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131 カネコ、腕に惑う。
しおりを挟む誰もいなくなった地下のライブ会場に、ワガハイはポツンとひとりきり。
足下には動かなくなったコロコロデイルの姿がある。
えっ、迫力のバトルシーン?
そんなものはない。
縁日の屋台で売られているミドリカメもどきなんぞは、超希少生命体カネコの敵ではないのだ。
生意気にも「ガオーッ」と向かってきたので、「百万年はやいのにゃ! 産まれなおして出直してくるがよい」とサクサク狩ってやったぜ。
にしても……
「くんくん、ちょっと臭うのにゃあ~。さすがにこれは食えにゃい……というか、たとえ食べられたとしても気分的に遠慮したいのにゃん」
下水道産の魔獣はさすがにちょっとねえ。
倒したコロコロデイルはアイテムボックスに放り込んでおく。ここまで大きくなるのは珍しいらしいので、もしかしたらおもわぬ高値がつくかもしれないし。
でも、その作業中のことであった。
「ん?」
カネコスラッシュによりバックリ切り裂かれたお腹から、ぴろんと何かがはみ出ている。
ホルモンかとおもいきや、さにあらず。
よくよく見てみたら、それはヒトの腕であった。
「おっふ……そういえばコイツ、肉食だったにゃんねぇ」
でもって、ライブ会場に乱入したのもきっと新鮮なお肉、活きのいいエサを求めてのこと。
だからこのような事態は起こるべくして起こったと言えなくもない。
あまり気はすすまないけど、ワガハイは腕を引きずり出した。
どろりとした胃液にまみれた酸えた臭いが鼻につき、ワガハイは顔をしかめる。
腕はちょっと溶けているけど原型を留めていた。類人男性の左腕とおもわれるが、素人でわかるのはせいぜいこのぐらい。
詳しいことはギルドの専門家に調べてもらうとして……
残りの部位もないかと漁ってみたが、見当たらず。
たまたまこれだけ残ったか。
ワガハイは発見した類人の腕とコロコロデイルの死体を収納し、ガサ入れを続行する。
客席はどうでもいい。
調査すべきは運営側、関係者席の方だ。
ステージ脇はまるで空き巣にでも入られたかのようにくちゃくちゃ。高価であろう機材類はしっかり持ち去られており、めぼしいモノは見当たらない。
それでもあちこち引っくり返しているうちに見つけたのが、黒革のカバンである。
ビジネスマンが使っていそうなマジメなカバンにて、なかには書類がいろいろ入っていた。もちろん確保する。都市で暗躍を続ける『女神フロディア普及委員会』らに関する情報が得られるかもしれないので。
連中は狡猾にて、なかなかシッポを掴ませないそうなので、このカバンはそのまま当局にお土産として渡すとしよう。
ひとしきり調べ終わった。
そろそろワガハイも引き揚げようかとおもったが、ふと目についたのが破れたスクリーンだ。
うしろの壁に穴が開いている。コロコロデイルの侵入経路だ。力任せにぶち抜いて突入してきたっぽい。
ワガハイは魔法で作った光球にて、穴のなかをともす。
のぞいてみれば穴は奥へとのびていた。造りは粗悪にて、たんに掘じくっただけのよう。
「あきらかに正規の通路じゃないのにゃん。コロコロデイルが作ったのかにゃあ?」
またぞろ地図にない道があらわれたもので、ワガハイはげんなりしつつメモメモ。
う~ん、この分だと他にもあちこち掘じくり返していそうである。
「はぁ~しょうがないにゃんねえ。念のために穴がどこへ繋がっているのか、確認しておくかにゃあ」
ついでに調べておこうと思い立つ。
でも、この行動をのちに激しく後悔することになろうとは、その時のワガハイは知るよしもなかった。
〇
前方から冷気が漂ってくる。
ヌメヌメと戦いながら、ちょいと狭い穴倉をよちよち進むことしばし。
辿り着いたのはひらけた場所だ。
剥き出しの岩肌、天井には鍾乳石の姿もある。ひんやりして涼しい。
コロコロデイルの巣?
もとからあった空洞を利用しているっぽい、のだけれども……
「にゃにゃにゃっ! にゃんだこれは~~」
カネコの絶叫が響く。
そこで見つけたのは死体、死体、死体……大量の骸たち。
たんなる巣なんかじゃない。
ここはコロコロデイルの貯蔵庫であったのだ。
ヤツにはヒグマみたいに食べ物を保存しておく習性があったらしい。
シークレットライブに続けて、どえらいモノを発見してしまった。
ワガハイ「えらいこっちゃ!」
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