124 / 254
124 カネコ、物議をかもす。
しおりを挟む『怪奇! 教会が黒いベトベトさんに覆われて大パニック事件』
『お魚連続窃盗事件、真犯人はおまえだ! の巻』
……に続く三度目の邂逅。
偶然も続けば必然となる。
取り調べ室にて――
机を挟み対峙する取り調べ官と寄宿生物カネコ。
パリッとした制服の襟元を直しながら、取り調べ官がギロリ。
「さすがに今度ばかりは言い逃れはできんぞ」
後ろ足にて首のあたりをゲシゲシ。
気だるそうに掻きながらワガハイは「ふぁ~」とあくびする。
「あ~はいはい。ところで昼飯は何かにゃん。ワガハイ、できれば丼物を所望するのにゃあ。取り調べ室といえば、なんといっても丼にかぎるのにゃん」
これまでの流れならば、お次は思い込みの激しい取り調べ官がトンチンカンな珍推理を披露するのだけれども、今回はちがった。
バンっと机の上に置かれたのは、大判の紙の束。ワガハイの作った紙芝居『カネコの大冒険――立志編――』および製作途中である『カネコの大冒険――激闘編――』だ。しょっ引かれた際に没収されたもの。
だが、これがどうした?
ワガハイがきょとんとしていたら、取り調べ官は紙芝居をめくりながら言った。
「なかなかよくデキている。いかにも子ども受けしそうな内容だ。だがな……これを無許可でおおっぴらにやったのはさすがにマズかったな」
「ん? 紙芝居をするのにいちいち役所に届け出なければいけにゃいのかにゃあ」
「紙芝居が……というよりも、人を集めて何かをする場合には必要だ。それに大勢の思想を誘導することこそが問題なのだ」
「思想を誘導って……そんなの大袈裟だにゃあ。それに似たようなことなら、ツバッキーくんも女神フロディアのところもやっているのにゃあ」
ワガハイが「にゃあにゃあ」文句を言えば、取り調べ官は肩をすくめる。
「商業ギルドはその都度、事前にちゃんとイベントの計画書を届け出て承認を得ている。
アロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』のシークレットライブとやらは……、あくまで地下でひっそりとだ」
商業ギルドの法務部が味方についているツバッキーくんは、各種手続きをとって合法的に活動をしている。
女神フロディアのシンパの方は極めて限定的ながらも、非合法かつ信仰による侵攻となるので当局も警戒を強めている。
が、敵もさるもの。
こっそりとゲリラ的に活動を続けており、なかなかシッポを掴ませない。畑の害獣であるグリモグばりに地下に潜っては暗躍を続けている。当局とのイタチごっこが続いているのが現状だ。
で、ワガハイなのだが無許可の闇営業を白昼の公園で堂々とやっていた。モロ出しである。
しかもまだ耐性の乏しい子ども相手にという点が、極めて悪質にて。
そりゃあ、さすがに捕まるわ。
という話である。
「ぶっちゃけ、今回の件は上層部の方でかなり物議をかもした。さすがにお咎めなしの無罪放免とはいかんぞ」
「にゃ!?」
「……というか、すでに結論はでている。だからこれは取り調べではない。通達の場なのだ。だから日帰りだし食事もナシだ。茶と菓子もでんぞ。ざんねんだったな」
「にゃ、にゃんだと……そんなご無体にゃあ~」
「そして肝心の今回の件に対する処罰だが、まず紙芝居は没収となる」
「にゃにゃっ!」
「それから今後、紙芝居を続けるつもりならば事前審査を受けること。つまりは検閲の上の許可制だな。もちろん不適切な内容と判断されたら却下される。これは絶対だ」
「にゃにゃにゃっ!」
「さらにいらぬ騒動を起こした罰として、ワガハイには奉仕刑として『下水道の清掃活動』を命じる。なおこれを不服とするのならば代わりに罰金を払うのもアリだが、この場合は金貨百二十枚を納付することになる。以上だ」
「にゃにゃにゃにゃにゃあぁーっ!」
マーケティング戦略の一環として始めた紙芝居。
好評を博し、シメシメとほくそ笑んでいたのも束の間のこと。
当局に拘束されてお叱りを受けたばかりか、罰としてボランティア活動をさせられることになってしまった。
ちなみに寄宿生物のプライドにかけて、身銭を切るという選択はありえない。
にしても、どうしてこうなった?
愕然としているワガハイ。
その耳元で取り調べ官がささやく。
「この紙芝居だがな……じつは似たような物ならばすでに存在している。その上で普及していないということは……まぁ、そういうことだ」
ワガハイはカッと大きく目を見開く。
存在しているのに世間に広まっていないということは、そうなるように働きかけている者がいるということ。
大衆の首根っこを抑え込み、無用な火種があればすかさず踏み消してはあれこれ規制し、社会全体の流れをも統制するほどの力を持つ。
それすなわち……
転生者がいて、転移者もいるこの世界。
いろんな知識や技術が持ち込まれ混在しているなかにあって、わりと簡単に再現できる紙芝居が見当たらなかった理由。
どうやらワガハイは気づかぬうちにトラの尾をムギュッと踏んでいたようである。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる