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139 カネコとキルコス。
しおりを挟む泣く女は巨大ナマズが化けていたもの。
こういうのも人魚というのだろうか? それとも魚人? もしくは半魚人?
わざとらしい泣きマネにひっかかってしまい、ワガハイの身は湖へと引きずり込まれた。
「にゃにゃにゃ! もしかしてアレが立て札にあったキルコスかにゃあ」
この地底湖ってば漁業組合が管理している養殖場だったはず。
ということは、アレも育てているのかしらん。
いや、たしかにナマズは上質な白身を持っており、クセのない味わいだから、ワガハイの元いた世界でも昔から食べられてはいたけれども。
ほどよく脂がのっており、かば焼き、てんぷら、からあげ、フライにしても美味しい。煮てもいい出汁がでる。
もっともしっかり泥ヌキをすることが大前提ではあるけれど。
あとじつに意外なことに、あのヌメっと黒てかりしている皮には独特の風味と旨味が濃縮されており、食通をもうならされるほど。
かくいうワガハイも出張のおりに、とある地方で食べたことがあったが、なかなかイケた。
じゅるり。
あぁ、思い出したらヨダレが……
なんぞとワガハイが考えていると、いよいよキルコスがこちらへ向かったきた。
かくして始まったキルコスとの水中戦。
こちらの様子をみながら、ゆら~りと周遊していたキルコスが急に身をひるがえした。
と、おもったら頭から猛然と突っ込んでくる。
キルコスの頭突き攻撃!
ワガハイはカネコスラッシュで迎え討とうとするも、「にゃ!?」
出力が弱々……おもうように風の刃が飛ばない。
よくよく考えれば当然のこと、なにせここは水の中なのだから。
しかもワガハイは動く毛玉である。
ゴワゴワだった毛がたっぷり水を吸ったせいで、まるで濡れた革鎧のようになっちゃった!
「う、体が重いのにゃあ」
ただでさえ慣れぬ水中にて、この有り様。
失敗した……横着して顔だけ守るんじゃなくて、全身を魔法で覆うべきであった。
と、後悔するも後の祭り。
モタモタしているところをズドン!
キルコスのぶちかましが炸裂する。
まともに喰らったワガハイは「うんぎゃあぁ~」
情けない声をあげて、ぐるぐる吹き飛ばされた。
「ナァー、やられたのにゃあ。でも、威力はさほどでもないのにゃん」
妙な迫力があってちょっとビビらされたけど、ダメージはおもいのほか軽微。
手足をバタつかせて、ワガハイはすぐさま崩れた体勢を整えようとする。
だが、うねる水流のせいでなかなか上手くいかない。
一方でキルコスは余裕にてスイスイ泳いでいる。
まぁ、魚なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど、ドヤ顔がムカつく!
でも認めざるをえない。
地の利はキルコスにあって、水中戦ではヤツに一日(いちじつ)の長がある。
「このままではマズイのにゃん。とりあえず水から揚がるのにゃあ」
ワガハイは急ぎ水面を目指す。
が、そんなこちらの考えなんぞはキルコスもとっくにお見通しにて。
魚影が動き、あっという間に先回りをされた。
で、ぶぅんと振るわれたのは尾っぽ。
ビタンと尾びれの一撃により、ワガハイは脳天をはたかれ「へぎゃ!」
さらに水流による追撃も受けて、ワガハイの体はぐんぐん沈んでいく。
浮上するどころか、より深いところへと逆に叩き落とされてしまった。
ここまでひとつもいいところがないワガハイは、しかめっ面にてブクブクブク……
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