144 / 280
144 カネコ、しっぽを掴まれる。
しおりを挟む中央からやってきた剣姫と魔剣をちょいと案内するだけ。
簡単なお仕事のはずが、気づけばがっつり取り込まれて手伝わされている。
そのくせ状況は混迷の度合いを深めるばかり。
よくわからないことだらけで、頭がこんがらがってきた。
だからワガハイたちは、いったんこれまでに得た情報を整理することにする。
〇
まず四人の間諜らが何者かによって次々に殺された。
彼らが調べていたのは、近頃国内で出回っている危険な麻薬。
中毒性が高く、ヒトを凶暴化させ、ついには魔獣へと変質させる恐るべきシロモノ。
麻薬の出処は辺境都市トライミング?
かどうかは定かではないが、流入経路を辿ると、ここがどうにもきな臭い。
現状、誰が敵で誰が味方なのかは不明。
アロセラ教団の関与も疑われるが、あくまで疑惑に留まっている。
だから中央は現地の行政府には内緒で調査をしていたのだけれども、結果はご覧の通りにて。
業を煮やした中央は、すみやかな解決をはかるべく高い追跡能力を持つ剣姫と魔剣グラムボルグを派遣することを決定した。
現地入りした剣姫たちは、さっそく調査を開始。ワガハイも案内役としてこれに同行する。
魔剣グラムボルグの能力のひとつである『因果律の糸を視る能力』を用いて、遺体が発見された現場から犯人の行方を探ろうとする。
しかしそのさなかに下水道爆破が起きた。ブービートラップにて犯人が仕掛けたものとおもわれる。
これにより追跡の中断を余儀なくされ、いったん地上へと戻るために通りがかった地底湖にてキルコスと遭遇、戦闘となった。もっとも戦ったのはワガハイだけど……
慣れぬ水中戦に苦しみながらも、どうにかキルコスを退けることに成功したワガハイであったが、ここで判明したのがキルコスがじつは敵じゃなくて、地底湖を守る警備員だったこと。そして彼女の口から語られたのは、魚ドロボウの話である。
地底湖で養殖している魚を狙う不届き者がいるから退治するようにと、上司から命じられていた彼女は、その指示に従ったのにすぎなかった。
剣姫と魔剣が調査のために来訪していることは、行政府の上層部ならば誰もが知るところ。各部署の責任者にも通達されている。
なのにそのことには一切触れずに、不審者情報だけを流したというキルコスの上司。
ブービートラップのことといい、地底湖に誘導されたことといい、タイミング的にもどうにも怪しい。
だから当人のもとへ押しかけては問い質すも、上司は頭にハテナマークを浮かべては「なんのこっちゃい」と首をかしげるばかり。
どうやら別人が彼に成りすましてキルコスをけしかけたようである。
そしてその何者かは、都市の雑踏にまぎれて消えた……と。
〇
う~ん、わずか半日足らずで、なかなかに盛りだくさんの内容である。
でもって、あれこれ情報を時系列順に精査しているうちにワガハイはふとおもった。
「うにゃ? よくよく考えてみたら、ワガハイってばみじんも関係なくない?」
ギルドからの指名依頼は下水道内の案内だけであったはず。
だから「じゃ、そういうことで。おつかれさまだにゃあ~」とシレっとフェードアウトしようとするも、むんずと剣姫にしっぽを捕まれた。「……ダメ」
カネコは逃走に失敗した。
ちっ、こんなことなら一本だけ残さずに、すっぱり全部カネコテイルボムにしてしまうんだった。見た目を気にしたのが仇となる。ワガハイは後悔するもあとの祭り。
『あきらめろ。土地勘があって、かつ信用できる協力者は貴重だからな』
魔剣からもこう言われて、ワガハイはがっくりうなだれた。
やれやれ、こうなればしょうがない。とっとと真相を明らかにして、お役御免になるしかない。
腹を決めたところでずっと気になっていたことをワガハイは口にする。
「……ところで、他人に成りすますのって、そんなに簡単なことなのかにゃあ?」
間諜らは潜入とかするだろうから、変装とか身分を偽ったりなんぞは日常茶飯事だろう。
だが、いかに疎遠がちな上司と部下とはいえ、顔見知りに化けて、面と向かって話をして相手にバレれないというのは、いささかその範疇を越えているような……それこそ変身魔法でもあればべつだけど。
でもそんな便利な魔法、ワガハイが所有している『魔術大全』にも載ってなかった。
あれは孤高の天才サレーオの遺著にして、えらい学者先生の爺ちゃんをして「百万冊の蔵書数を誇る大図書館と交換しても惜しくない」「これを巡って戦争が起きても不思議じゃない」とまで言わしめるほどの魔術の本。
そんな書に情報がなかった時点で、変身魔法はないとみていい。
キルコスが使った人化は、おそらく種族固有の能力なのだろう。
ワガハイが疑問を吐露すれば、ピクっと剣姫の片眉がほんの少しだけ動く。
無表情な彼女にしては珍しいこと。
そんな剣姫が目配せ、それにうなづき魔剣が言った。
『……それについては心当たりがなくもない。ただし』
「ただし?」
『もしもそやつの……、いや、そやつらの仕業だとしたら、かなりマズイことになりかねん』
どのくらいマズイことになりかねないのかといえば、城塞都市が廃墟になるぐらいマズイことに発展しかねないと聞かされて、ワガハイはゾゾゾと総毛立つ。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

記憶喪失の異世界転生者を拾いました
町島航太
ファンタジー
深淵から漏れる生物にとって猛毒である瘴気によって草木は枯れ果て、生物は病に侵され、魔物が這い出る災厄の時代。
浄化の神の神殿に仕える瘴気の影響を受けない浄化の騎士のガルは女神に誘われて瘴気を止める旅へと出る。
近くにあるエルフの里を目指して森を歩いていると、土に埋もれた記憶喪失の転生者トキと出会う。
彼女は瘴気を吸収する特異体質の持ち主だった。

絶滅危惧種のパパになりました………~保護して繁殖しようと思います~
ブラックベリィ
ファンタジー
ここでは無いどこかの世界の夢を見る。起きているのか?眠っているのか?………気が付いたら、見知らぬ森の中。何かに導かれた先には、大きな卵が………。そこから孵化した子供と、異世界を旅します。卵から孵った子は絶滅危惧種のようです。
タイトルを変更したモノです。加筆修正してサクサクと、公開していたところまで行きたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる