寄宿生物カネコ!

月芝

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120 カネコ、魔術書の秘密を知る。

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 サレーオの残した『魔術大全』は、見る者が見れば知識の宝庫である。
 えらい学者先生いわく。

「百万冊の蔵書数を誇る大図書館と交換しても惜しくない。もしもワシが王であったら国と引き換えにしてもいいほどじゃ。これを巡って戦争が起こってもなんら不思議じゃない」とのこと。

 ――とんだ劇物だった!
 だからワガハイはえらい学者先生が望むのならば、よろこんで進呈すると申し出るも、それはかなわない。

 現在の所有者であるワガハイ以外の者を本自体が拒絶するのだ。

「ちょっと! ご主人さま以外は気安く触らないでよね、プンプン」

 とばかりに、ふて腐れて重くなる。
 どれぐらい重くなるのかといえば、特大ウォーハンマーを軽々とぶん回すギルド長をして「これはキツイな」と言わしめるほど。
 ムキムキ自慢の受付のおっさんズもチャレンジしてみたが、みなわずかに持ち上げるのが精一杯であった。
 ならば協力プレイにて複数で運ぼうとすれば、さらにドドンと重くなる。
 どうやらかかわる人数に比例して自重も増すようだ。じつにいやらしい仕掛けである。

 検証していくうちに、次々と明らかになる驚愕の事実――

 例えば、本をその場に残してワガハイが移動すると、どうなるのか?
 結果は、一定以上の距離が離れた時点で本が消えて、一瞬にしてワガハイの手元に戻ってくる、であった。
 ダンジョンの最下層にいた鳥男のメンチキ、ヤツの所持していた戦斧と似たような機能が付与されているっぽい。
 これにより『魔術大全』は転移魔法が使えることが発覚した。
 ちなみにあの時にゲットした戦斧、いまはギルド長の部屋に飾られている。あんなのを振り回せるのは彼女だけだもの。

 この本、すごい!
 けど、なんかちょっと気持ち悪い!

 だから窓から「えいやっ」と空に向けて思い切りぶん投げたら、くるくるブーメランみたいに返ってきた。
 どうやらコイツは何があってもワガハイから離れるつもりがないようだ。

 ならばと意地になったえらい学者先生が、魔力封じの陣に閉じ込めての隔離を試みる。
 だが、ダメであった。
 本からにょきっと手足が生えたとおもったら、やにわに動き出す。
 物理的に陣を破壊し、すたこらと逃げ出した。
 手足の生えた魔術書がタタタと駆け寄ってくる姿はホラーであった。

 よほど魔力封じの陣に自信があったのだろう。
 えらい学者先生はさらにムキになった。
 今度は陣に加えて、物理結界を三重にかけたばかりか、溜め池の離れ小島に置くという処置を行った。
 これにはさしもの『魔術大全』も屈するかとおもわれたが、さにあらず。

 手足の生えた本がポンっとふたつに増えたとおもったら、そこからポンポンポポン!
 爆発的に増殖し始めて、たちまち結界内を埋め尽くす。
 ギュウギュウ詰めにてパンパンに膨らんだ結界。
 ついに限界を迎えて内側からはじけた。
 魔力封じの陣も蹂躙される。
 そしてわずらわしい檻から解き放たれた本たちは、肩車にて連結合体をしたとおもったら、自分たちを橋として離れ小島より悠々脱出した。
 さすがは叡智の結晶である書物、とってもおりこうさんである。

 地面に埋めようが、氷に封じ込めようが、燃え盛る火にくべようが、アイテムボックスの機能を持つかばんに放り込もうが、商業ギルドが誇る金庫室に預けようが、ムダであった。
 思いつくかぎりの方法を試してみたけれども、『魔術大全』はそのことごとくをはね返す。
 とんでもないタフネス。
 こいつならば、ダンジョン消失時にあらわれるという黒穴に放り込んでも生還しそう。
 いや、きっと帰ってくるのにちがいあるまい。

 がっくしうな垂れる、えらい学者先生。
 もはや万策尽きた。
 捨てても捨てても戻ってくる本。
 ここまでいくとたんなる盗難防止というよりも、もはや呪いの類であろう。
 ワガハイたちは、あらためて孤高の天才の凄さを思い知らされた。

「悔しいが、譲渡はムリそうじゃ。とりあえず中身だけでも転写しておこう」

 と、えらい学者先生。
 これにワガハイはしっぽをピンと立てる。
 ぜひとも身につけたいとおもっていた転写魔法、それがじかに拝めるとあって、シメシメである。
 だがしかし――

「な、なんじゃと、複写禁止……」

 ビープ音がして魔法がはじかれた。
 えらい学者先生は愕然とする。
 コピーガードまで施されていることに、ワガハイもびっくり。

「ぐぬぬ、こうなったらしょうがない。コツコツ書き写すしかあるまい」
「書き写すって、いったい何ページあるとおもってるのかにゃあ」

 ちゃんと確認はしていないけど、六千ページは優に越えているだろう。
 それを手書きで全部写す? ジジイ正気か?

「みなまでいうな……それでも、それでもやるしかないのじゃ」

 えらい学者先生の決意は固く、翻意させるのはむずかしそう。
 とてもではないが、付き合っていられない。
 だからワガハイはそろりそろりと逃げようとするも、バンッ!
 見えない壁に阻まれて、そこから先に行けなかった。
 結界である。貼ったのはもちろんえらい学者先生だ。

「おいおい、どこへ行くつもりだ。まだ指名依頼の途中じゃぞ」

 えらい学者先生がにへらと悪魔の笑み。
 にゃーっ!

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