129 / 256
129 カネコ、教義に惑う。
しおりを挟む清掃活動中に下水道の奥から聞こえてきたナゾの音色……
「いったい何ごとだにゃん?」
いざなわれるかのようにしてフラフラと向かってみれば、そこは『女神フロディア普及委員会』のシークレットライブ会場であった。
気づいたときにはワガハイも客席にいて、男たちといっしょになってペンライトを振ってはステージに声援を送っていた。
色とりどり、しきりに明滅する光の演出。薄っすら漂ういかがわしい香り。目には見えぬ妖しげな魔力もイバラのごとくのびている。
ステージ上で歌い踊る美姫ら。その声や曲のリズムに耳を傾けていると、頭がぼんやりしてくる。そのくせ体の奥はカッカと熱くなって血が騒ぐ。とてもではないが、じっとなんてしていられない。
めくるめく陶酔、かつて味わったことがないような興奮が渦を巻く。
これは……ただの地下ライブなんかじゃない!
「ゴッリゴリの非合法っ! これはダメなヤツだにゃん」
危険だと判断したワガハイはすぐさま魔法を行使した。周囲にはバレないようにこっそりと風の流れを発生させては顔を守り、まずはこの匂いを吸わないようにする。
続けて触手のようにのびてくる気持ちの悪い魔力のイバラを、自分の魔力にてそっと払いのける。結界でシャッダウンしてもいいのだが、それをしたら術者にバレる恐れがあるので、ここはより慎重に。
さらにカネコイヤーを発動、ノイズキャンセラー機能にてヤバそうな音を排除する。
こうして自身を守ったところで、すぐにでも撤退したかったのだけれども、それをすると悪目立ちしそうだ。
だから、ここはあせらずじっとガマンをして好機が到来するのを待つ。
曲が終わった。
次の曲が始まるまでの合間に、歌姫が「は~い、みんな注目~」と言っては、指し示したのは背後のスクリーンである。
そこに映し出されるのは、いろんなタイプのかわい子ちゃんたちのイラスト。
アニメやマンガのタッチで描かれた二次元の女神たちが、ポーズを決めたり、ふきだしにて決め台詞を口にしたり、いろんな表情をみせている。
教義を要約した短文なんかも、ちょいちょい挟んではキャラたちに語らせたりもしている。
視覚、聴覚、嗅覚を刺激して、潜在意識へと働きかけるサブリミナル効果を狙っての仕掛けか?
女神フロディア……
その存在の真偽は不明にして、在り方もまた他の神々とは一線を画す。
個にして多、群にして弧、いろんな姿を持つ特殊な神だ。
コレという特定の姿を持たないのは、その教義ゆえに。
みんなの信心の数だけ女神がいる。
大切なのは気持ち。
だから容姿なんてどうでもいい。
各々が自分好みの女神さまを思い浮かべては、存分に愛でればいい――というスタンスだ。
自由度の高さと妄想力こそが最大のセールスポイント。
そのくせ、どうして男尊女卑思想なのか? その寛容さを何ゆえ教義に反映しないのか?
あの勇者パーティーの影のリーダーである聖女ですらもが、どれだけ成果をあげようとも、さして出世はできないという理不尽な組織体制のアロセラ教団。
ワガハイはずっと疑問であった。
女神を信奉しているのに女性を大事にしないのって本末転倒じゃないの、いったい何を考えているのかと。
だが、その疑問に対する答えが、よもやここで判明しようとはおもわなかった。
ステージ上で美姫が「いえ~い♪」と客席の野郎たちへ声をかける。
「女神フロディアさまこそが最高!」
「女神フロディアさまこそが至高!」
「女神フロディアさま以外はクソ!」
これに応じて客席からは復唱の大合唱が起こり、会場中がビリビリ震え、男たちがダムダムとその場でジャンプをしては、興奮と熱気が高まっていく。
まぁ、それはともかくとして、ワガハイは「あっ、なるほど……そういうことだったのかにゃん」と独り言ちた。
アロセラ教団がどうして男尊女卑なのか。
それは女神を信奉するがゆえにであったのだ。
連中のなかでは『女神>>>ふつうの女たち』との構図が成立している。
これが絶対であるがゆえに。
女神フロディアは不可侵の存在で、他の女たちはそれ以下でしかない。
女神を頂に掲げ崇めるために、あえて他を墜とす。
すべては歪んだ信仰ゆえの、納得するようなしないようなしょーもない理由であった。
あきれた!
ワガハイは心のなかで「どいつもこいつも腐ってモゲちまえ」と悪態をつく。
で、さすがにこれ以上付き合っていたら、こちらまで毒電波にやられそうなので、そろそろお暇しようとしたのだけれども。
ざわりとして、ゾゾゾ……
どこからともなく不穏な気配がしたもので、ワガハイのうなじの毛が逆立つ。
「うにゃ! にゃんだコレ? まさか女神が顕現するとでも……いや、でもそんなことが本当にありえるのかにゃ」
かつて魔女たちは夜な夜なサバトなる宴を開いては、姦淫に耽り、狂乱の果てに悪魔を召喚したという。
もしかしてこのシークレットライブの真の目的って……
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる