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117 カネコ、魔改造の夜。
しおりを挟むワガハイは『魔術大全』をチラチラ見ながら、黙々と床に魔法陣を描き写す。
これはゴーレム錬成のためにサレーオが考案した専用の陣だ。
必要な材料と大量の魔力を「ムムム」と注ぎ込めば、チ~ンと完成する優れもの。
とにもかくにも、これがないと始まらない。
でもひさしぶりなのでペン先が震える。勘を取り戻すまでちょっと手まどう。
「うにゃーっ! また間違えた!」
失敗した箇所をゴシゴシ肉球でこする。
そして「ふぅ」とひと息ついてから、また描き直す。
ひたすらこれのくり返し。
地味で面倒な作業だがしょうがない。
なにせ精確に描かないと誤作動を起こすからだ。線が歪んだり、途切れたり、誤植があるとうまく起動しない。
というか、たまにドカンと爆発するから注意が必要である。
ワガハイも何度か痛い目にあっている。
もう、チリチリパーマになるのはゴメンである。
魔法やら魔道具があるこの世界。
サクっと魔法とかでコピーができたら便利なのだけれども。
じつはそういう魔法もあるらしいのだが、あいにくとワガハイは使えない。『魔術大全』のなかに、それらしい記載はあるものの、難解かつくどいいい回しと専門用語だらけにてチンプンカンプン。
ギルド職員のなかには『転写』の魔法を使える者がいるそうなので、ぜひとも教えてもらいたいのだが、職員たちはいつも忙しそうにしており、なかなか声をかけづらいのだ。
〇
「ん~、ようやく描けたのにゃあ」
のびをして、凝り固まった背中や腰回りの筋肉をほぐす。
苦労して仕上げた魔法陣はふたつ。
大きいのと小さいの。
大きい方は車体などのパーツを仕上げるためのもの。
小さい方は細かいパーツ用だ。
まずは小さい方の魔法陣を使って、ミニゴーレムたちを作成する。
彼らはカネコモービルの動力にして心臓となるので、ここはドーンと惜しみなく上質な魔晶石と素材を使う。
魔力もドバドバ注ぎ込み「錬成だにゃん!」
ペカーッと光る魔法陣に、用意した材料がズブズブと沈んでいく。
しばらく震動と明滅が続いたのちに、チ~ンとの音がして白煙とともにあらわれたのは新生ミニゴーレムである。
鈍く輝くボディは特殊な合金製。以前のフォルムはちょっとずんぐりむっくりでコミカルだったのが、より走りやすいようにとスプリンターばりのシュッとした体つきとなった。
内臓している魔晶石もひとつから、ふたつにすることでより高出力を実現する。
新旧の性能比は、なんと驚愕の二百パーセント越え!
加えて蓄積されたデータがある。データは無事に移行された。いままで以上の活躍が期待できるだろう。
さらにこれまでは六体のミニゴーレムにてゴーレム駆動を運用していたが、これを十体に増やす。
よう六馬力が十馬力になったようなものだ。
なおベルトコンベア式はそのままに。
シャカシャカシャカシャカ……
倉庫の隅から響くのは、ベルトが回っている音。
ミニゴーレムたちだ。
新たな体に慣れるために、ただいま試走中。
ついでに足並みを揃え連携を深めるべく練習も兼ねている。
新生ミニゴーレム組はやる気をみなぎらせている。
そんなシャカシャカ音をBGM代わりに、ワガハイは本体の製造に着手する。
といっても基本構造は同じなので、各種パーツの強度をあげるぐらいだから、サクサク進める。
でもって、あとは車体のデザインをどうするかだ。
「一号機は近未来的な流線形フォルムだったけど、二号機も同じだと芸がないのにゃあ~」
悩ましいところだ。
カッコよさはもとより、ボディの形状により空力特性が変わるので、操作性も変わってくる。
屋根付きにするのならば、いっそのことレーシングカーやラリーカータイプもアリかもしれない。
張り出したフロント部分にゴーレム駆動を搭載し、大型のリヤウイングを生やし、ボンネットを低くめに設定し、空力特性を活かしたスタイルを実現する。
しかしストリートの走り屋スタイルも捨てがたい。
峠のコーナーとかをガンガン攻めるアレだ。
レーシングタイプに比べると空力抵抗が大きいものの、マイルドな操縦性と直感的に走らせやすいのがメリットだ。
ミニ四駆業界でいうところの実車系というデザインのボディ。
昔からあるオーソドックスなバギータイプもやっぱりいいな。
こちらは悪路をものともしないのと、いろんな状況に対応できる汎用性が魅力だ。砂利道を土煙をたなびかせながら爆走する姿は、じつに素晴らしい。
もしくは実用性やら空気抵抗なんぞは完全にムシして、見た目重視で趣味に走るのもアリといえばアリなのだが……
とりあえず、いくつか地魔法で粘土をこねては見本の模型を造ってみた。
それらを「う~ん」と見比べつつ、「じつに悩ましい問題なのにゃあ」
ワガハイの魔改造の夜は、まだまだ続く。
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