寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
134 / 254

134 カネコ、糸をたぐる。

しおりを挟む
 
 シークレットライブが行われていた会場跡へと到着した。
 規制線が張られており、現場は捜査関係者以外は立ち入り禁止にて保存されている。
 とはいえ、目ぼしいものはすでにワガハイが回収して提出済みだし、当局の現場検証もとっくに終わっており、根こそぎさらわれたあとゆえに、ここにはもうロクなモノは残っていない。
 なのに剣姫はトライミングに到着するやいなや、真っ先にここへ来たいと言った。
 彼女の真意はほどなくして判明する。

 ざっとひと通り、ライブ会場内を見てまわってから剣姫が「どう?」と声をかけたら、相棒の魔剣グラムボルグは『ほうほう、これは……かすかにだが糸がからんでおる』と答えた。

「んにゃ、糸?」

 わけがわからずワガハイが首をかしげていると、魔剣は訊ねてもいないのに得意気にベラベラと教えてくれる。

『ふん、無知な毛玉風情のキサマにも特別に教えてやろう。糸とは原因と結果をつむぐ因果律のことよ。高貴なる我の目をもってすれば、それを視ることが可能なのだ』

 え~と……
 なにやらややこしい物言いだが、ようは誰が何をやったのか、その関連性を糸という形で可視化できるということっぽい。

 例えば、Aくんが放課後の教室に忍び込んで、好きなあの子のリコーダーをこっそりペロペロしたら、Aくんとリコーダーとの間に因果が結ばれて痕跡として糸が残る。
 そのためすぐに犯行がバレて「犯人はおまえだ!」
 次の日からAくんの渾名が『変態笛舐め小僧』になってしまうということだ。

 いずれは薄れて消えるものの、因果律の糸はしばらく現場に残滓として漂っているという。
 これを捕捉して、するする糸をたどって行けば犯人のもとへ案内してもらえる。
 人間の一億倍といわれる嗅覚を誇るワンちゃんもまっさお、どんな名探偵や二時間サスペンス劇場の名刑事らも裸足で逃げ出す、反則級の超々捜査能力。

「にゃにゃにゃんと! 最強の捜査官だにゃん!」

 現場を見たら犯人がすぐに丸わかりとか凄すぎる。
 剣姫と魔剣グラムボルグのコンビがいれば、どんな難事件も即解決しちゃうだろう。
 これにはワガハイもびっくらポンや。
 でも、そんな能力も万能ではないと魔剣はいう。

『たしかに視えるには視える。が、あんまりにもいくつもの糸が複雑にこんがらがっていたら、読み解くのがたいへんなのだ』

 被害者と加害者のみの単純な事件ならば、糸を辿るのは造作もない。
 これが複数の関係者らが入り乱れての愛憎劇ともなれば、からまり具合は難解となり、選別してたどるのがひと苦労となる。くちゃくちゃになっている充電コードの比ではない。ときにはネコの毛玉ボールのごとくなることさえあるのだ。
 さらに国同士や宮中などを舞台にした陰謀渦巻く権謀術数にて、個々や各陣営、大勢の思惑と過去の因果が交差するようなケースともなれば、あんまりにもこんがらがりすぎて、もうどれがどれやら……となりかねない。

 せめて糸の色なり太さなりがちがうように視えたらよかったのだけれども。
 あいにくとすべておなじように視えるそうで、まず見分けがつかないとのこと。
 一見すると凄い能力も、う~ん。
 あと視えているのが魔剣のみなので、当然ながら裁判での証拠能力は認められていない点も痛しかゆし。

「……そろそろ」

 剣姫に促されて、ワガハイたちはライブ会場をあとにした。
 次に向かうのはコロコロデイルの巣だ。ヤツが掘った穴を通って向かう。
 とくに問題もなく、ちゃっちゃと到着。
 先ほどと同じように魔剣が因果律の糸の残滓を探る。
 すると……

『ほう、こっちにも繋がっているな……数は四。どうやらシークレットライブとやらに間諜らも目をつけて潜入していたようだな』

 魔剣の報告に剣姫は「そう」とだけ。
 表情が乏しく、言葉も少ないので彼女が何を考えているのかはさっぱりだ。
 でもワガハイは心中穏やかではいられない。
 なぜならふたつの事件は裏でかかわりがあったから。
 というか、そもそもの話として……

「間諜の連中はトライミングでいったい何を探っていたのにゃん?」

 しかもただの調査じゃない。中央の肝入りである。
 でなければ、わざわざ王妃直属の剣姫と魔剣が辺境くんだりにまで足を運ぶ理由がない。
 そのくせ活動については行政府側に一切知らされてなかったとか、きな臭いにもほどがある。
 だから部外者がうかつに立ち入るべきではないのはわかっていたけれども、どうにもガマンできずにワガハイは訊ねてしまった。

 そうしたら剣姫はボソッと。

「……麻薬」

 説明を引きついだ魔剣によれば『近頃、国内で密かに出回っているのだが、その中毒性もさることながら、破壊衝動にとりつかれて暴れるばかりか、ついには体を変質させて魔獣化する』とのこと。

 ヒトが魔獣になる?
 もしもそれが本当だとしたら、たしかにトンデモナイ話にて。
 そりゃあ国も動くわな。
 と、ワガハイも「あ~」と納得である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...