寄宿生物カネコ!

月芝

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114 カネコ、箱に入る。

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 それはいつもと代わり映えのしない、ある晴れた日のことであった。

「にゃん、にゃん、にゃにゃん♪ にゃん、にゃん、にゃにゃん♪」

 ワガハイが鼻歌まじりにて通りを歩いていたら、道端に木箱が落ちていた。
 幅110センチ、縦長140センチぐらいにて軽トラックの荷台よりもふた回りほど小さい。足下にはコロがついている。あまり見かけないタイプだが、どうやら荷運び用のモノのようだ。
 塗料ははげており、ところどろこ傷みが目立つ。
 一時的に置いてあるというよりかは、放置しているといった風にて。

 そんな木箱を前にして、ワガハイはムズムズ……
 どうにも辛抱たまらなくなり、おずおずと右前足を入れてみる。

 ギチリッ。

 肉球にじょじょに力を込めては、箱の状態を確認する。
 見た目はボロい。だが、おもいのほかに頑丈のようで、少なくとも底が抜けるようなことはなさそう。木材にささくれがないのも善き哉。
 だからワガハイは、箱の中へとそろりそろり入っていく。
 ぶっちゃけ狭い。体を丸めて縮こまってどうにか納まるかといったところ。
 アムールトラほどもある大きさのカネコにとっては、いささか窮屈な空間だ。
 なのに妙に心地いい……

 寄宿生物カネコは、ネコっぽい生き物である。
 額に第三の目があったり、シッポが三本あったり、各種異能力が使えたりと、いろいろ差異はあれども、ベースはネコだ。
 えっ、むしろトラじゃね?
 いいや、誰がなんと言おうともネコである。それ以外は断じて認められない。それに根拠ならばある。
 だって神さまがおっしゃってらしたもの、『ネコっぽいの』って。
 ゆえにこれを否定することは、天にツバするのも同じである。

「あ~、このギュウギュウ具合がとってもいい感じだにゃあ~」

 そういえば……あれはワガハイがまだ人の身であった頃。
 ネットサーフィンがてらウッフンな大人のサイトを巡っていたら、ふと目にしたのが『猫鍋』というワードである。
 すわっ! ネコを食うのか。
 と驚き、あまりのインパクトについ釣られてポチったら、辿り着いたリンク先にてアップされていたのは、土鍋の中にて丸まるネコの姿であった。愛い愛い。
 ネコは狭いところが好き。
 ペット用品のメーカー各社が、知恵を絞り技術を結集して世に送り出したネコ用のオモチャ類が、通販のダンボール箱に敗北するなんて話もよく耳にする。

 では、どうしてネコは狭いところを好むのか?
 諸説あるが、一番の理由は狩猟本能ゆえとのこと。
 獲物を狙い、敵から身を隠し、危険から己を守るための行動。
 他には、フィット感が安心できるからとか、獲物を確保するためとか、獲物を独り占めするためとか、暑さ寒さ対策とか、生来のぼっち気質ゆえにとか……
 本当のところはわからない。
 しょせんは人間側の勝手な解釈だ。

 そして、いざネコとは一文字ちがいのカネコとなったワガハイとしての考えは……

「だってしょうがないじゃない。好きなんだもの」

 である。
 パズルのピースがはまるかのごとく、しっくりくる。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 言葉ではうまく説明できない。
 雨が降れば大地が潤い、雨あがりの空には虹がかかるように。
 ネコもカネコも狭いところにすっぽり納まる。
 理屈ではない。
 云わば、これは必然……

 なんぞと考えながら、ワガハイが箱の中でモゾモゾしていたら、何やら視線を感じた。
 顔をあげれば、こちらを見ている幼女とばっちり目が合った。
 歳の頃は五歳前後、類人の女の子だ。服装は淡い黄色のワンピースにて、足下はサンダル。
 見覚えがない顔である。おそらくワガハイが根城にしている公園近辺の子ではないのだろう。
 そんな幼女がジーっとこちらを見ている。
 あんまりにも見つめてくるから、「何か用かにゃん?」と訊けば、「……ソレ、楽しいの?」と訊ね返された。

 だからワガハイはキリリと真顔で「めっちゃ楽しい」と答えると、「だったらわたしもやる!」と言って幼女がよちよち木箱のふちを乗り越えようとする。
 その動きがどうにもたどたどしく、ハラハラして見ちゃいられない。
 だからワガハイはしっぽを使って幼女をひょいと抱きあげ、箱の中へと招き入れてやった。

 カネコといっしょに木箱に納まった幼女。
 しばらくキャッキャとはしゃいでいたとおもったら、急に静かになった。
 どうしたのかとおもったら、スヤスヤと安らかな寝息を立てているではないか。
 ワガハイは「やれやれ」と肩をすくめつつ、起こさないようにじっとしているうちに、なんだかこっちも眠くなってきたもので「ふわぁ~」
 大あくびにてついウトウト、ワガハイも舟を漕ぎ始める。


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