寄宿生物カネコ!

月芝

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146 カネコ、ナゾの粉をペロリ。

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 副ギルド長は商業ギルド長の片腕兼懐刀にて、裏では汚れ仕事を一手に引き受けている……らしいとのウワサがあるヤバい森人さん。
 そんな彼からもたらされたのは「妙な商会がある」という情報であった。

 表向きはどこにでもいる中流の商会。主に農作物などを扱っているそうなのだが、せっせと仕入れるわりには、ちっとも吐き出さないという。相場が動いて、あきらかにもうけられるタイミングでも沈黙している。
 どうやら他所に本店があるようで、そちらに送っているらしいのだが、その量もまたおかしい。
 城塞都市からの出入りの際に申告されている量と、実際に運び出されている量とにズレがあるのだ。

 税金逃れで誤魔化すことはべつに珍しいことではないけれど、ふつうは申告よりも多く持ち出してはその差額をちょろまかすもの。限られたスペースでいかに積載量を増やすか、隙間なく詰め込めるかが荷運び担当の腕の見せ所でもある。 
 なのにその商会ときたら、やっているのは真逆のことであった。あまりにも無頓着にて持ち出す量が少なすぎるのだ。ばかりか、さらに買い足してさえしている。

 彼らが借りている店舗や倉庫の規模からして、在庫を抱え過ぎておりとっくに溢れていてもおかしくないというのに、ちっとも困っている様子がない。
 どうにも計算が合わないのだ。

「だからうちでも調べてみたのだが、少なくとも各種手続きや書類上では不備がなかった。というかあまりにもキレイ過ぎる。ふつうは際どい節税対策のひとつやふたつやっているものなのに、そういったこともない」

 海千山千の魍魎どもがひしめき合っている商業界。
 辺境都市に支店を構えるほどの商会ともなれば、大なり小なりグレーゾーンに足を踏み込まざるを得ない。キレイ過ぎる水では魚は生きていけない。朱に交わればなんとやらだ。
 なのに真っ白とかありえない。
 だから商業ギルドは前々から目をつけていたものの、ちっともしっぽを出さない。

 では、どうしてそんな商会と今回の一件との関連を商業ギルドが疑ったのかといえば、殺された間諜たちがその商会について調べていたから。
 当人らは正体を隠し秘密裏に調査していたようだが、ギルドに照会記録が残っていたことで発覚したという次第。

 間諜たちがそろって例の商会に興味を示していた。
 おそらくは彼らの嗅覚を刺激する何かがあったのだろう。
 そして四人は殺された。しかも壁の外で殺れば後腐れがないのに、わざわざ壁のなかでだ。
 それすなわち、探られていた側が切羽詰まっていたということ。
 間諜たちはきっと何かを見つけたのだ。
 知ってはいけないことを知ったがために殺されたのだ。

  〇

 都市の北エリア、二層目と三層目の境にある商業エリアの某所にて――

 建物と建物との間、物陰にひそんでは監視しているのは例の商会の店舗である。
 地味な店先にて、店内も薄暗く、やっているのかいないのかわからないものだから、素通りする客が多い。素人目にも商売っ気のなさがうかがえる。
 ただいまカネコインビジブルを発動中。
 ワガハイは透明になって張り込みをしている。

 説明しよう。
 カネコインビジブルとは、カネコの豊富な魔力を惜しげもなく全身の毛に注ぎ込み、ビビビと震わせることにより、生じる光学迷彩のことである。
 とはいえSF作品に登場するようなカッコいいのではなくて、カメレオンやタコが保護色を変えて擬態し、周囲の景色に溶け込むようなモノ。

 なぜだか剣姫と魔剣グラムボルグにワガハイの能力のことがバレており、張り込みを命じられてしまった。おそらくは指名依頼を出す際に、あれこれと身元を調べられたのだろう。
 情報源は冒険者ギルドのギルド長か、馴染みの受付のおっさんあたりか、もしくはレジメ板で集めた情報からの線も。

「え~、にゃんでワガハイが!?」

 文句を言ったら。

『我ではすぐにバレるからな』
「……右に同じ」

 正論であった。ぐぅの音も出やしない。
 というわけで張り込みを押しつけられた。
 なお魔剣と剣姫はその間、いったん用意された迎賓館へと入っている。
 さすがにこれまでずっと動きどおしだったので、少し休憩するってさ。あと彼女たちがそうすることで、敵を油断させるとのこと。

「ったく、個人情報だだ洩れだにゃん。これだから行き過ぎた情報化社会は油断がならないのにゃんねえ。モグモグ、ごっくん。ん? 意外とイケるにゃんコレ」

 張り込みといえばアンパンと牛乳。
 だが残念なことにアンパンは売ってなかった。パンのなかに豆を煮込んだ具をいれた食べ物はあったのだけれども、味はスパイシーにてどちらかといえばカレーパンに近い。あれはあれでウマいのだけれども、張り込みの場面には似つかわしくないので却下。
 というか、お口が甘いものを求めている。疲れたときには体が甘い物を欲するもの。
 だから屋台街で見つけた砂糖をまぶした揚げパンっぽいのをチョイスしたのだけれども、これが当たりだった。

「たんに油で揚げたパンに砂糖をまぶしただけなのかとおもっていたけど、微妙にちがうにゃんねえ。くんくん……油からしてくどくないし、いいニオイもするし。これは植物油かにゃあ。生地も外はサクサク、中はモチモチ。まぶしている砂糖にしても、ただ甘いだけじゃない。
 ペロリ……ほうほう、よくよく味わってみると甘味のなかに、ほんのり塩味がまじっているだけでなく、旨味すらもある。なんという複雑な味わい。
 う~ん、ぜひともこのナゾの粉を販売して欲しいのにゃあ」

 あとをひくウマさにて、ワガハイは肉球についた白い粉までペロペロ。


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