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112 カネコ、やらかす。
しおりを挟む幾多の強敵どもを屠ってきた必殺カネコビーム。
今世が始まって以来、一番気合いを入れて放った。
その結果……
ワガハイは「あっ、やばいのにゃん」
思った以上に気合いと魔力が入りすぎていたらしくて、通常版に比べるとずいぶんとゴン太なカネコビームが解き放たれる。
例えるならば、電信柱と通天閣ぐらいもの差がある。
見た目もさることながら、威力の方もすぐに明らかとなった。
シュビビンと発射されたゴン太カネコビーム。
崩壊するダンジョンから逃げるべく、入り口へと向かっていた敵勢を蹴散らしたのみならず、ダンジョンそのものをも豪快に貫く。
その破壊力、快進撃は凄まじく、一階層から十階層をあっさりぶち抜いたばかりか、台地そのものをも抉り、ついには貫通した。
だが、まだまだ終わらない。
余波でもって台地の後方に広がる砂の海を盛大に割り、彼方にてキノコ雲を出現させたばかりか、一帯の地層をズタズタにし、この台地を支える地盤にも深刻なダメージを与えた。
かくしてスタンピードは未然に防がれたものの、勇者一行やギルド長らの活躍がすっかりかすんでしまった。
ばかりか……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
まるでこの世の終わりのような地鳴りがして、台地全体が震えて悲鳴をあげる。
このタイミングで一斉に飛び立ったのは、翼や羽根を持つ生き物たち。危険を察知していち早く逃げ出したのだ。地をちょろちょろしている小動物たちもそれにならう。
それに前後して、そこかしこに地割れが生じ始めた。地すべりや隆起に陥没も起こる。
幾筋もの土煙が立ち昇り、舞い上がった粉塵にて空がたちまち曇っていく。
ダンジョンの前にたむろしていたテント街、こちらでも絶賛被害が拡大中。
激しい揺れのせいで、いくつもの屋台や天幕がバタバタと倒壊していた。複数ヶ所で同時に火事が起こり、悲鳴や怒号が起こる。
火を消している余裕なんてない。延焼する一方にて、揺れもますます強くなっていく。
さなかに――どんっ!
ひと際大きな突き上げがきた。
台地に残っていた者らは、誰も彼もがぴょんと跳ねた。
この事態を目の当たりにし、「ヒィイィィィ~、もうダメだぁーっ」と誰かが叫んだ。
それを皮切りにして、あわよくばひと稼ぎしようと居残っていた冒険者らは、こぞって退避を開始する。日和見を決め込んでいた連中も泡を喰って逃げ出した。
えっ、ワガハイたちはどうしたのかって?
ははは、もちろん逃げるに決まってる!
カネコモービルはすでに限界だったので、「ごくろうにゃん」とアイテムボックスに収納する。
こうなれば頼れるのは己の足のみ。
それはみんなもいっしょ。
だから誰もが死に物狂いとなり、懸命に走って逃げた。
〇
高さ百メートル近くを誇った威容が見る影もない。
城塞都市トライミングがすっぽりおさまるほどもあった超大な岩の塊。
他所よりも一段高くなっており、四方を崖でふちどられた台状の地形にて、近在の鳥類や翼竜などが生息し、珍しい植物なども自生していた。
トライミングからは東に二日ほどの距離にあって、採取依頼などを受けた冒険者がちょくちょく訪れていた場所。
それが崩壊した。
いや、これはもう地殻変動といっても過言ではなかろう。
およそ原型を留めぬほどにまで、台地は瓦解した。
さらには地盤沈下まで起きて、そこにどっと押し寄せてきたのは大量の砂である。
これは台地の背後にあった砂の海から流入してきたもの。
カネコビームがズバッと抉って刻まれた溝が、用水路の役割りをはたして、砂を呼び込むことになってしまったらしい。
結果、新たに誕生したのが枯山水(かれさんすい)のような光景である。
ちなみに枯山水とは、水を一切使わない庭園の様式で、石、砂、草木を使用して山や海などの雄大な自然風景を表現する日本庭園のひとつのこと。禅寺とかに行ったら、たいていあるので興味のある方は是非。
すっかり変わり果てた光景に、一同あんぐり。
誰もが言葉もでない。
なお余談だが今回の大惨事、中軽傷者は多数出たものの、奇跡的に重傷者や死者は無し。
聖女なんかは「これぞ女神フロディアさまの恩寵の賜物」なんぞと、ここぞとばかりに吹聴しては人心を惑わしていたけれど、それはたぶんちがう。
人的被害が最小限に留められたのは、ギルド長の英断によるところが大きい。彼女が事前に避難勧告を発令していたから、この程度で済んだのだ。
あとそれを無視して残っていたのが、辺境の冒険者のなかでもとりわけタフで実力がある猛者であったから助かったのであろう。
トライミングの冒険者ギルド支部のレベルはかなり高い。土地柄、優秀な者が多く在籍しているのだ。
そんなギルド長だが、さっきからジーっとワガハイのことをにらんでいた。
ワガハイは「ヒュウヒュウ」口笛を吹いては、とぼけていたのだけれども、そうしたらギンっと殺気が飛んできたもので、ビクリ。
で、ばっちり目があったらギルド長が、声を発することなく唇だけを動かしては、こう伝えてきた。
『あとで話がある。もしもバックレたら剥製にして売るぞ』
にゃ~ん。
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