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119 カネコ、ストーキングされる。
しおりを挟むほら、ネコがゴロニャ~ンとまとわりついては甘えてくるのって、とってもかわいいじゃない?
でもね。
あれってネコがやるからかわいいんであって、他のヤツがやったらぜんぜんかわいくないの。
とくに、まとわりついてくるのがジジイの場合、相手はお年寄りだから邪険に扱えないもので、余計にストレスが貯まってしょうがない。ぐぬぬ。
ワガハイ、またぞろヘンなのに懐かれた。
誰かってアレだよ、アレ、例の王都からやってきたというえらい学者先生。
えらい学者先生はカネコと、カネコが所有する『魔術大全』とゴーレム技術に興味津々だ。
ことあるごとにつきまとわれては、あれこれ詮索してくるので、すっかり辟易している。
「いい加減に、どうにかして欲しいにゃん!」
ギルド長に訴えるも、逆に「あんなのでも顔はべらぼうに広いし、いまだに各方面への影響力も絶大だ。くれぐれも粗相のないようにな。
まぁ、適当につきあってやってくれ。そのうち飽きて他のモノに目移りするから」
と言われて、ワガハイは眉尻を八の字に下げて「にゃ~ん」
そんなえらい学者先生は、ワガハイの行く先々に出没する。
ときには仕事先にまでついてくる。
こちらの視界にギリギリ入るか入らないか、絶妙なところにポジショニングしては、観察しつつ、熱心に手帳にメモをとっている。
はたから見たら、完全に不審者だ。
なのに周囲は何も言わず騒がず。いつもならば呼ばなくても飛んでくる、あの獣人の婦警さんもあらわれないのは、ジジイが魔法でうまくカモフラージュをしているから。
長らく教職をやっていただけあって、魔力の扱いがとても上手い。だから姿を消すのなんてお手のもの。
しかしワガハイの目はごまかせない。
髭がビビビと震えては、えらい学者先生が近くに潜んでいることを教えてくれる。
というか、いくら姿を隠し気配を消そうとも遠慮のない熱視線がズブズブ突き刺さるので、厭でもわかっちゃう。
とどのつまり、ストーキングに気がついてイライラするのはワガハイだけという状況なのであって、不利益をこうむっているのもワガハイのみ!
そんな状況が七日ばかり続いたところで、ついにワガハイは根をあげた。
「もうかんべんして欲しいのにゃん。これを貸してやるから、しばらくそっとしておいて欲しいのにゃあ~」
生贄として差し出したのは、サレーオの遺作となった『魔術大全』である。
えらい学者先生はもちろん大喜びにて、この取引に飛びついた。
だがしかし、ここで予想外の出来事が起こる。
本を受け取るなり、えらい学者先生が「ぎゃっ」
大判の本に押し潰されるような格好となって、地面にべちゃり。
「お、重い~」
えらい学者先生が本の下でジタバタもがいている。とても苦しそう。
だがこの光景にワガハイは首をひねるばかり。
なぜなら『魔術大全』はセクシー女優の写真集ぐらいの大きさにて、厚さが広辞苑の倍ほどもあり装丁もゴテゴテしているけれども、見た目に反してとっても軽いのだ。そういう付与魔法が施されている。
なのにこれいかに?
〇
助け出されたえらい学者先生が、ワガハイの疑問に答えてくれた。
「やれやれ、えらい目に合ったわい。にしても、急に重たくなったか……。だとすれば、この本には軽量化だけでなく、持ち主以外の者が触れたらズンと重くなるという過重の魔法がかけられているようだな。たぶん盗難対策なのだろう。
詳しい仕組みは調べてみないとわからんが、おそらくは表紙に散りばめられているこの宝石のうちのどれかが、その役割りを担っているのだろう」
えらい学者先生の推察を聞いたところで、ワガハイは「あっ」
思い出したのは本の扉のページに書かれてあったサレーオ直筆の文言。
『いつの日か、この地を訪ねし者に、我が生涯の研究成果を託す』
孤高の天才にしておそらくは転生者であろう男の遺著にして、彼が生涯をかけた研究の集大成。
託すうんぬん……てっきり概念的なことかとおもっていたのだけれども、ちがったらしい。
サレーオの死後、最初に発見して本のページを開いたワガハイに、『魔術大全』は継承され、所有権が自動で譲渡されていたっぽい。
「う~む、そんな幸運に恵まれるとは心底うらやましいのぉ。ますますもって興味深いわい。ぜひとも研究したい! 研究したいぞー!」
さっき痛い目にあったばかりなのに、ちっとも懲りてない。
そしてその飽くなき探求心ゆえに、えらい学者先生が面倒なことを言い出した。
「よし、決めた! ギルドに依頼を出すぞ」
ワガハイへの指名依頼。
内容は『魔術大全』の研究調査をしたいので、協力してとことん付き合うこと。
こちらの都合なんてお構いなしだ。
年寄りは言い出したら聞かないもので、ワガハイは「うげぇ」とおもいきり顔をしかめた。
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