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126 カネコ、声に惑う。
しおりを挟む城塞都市トライミングの下水道は広大かつ迷宮のごとく入り組んでおり、生活排水だけでなくいろんなものが流れてくる。
地上にあっては都合の悪いものなんかも、地下に流されてくる。
そんな場所に突如として響くは女の悲鳴。
本日から三日間は、清掃活動のため立ち入らないようにと事前に告知済み。いかにワガハイとてこの規模の場所を一日ではキレイにできない。
にもかかわらず下水道内にいるということは……
「すわ、事件かにゃ!」
迷うことなくワガハイは駆け出した。
〇
なんらかの犯罪に巻き込まれた乙女が必死に助けを求めている。
ここは乙女の窮地に颯爽とかけつけ、悪漢どもを蹴散らしたのちに、「大丈夫ですか、お嬢さん」と声をかけては、キラリと光るワガハイの白い歯。
たちまちポーっとなる乙女。
うっとりワガハイの胸にしなだれかかっては「なんて凛々しい御方……すき、抱いて!」
しかしそんな彼女にワガハイは優しく諭すようにこう言うのだ。
「やれやれ、困った子ネコちゃんだぜ。ワガハイは危険な男、こんな男に惚れちゃあいけないよベイベー」
……なんてことを妄想しつつ、ワガハイは悲鳴が聞こえたであろう地点を目指しシュタタタタ。
が、現場に到着したところで盛大にズッコケた。
肝心の乙女の姿はどこにもナシ。
代わりにいたのがイタチっぽい獣……
キャメス。
小型の獣にてイタチのような体にしわくちゃな老婆のような顔を持ち、「キャーッ」と若い娘さんの悲鳴のような声で鳴くのがまぎらわしい。ゴミ箱とかを漁る。器用であんまり散らかさない。下水道などのジメっとした暗がりを好み住みついている。雑食にて何でもモリモリ食べる。
いかにも魔獣っぽい容姿だけど、ただの小動物である。
あわてて駆けつけてみれば、キャメス一匹。
ワガハイは「ちっ」と舌打ちにて「走って損したにゃん」
そんなワガハイにキャメスは「キシシシ」とシワだらけの顔をいっそうしわくちゃにしながら、にちゃりと笑った。
〇
時間をムダにした。
あとカロリーもムダに消費した。
もういいから、とっとと清掃活動を始めるべく、ワガハイは闇魔法にて黒のベトベトさんを呼び出そうとする。
だがその矢先のことであった。
「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁぁーっ」
またぞろ悲鳴がした。
今度は男の野太い声だ。
ワガハイはカネコアイを使用し通路の奥にジト目を向ける。
通路が途中で四つに枝分かれをしている。
悲鳴が聞こえたのは左から二つ目の通路とおもわれる。
ここからでは先の様子はわからない。
しょうがないのでワガハイはしぶしぶ声がした方へと小走り。
で、現場に駆けつけるなり「ムッキー!」と地団駄を踏む。
いたのはまたしてもイタチっぽい獣。
ただし、キャメスとはちがう。
いたのはキャオスだ。
キャオス。
小型の獣にてイタチのような体にしわくちゃな老爺のような顔を持ち、「ぎゃーっ」と人間の断末魔みたいな声で鳴く。ゴミ箱とかを漁る。酒好きにて酒の空きビンとか酒缶とか酒瓶とか酒樽とかを放置していると、いつのまにかやってきてはチロチロ残りを舐めている。
器用であんまり散らかさない。キレイに舐めたあとは、まるでそれらをトロフィーのように並べたりもする。雑食にて何でもモリモリ食べるが、酒のつまみになりそうな味の濃いモノを好む。
いかにも魔獣っぽい容姿だけど、ただの小動物である。
あとまぎらわしいのだがキャメスとキャオスは、べつにペアというわけじゃない。いろいろと似ている点も多いが生物としては完全に別種である。
目が合ったキャオスは、酒ビン片手ににへらと笑う。「うぃ~、ヒック」
いかにもこちらを小馬鹿にしたような態度、そのツラのなんと憎たらしいことか。
ワガハイはムカッ!
掃除がてら水魔法をぶっかけてやろうとする。
しかし危険を察した小動物はすぐさま暗がりへと潜りこんだ。「キシシシ」という嘲笑が反響しながら遠ざかっていく。
ぽつんとひとり残されたワガハイは「はぁ~」と嘆息にて「先が思いやられるのにゃあ」
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