120 / 254
120 カネコ、魔術書の秘密を知る。
しおりを挟むサレーオの残した『魔術大全』は、見る者が見れば知識の宝庫である。
えらい学者先生いわく。
「百万冊の蔵書数を誇る大図書館と交換しても惜しくない。もしもワシが王であったら国と引き換えにしてもいいほどじゃ。これを巡って戦争が起こってもなんら不思議じゃない」とのこと。
――とんだ劇物だった!
だからワガハイはえらい学者先生が望むのならば、よろこんで進呈すると申し出るも、それはかなわない。
現在の所有者であるワガハイ以外の者を本自体が拒絶するのだ。
「ちょっと! ご主人さま以外は気安く触らないでよね、プンプン」
とばかりに、ふて腐れて重くなる。
どれぐらい重くなるのかといえば、特大ウォーハンマーを軽々とぶん回すギルド長をして「これはキツイな」と言わしめるほど。
ムキムキ自慢の受付のおっさんズもチャレンジしてみたが、みなわずかに持ち上げるのが精一杯であった。
ならば協力プレイにて複数で運ぼうとすれば、さらにドドンと重くなる。
どうやらかかわる人数に比例して自重も増すようだ。じつにいやらしい仕掛けである。
検証していくうちに、次々と明らかになる驚愕の事実――
例えば、本をその場に残してワガハイが移動すると、どうなるのか?
結果は、一定以上の距離が離れた時点で本が消えて、一瞬にしてワガハイの手元に戻ってくる、であった。
ダンジョンの最下層にいた鳥男のメンチキ、ヤツの所持していた戦斧と似たような機能が付与されているっぽい。
これにより『魔術大全』は転移魔法が使えることが発覚した。
ちなみにあの時にゲットした戦斧、いまはギルド長の部屋に飾られている。あんなのを振り回せるのは彼女だけだもの。
この本、すごい!
けど、なんかちょっと気持ち悪い!
だから窓から「えいやっ」と空に向けて思い切りぶん投げたら、くるくるブーメランみたいに返ってきた。
どうやらコイツは何があってもワガハイから離れるつもりがないようだ。
ならばと意地になったえらい学者先生が、魔力封じの陣に閉じ込めての隔離を試みる。
だが、ダメであった。
本からにょきっと手足が生えたとおもったら、やにわに動き出す。
物理的に陣を破壊し、すたこらと逃げ出した。
手足の生えた魔術書がタタタと駆け寄ってくる姿はホラーであった。
よほど魔力封じの陣に自信があったのだろう。
えらい学者先生はさらにムキになった。
今度は陣に加えて、物理結界を三重にかけたばかりか、溜め池の離れ小島に置くという処置を行った。
これにはさしもの『魔術大全』も屈するかとおもわれたが、さにあらず。
手足の生えた本がポンっとふたつに増えたとおもったら、そこからポンポンポポン!
爆発的に増殖し始めて、たちまち結界内を埋め尽くす。
ギュウギュウ詰めにてパンパンに膨らんだ結界。
ついに限界を迎えて内側からはじけた。
魔力封じの陣も蹂躙される。
そしてわずらわしい檻から解き放たれた本たちは、肩車にて連結合体をしたとおもったら、自分たちを橋として離れ小島より悠々脱出した。
さすがは叡智の結晶である書物、とってもおりこうさんである。
地面に埋めようが、氷に封じ込めようが、燃え盛る火にくべようが、アイテムボックスの機能を持つかばんに放り込もうが、商業ギルドが誇る金庫室に預けようが、ムダであった。
思いつくかぎりの方法を試してみたけれども、『魔術大全』はそのことごとくをはね返す。
とんでもないタフネス。
こいつならば、ダンジョン消失時にあらわれるという黒穴に放り込んでも生還しそう。
いや、きっと帰ってくるのにちがいあるまい。
がっくしうな垂れる、えらい学者先生。
もはや万策尽きた。
捨てても捨てても戻ってくる本。
ここまでいくとたんなる盗難防止というよりも、もはや呪いの類であろう。
ワガハイたちは、あらためて孤高の天才の凄さを思い知らされた。
「悔しいが、譲渡はムリそうじゃ。とりあえず中身だけでも転写しておこう」
と、えらい学者先生。
これにワガハイはしっぽをピンと立てる。
ぜひとも身につけたいとおもっていた転写魔法、それがじかに拝めるとあって、シメシメである。
だがしかし――
「な、なんじゃと、複写禁止……」
ビープ音がして魔法がはじかれた。
えらい学者先生は愕然とする。
コピーガードまで施されていることに、ワガハイもびっくり。
「ぐぬぬ、こうなったらしょうがない。コツコツ書き写すしかあるまい」
「書き写すって、いったい何ページあるとおもってるのかにゃあ」
ちゃんと確認はしていないけど、六千ページは優に越えているだろう。
それを手書きで全部写す? ジジイ正気か?
「みなまでいうな……それでも、それでもやるしかないのじゃ」
えらい学者先生の決意は固く、翻意させるのはむずかしそう。
とてもではないが、付き合っていられない。
だからワガハイはそろりそろりと逃げようとするも、バンッ!
見えない壁に阻まれて、そこから先に行けなかった。
結界である。貼ったのはもちろんえらい学者先生だ。
「おいおい、どこへ行くつもりだ。まだ指名依頼の途中じゃぞ」
えらい学者先生がにへらと悪魔の笑み。
にゃーっ!
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる