寄宿生物カネコ!

月芝

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144 カネコ、しっぽを掴まれる。

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 中央からやってきた剣姫と魔剣をちょいと案内するだけ。
 簡単なお仕事のはずが、気づけばがっつり取り込まれて手伝わされている。
 そのくせ状況は混迷の度合いを深めるばかり。
 よくわからないことだらけで、頭がこんがらがってきた。
 だからワガハイたちは、いったんこれまでに得た情報を整理することにする。

  〇

 まず四人の間諜らが何者かによって次々に殺された。
 彼らが調べていたのは、近頃国内で出回っている危険な麻薬。
 中毒性が高く、ヒトを凶暴化させ、ついには魔獣へと変質させる恐るべきシロモノ。
 麻薬の出処は辺境都市トライミング?
 かどうかは定かではないが、流入経路を辿ると、ここがどうにもきな臭い。

 現状、誰が敵で誰が味方なのかは不明。
 アロセラ教団の関与も疑われるが、あくまで疑惑に留まっている。
 だから中央は現地の行政府には内緒で調査をしていたのだけれども、結果はご覧の通りにて。
 業を煮やした中央は、すみやかな解決をはかるべく高い追跡能力を持つ剣姫と魔剣グラムボルグを派遣することを決定した。

 現地入りした剣姫たちは、さっそく調査を開始。ワガハイも案内役としてこれに同行する。
 魔剣グラムボルグの能力のひとつである『因果律の糸を視る能力』を用いて、遺体が発見された現場から犯人の行方を探ろうとする。
 しかしそのさなかに下水道爆破が起きた。ブービートラップにて犯人が仕掛けたものとおもわれる。
 これにより追跡の中断を余儀なくされ、いったん地上へと戻るために通りがかった地底湖にてキルコスと遭遇、戦闘となった。もっとも戦ったのはワガハイだけど……

 慣れぬ水中戦に苦しみながらも、どうにかキルコスを退けることに成功したワガハイであったが、ここで判明したのがキルコスがじつは敵じゃなくて、地底湖を守る警備員だったこと。そして彼女の口から語られたのは、魚ドロボウの話である。
 地底湖で養殖している魚を狙う不届き者がいるから退治するようにと、上司から命じられていた彼女は、その指示に従ったのにすぎなかった。

 剣姫と魔剣が調査のために来訪していることは、行政府の上層部ならば誰もが知るところ。各部署の責任者にも通達されている。
 なのにそのことには一切触れずに、不審者情報だけを流したというキルコスの上司。
 ブービートラップのことといい、地底湖に誘導されたことといい、タイミング的にもどうにも怪しい。
 だから当人のもとへ押しかけては問い質すも、上司は頭にハテナマークを浮かべては「なんのこっちゃい」と首をかしげるばかり。
 どうやら別人が彼に成りすましてキルコスをけしかけたようである。
 そしてその何者かは、都市の雑踏にまぎれて消えた……と。

  〇

 う~ん、わずか半日足らずで、なかなかに盛りだくさんの内容である。
 でもって、あれこれ情報を時系列順に精査しているうちにワガハイはふとおもった。

「うにゃ? よくよく考えてみたら、ワガハイってばみじんも関係なくない?」

 ギルドからの指名依頼は下水道内の案内だけであったはず。
 だから「じゃ、そういうことで。おつかれさまだにゃあ~」とシレっとフェードアウトしようとするも、むんずと剣姫にしっぽを捕まれた。「……ダメ」

 カネコは逃走に失敗した。

 ちっ、こんなことなら一本だけ残さずに、すっぱり全部カネコテイルボムにしてしまうんだった。見た目を気にしたのが仇となる。ワガハイは後悔するもあとの祭り。

『あきらめろ。土地勘があって、かつ信用できる協力者は貴重だからな』

 魔剣からもこう言われて、ワガハイはがっくりうなだれた。
 やれやれ、こうなればしょうがない。とっとと真相を明らかにして、お役御免になるしかない。
 腹を決めたところでずっと気になっていたことをワガハイは口にする。

「……ところで、他人に成りすますのって、そんなに簡単なことなのかにゃあ?」

 間諜らは潜入とかするだろうから、変装とか身分を偽ったりなんぞは日常茶飯事だろう。
 だが、いかに疎遠がちな上司と部下とはいえ、顔見知りに化けて、面と向かって話をして相手にバレれないというのは、いささかその範疇を越えているような……それこそ変身魔法でもあればべつだけど。
 でもそんな便利な魔法、ワガハイが所有している『魔術大全』にも載ってなかった。
 あれは孤高の天才サレーオの遺著にして、えらい学者先生の爺ちゃんをして「百万冊の蔵書数を誇る大図書館と交換しても惜しくない」「これを巡って戦争が起きても不思議じゃない」とまで言わしめるほどの魔術の本。
 そんな書に情報がなかった時点で、変身魔法はないとみていい。
 キルコスが使った人化は、おそらく種族固有の能力なのだろう。

 ワガハイが疑問を吐露すれば、ピクっと剣姫の片眉がほんの少しだけ動く。
 無表情な彼女にしては珍しいこと。
 そんな剣姫が目配せ、それにうなづき魔剣が言った。

『……それについては心当たりがなくもない。ただし』
「ただし?」
『もしもそやつの……、いや、そやつらの仕業だとしたら、かなりマズイことになりかねん』

 どのくらいマズイことになりかねないのかといえば、城塞都市が廃墟になるぐらいマズイことに発展しかねないと聞かされて、ワガハイはゾゾゾと総毛立つ。


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