは植物油かにゃあ。生地も外はサクサク、中はモチモチ。まぶしている砂糖にしても、ただ甘いだけじゃない。
ペロリ……ほうほう、よくよく味わってみると甘味のなかに、ほんのり塩味がまじっているだけでなく、旨味すらもある。なんという複雑な味わい。
う~ん、ぜひともこのナゾの粉を販売して欲しいのにゃあ」
あとをひくウマさにて、ワガハイは肉球についた白い粉までペロペロ。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる