寄宿生物カネコ!

月芝

文字の大きさ
上 下
122 / 254

122 カネコ、マーケティング戦略を練る。

しおりを挟む
 
 勇者らに付き合ってダンジョンに潜ったり、えらい学者先生とふたりっきりで缶詰したり……
 気づけばこもりっぱなしにて、マスコットキャラクター化計画がすっかりおろそかになっていた。
 ワガハイがそうしている間にも事態は着々と動いている。
 商業ギルドのツバッキーくんは、ギルド関連のイベントにこまめに参加しては愛想を振りまき、女神フロディアを推すアロセラ教団の一派『女神フロディア普及委員会』はシークレットライブを開催しては、歌と踊りとハニートラップにより無垢な若者たちをたぶらかしている。

 現状をかんがみるに、ワガハイはこうにらむ。

「ここにきて支持層が明確に分かれ始めたのにゃん」

 ツバッキーくんは一般と大人向け。
 女神フロディアは大きなお友だち向け。
 では、ワガハイはどうか?
 主婦層からは掃除夫としてわりと人気がある。農家さんからも優秀な害獣駆除人として認知度はグングン上昇中。夜の公園の帝王として、お子さまたちからそれなりに人気がある……はず。

「ギルドの依頼を通じて今後も主婦層に働きかけるとして、問題は若年層にゃんねえ」

 たまにいっしょになって遊んでやっている。
 いじられキャラとしてそれなりに好評だが、仕事の合間に不定期ということもあり、訴求力は弱い。範囲も根城にしている公園を中心とした限定的なもの。
 あと忘れてはならないのが、子どもの移り気だ。あいつらは薄情である。
 よほどがっつり爪痕を残さないと、あっさり見限られる。それは変身ヒーローモノとか魔女っ娘モノとかのアニメや特撮番組が証明している。

 四クール、一年周期で新旧が切り替わるスパン。
 かつてはあれほどキャアキャア言っては夢中になって群がっていたくせに、新しいのが始まるとすぐにそちらへ乗り換える。

「やだやだ、あれ買って~」

 と、泣き喚いてせがんでいたグッズやオモチャには見向きもしなくなり、そちらも新しのを欲しがる。
 すべては番組スポンサーである玩具メーカーの策略なのだが、まんまと踊らされ喰い物にされる子どもたち。そして巷には散財させられる親御さんらの怨嗟の声が満ち充ちて……

 まぁ、それはさておき、ワガハイのことだ。
 完全に出遅れている、このままだと差が広がる一方である。
 そこで身近なところから押さえていこうと考え、ある作戦を実行しようと思い立つ。それは……

  〇

 昼下がりの公園。
 遊ぶ子どもたちで賑わっているところに、カランコロンと鳴ったのはベルの音。

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。紙芝居がはじまるにゃんよ~」

 これこそがワガハイの作戦である。
 ちなみに紙芝居とは、絵を見せながら演者が語るひとり芝居のようなもの。
 今風でいえば『めくり芸』とか『フリップ芸』の方がわかりやすいか。

 かつて一世を風靡し子どもたちを夢中にした紙芝居。
 紙芝居屋は人気者にて、彼らが公園や神社の境内、町内の空き地などにあらわれたら、たちまち子どもたちにて黒山の人だかりとなったものである。
 そんなかつての人気者も、テレビやマンガにゲームなど娯楽の変遷にともない次第に下火となり、いまや絶滅危惧種である。だがしかし――

 子どもへの絶大な影響力、洗脳力が極めて高いのだ。
 それゆえに戦時中には『国策紙芝居』なるモノも作られ、戦意高揚に活用されていたという黒い歴史を持つ。

 じつはけっこう怖い……かもしれない紙芝居。
 えっ、いまどきのませた子どもは、紙芝居ごときにさして影響を受けたりしないよって?
 たしかにそうだろう。
 でもそれは、ワガハイが人であった世界でのこと。
 元の世界は娯楽にあふれており選び放題であった。それこそ生涯を費やしても、すべてに触れるのは不可能にて、目移りするあまり取捨選択に頭を悩ませるほどだ。
 でもこっちの世界はどうだ?

 剣と魔法のファンタジーな世界。
 転生者などが持ち込んだ知識の影響をそれなりに受けてはいるものの、テレビもなければゲームもない。
 ゆえに耐性は皆無。
 こと娯楽というジャンルにおいては、ずぶの素人といっても過言ではない。
 そこへ紙芝居を投入する。もたらされる破壊力たるや、いかほどであろうか。
 ちょっと想像もつかない。

 ワガハイの考えた作戦は二段仕掛けである。
 まずは紙芝居にて子どもたちのハートをガッチリワシ掴みにする。
 続いて自費出版にて絵本を売り出す。
 なにゆえ絵本なのかといえば、紙芝居制作の延長で作れるからだ。
 覚えてよかった転写の魔法、大活躍である。
 でもって、この絵本もまた子どもへ絶大な影響力を持ち、洗脳力が極めて高かったりする。何度も目を通すことによる刷り込み教育も期待できる。

 こうして内と外から『カネコはかわいい』『カネコは素敵』『カネコはみんなの友だち』『カネコを大切にしよう』などの意識を浸透させるのだ。

 子どもは乾いたスポンジのようにいろんなことを吸収し、あっという間に大きくなる。
 その芯には『ワガハイを尊ぶべし』という考えが刻まれており、やがては『カネコはみんなで守らなきゃ』との想いを強く抱くという遠大かつ壮大なマーケティング戦略。

「にゃははは。ワガハイの未来は明るいのにゃあ」

 ワガハイはルンルンにて、さっそく集まってきた子どもたちに紙芝居を披露した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...