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143 カネコ、事情を訊く。
しおりを挟む水の中と外。
このままだといささか話しづらいので……
ふたたび女の姿に変身しては「よっこらせ」と陸にあがったキルコス。
にしても、岩にちょこなんと腰かけ澄ましているぶんには天女のごとし。
惚れぼれするようないい女である。
でもこいつの正体はナマズ。それも電気をビリビリするタイプの過激なナマズ。
そんなキルコスによると、彼女の身分は『漁業組合の警備員』とのこと。しかも正規の職員! つまり彼女はまごうことなき行政府側の人間ということだ。
では、そんなキルコスがどうしてワガハイたちをいきなり攻撃してきたのかといえば……
「いえね、じつは少し前に組合本部のおえらいさんから直々に通達がありまして」
それは数日前のことだった。
普段は現場に寄りつきもしない上司が、ひょっこり地底湖に顔を見せた。しかも手土産を持って。珍しいこともあるものだ、天変地異の前触れか。
キルコスはいぶかしみつつも、上司を迎えた。
そんな上司が言うことにゃあ。
ここ最近、魚を狙う不届き者がいて上では被害が続いている。
未確認ながらも、その魚ドロボウが地底湖をも狙っているという情報を得たので、もしも発見したならばすみやかに排除すべし。対象の生死は問わない。なお退治に成功したら金一封を授与する。
この話を聞いて以降、キルコスはいっそう目を光らせるようになった。
すると、そんなところへノコノコあらわれたのが、怪しげな一行である。
にやりと不気味な笑みに光る三つの目、シシガシラっぽいナゾの珍生物。
禍々しい気を放ちながら、べらべらと呪詛のごとき言葉をまき散らす漆黒の剣。
まるで屍人のごとき、あるいは傀儡(くぐつ)か。生気が感じられない死んだ魚の目をした少女。
みるからにヤバそうな三人組がやってきた!
しかも地上からの正規のルートではなくて、地下深くは下水道の方から。
さらに連中がやってきた方からは、直前に何やらシャレにならない物音やら震動も聞こえていた。
怪しい三人組を見て「すわ、これが例の魚ドロボウどもか!? いかにも食い意地がはってそうにて、なんて品のないツラがまえなんだろう」とキルコスはいきり立つ。
とはいえ不審者らは三人いる。対して自分はひとり。
だからまずは変化の術にて相手をたぶらかしては分断し、得意の水中戦へと持ち込み各個撃破しようとしたという次第。
キルコスから事情を聞いたワガハイは「んんん?」と首をかしげる。
実際に魚ドロボウが出没しており、たまさか運悪く間違えられたと考えられなくもないけれど……
魚ドロボウならば、以前にワガハイの調査により、その正体が判明している。
犯行は対空防御結界に開いた穴から侵入していた、ガラケーというカラスっぽい魔獣の仕業であった。
アレとはまた別口であろうか?
気になる点は他にもある。
それは上司からの通達とやらだ。
シークレットライブやコロコロデイルの件により、現在下水道には不用意に立ち入らないようにとの通達が行政府からなされている。基本的に関係者以外は立ち入り禁止だ。
加えて中央より剣姫と魔剣グラムボルグが調査のために派遣されてきたのは、知る人ぞ知るところ。
一般人ならばともかく、行政府の関係者ならばなおさら。
ずっと地底湖にこもっているキルコスならばともかく、漁業組合のえらい人ともなれば、イヤでも耳に入るだろうし、それこそ領主さまから連絡を受けていたはず。
なのに肝心の情報は一切キルコスに渡すことなく、不審者があらわれたら排除せよとだけ伝えていた。
これって……
「とっても怪しいのにゃあ」
『うぬ、その上司とやらが仕組んだか。だとすれば、そやつが裏で糸をひいていた首魁か、もしくは悪党どもの協力者かもしれんぞ』
「……うん」
下水道に仕掛けられていた罠といい、モロモロのタイミングといい、上司とやらが一枚噛んでいるのはまず間違いないだろう。
というわけで、ワガハイたちはキルコスに別れを告げて、さっそく彼女の上司がいる漁業組合の事務所に突撃したのだけれども……
怪しいとされた上司は、ふつうに事務所で仕事をしていた。
で、いきなり押しかけたワガハイたちに面喰らっては、突きつけられた魔剣の切っ先を前にして「ひぃえええええ」とビビりまくる。
とてもではないが、あれほどの悪だくみを巡らし、剣姫と魔剣にケンカを売るような男にはみえない。
加えて魔剣が発した言葉が、事態をよりいっそう混乱させる。
『本当にこやつがキルコスに命じた者なのか? 糸がまったく視えんぞ』
因果律の糸が結ばれていない。
それすなわち、かかわりがないということ。
上司の男に問い詰めたら、「キルコスに命令? いったい何のこと?」と首をひねられ、とぼけている風でもなし。
キルコスから聞いた話とちがう。
いったいどういうことだと、ワガハイたちも顔を見合わせた。
もしかして上司に成り替わった真犯人がいるのか?
ならばキルコスに紡がれた糸から、その行方を辿ろうとするも都市内部へとのびた糸は、他にある大量の糸にまぎれてしまっていた。
大勢の住人が暮らす場所ゆえに、因果律は複雑に絡み合っており、ごちゃごちゃで選別するのはむずかしい。
魔剣もこれ以上は糸を追えぬというし、捜査は足踏みするのを余儀なくされた。
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